日本人の1000人に1人が発症している「パーキンソン病」、その原因や症状について医師が解説

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国内に15万人以上の患者がいると言われている「パーキンソン病」、その顕著な症状は手の震えです。しかし、手の震えには病的なものもあれば、自然な生理現象による震えもあるそうなので、素人の理解の範疇を超えてしまいます。そこで、「医療法人社団NALU」の尾粼理事長に、パーキンソン病についてわかりやすく教えていただきました。

監修医師:
尾粼 聡(医療法人社団NALU 理事長)

山口大学医学部卒業、山口大学医学部大学院修了。その後、各医療機関で脳神経外科医としての経験を積んだ後の2014年、神奈川県海老名市に「えびな脳神経外科」開院。法人化に伴い、「NALU」理事長就任。脳の病気の予防や後遺症、生活障害にも注力した地域診療を提供している。医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

脳の病気が運動障害として現れ、認知症に至ることも

編集部

パーキンソン病は、高齢者に多いのですか?

尾粼先生

はい。若年性パーキンソン病も含めた全体の罹患率は「約1000人に1人」です。ところが、60歳以上のパーキンソン病罹患率は「約100人に1人」ですから、10倍に跳ね上がります。

編集部

体をうまく動かせなくなる病気というイメージがあります。

尾粼先生

パーキンソン病の典型症状は、「震え」、「筋肉の凝り固まり」、「歩行障害や動作の遅さ」、「姿勢が悪くなることによる転びやすさ(姿勢反射異常)」の4つです。しかし現実には、情報を伝える脳内物質の減少によって各種運動障害が起こるので、パーキンソン病は「脳の病気」の一種と言えます。

編集部

症状としては、運動障害だけでしょうか?

尾粼先生

いいえ。自律神経の乱れによって、尿や便のコントロールができなくなったり、発汗異常が生じたりします。また、幻覚や妄想、うつ病に似た状態も多くみられます。認知症と間違えられることもありますね。

編集部

「パーキンソン病認知症」という分類を聞いたことがあります。

尾粼先生

パーキンソン病の患者さんの約8割が一生のうちにパーキンソン病認知症を発症するとされています。パーキンソン病がどこかのタイミングで認知症に切り替わるのではなく、パーキンソン病の症状の中に認知症が加わってくるイメージですね。前述の運動障害に加えて、例えば食べ物ではないモノを食べてしまうような認知低下が認められると、パーキンソン病認知症とみなされます。

完治は望めなくても、生活に折り合いを付けることが大切

編集部

パーキンソン病は治るのですか?

尾粼先生

今のところ、確立された根治治療はありません。症状を軽くするための治療がおこなわれているのみで、難病にも分類されています。その一方で、治療の進歩により、寿命を左右する病気ではなくなりつつあります。むしろ、寝たきりになってからの合併症や感染症によって亡くなることの多い病気です。

編集部

先ほど、脳内物質の減少が原因という話がありましたが、補うことはできないのでしょうか?

尾粼先生

できます。薬で脳内物質を補う進め方が治療のメインです。また、脳内物質は自然に分解されていってしまうので、その流れをブロックする薬もあります。ほかにも、脳を電気刺激する方法や運動療法などが一部で試みられているものの、根本治療とは言えない印象です。

編集部

日常生活で気をつける点はありますか?

尾粼先生

基本的に「ならない」予防という考えはなく、「進行」の予防がメインになります。運動、睡眠、食事、薬が基本です。例えば、運動障害によって筋力が低下して寝たきりになると、悪循環に陥ってしまいます。このような場合、リハビリの有効性が証明されています。また、「床に目印を置いた方が歩きやすく感じる」などの経験則が蓄積されていますので、専門家とタッグを組んで取り組むようにしましょう。

編集部

やり方によっては、パーキンソン病の進行を遅らせることができるということですか?

尾粼先生

正確に言うと、「パーキンソン病によって起こる生活しにくさを改善できる」でしょうか。運動障害が残ったままでも、「どうすれば階段を上りやすくなるか」などといったコツを覚えれば、生活しやすくなるはずです。こうすることにより、寝たきりへの悪循環が断ち切れます。

進行を止めるなら早い段階で

編集部

いずれにしても早期発見が要となりそうですね?

尾粼先生

はい。パーキンソン病は「手足の震えからはじまる」ことが多い傾向にあります。初期には必ず左右差があり、安静時に強くなることも特徴の1つです。コップの水を取りにいく動作中よりも、そのまま持っているときに震えます。そのため、これらの症状を自覚したら疑ってみましょう。

編集部

高齢者の中に手の震えている人がいると思いますが、パーキンソン病なのでしょうか?

尾粼先生

震えの種類にも色々あるということですよね。素人の方が自己分析するよりは、勘違いでもいいので、早々に受診してください。パーキンソン病かどうかは、医師が判断します。震えに1つ加えるとしたら、動作の遅さです。以前と比べて徒歩に時間がかかるようになったとか、洗濯物の取り込みに手間取るようになったとか、そういった緩慢さがパーキンソン病の目安になります。

編集部

パーキンソン病の治療に対して今後、どのような点が期待できますか?

尾粼先生

臨床段階ですが、脳神経の再生医療によって、脳内物質をつくりだせるようにする試みがはじまっています。再生医療が奏功すれば、脳内物質の分解をブロックするお薬だけで済ませられるか、そもそもの薬が不要になることが将来的には期待できます。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

尾粼先生

仮に歩行速度が遅くなったとして、単なる筋力低下によるものなのか、関節の疾患なのか、それともパーキンソン病なのかは、なかなか判断できないと思います。そこで迷ったり時間を費やしたりするよりは、受診して明確にしましょう。病気だとしたらパーキンソン病が怖いので、まずは脳神経内科にご相談ください。

編集部まとめ

手が震えだしたからといって、ただちにパーキンソン病だとは断じきれません。ただし、その可能性もあるということです。ここは素直に受診するべきで、生理現象なら安心していられますし、本当にパーキンソン病であれば早期の治療開始がおこなえます。どちらを取っても損がないとしたら、早期の受診をしない手はないでしょう。

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