村元哉中&盒饗臺紊見せた「超進化」。全日本2位も「悔しいけど、成長は誇りにしたい」
12月25日、全日本フィギュアのフリーダンスに臨む村元哉中&郄橋大輔
ーー26日夜(翌日夜)の北京五輪選考発表まで、どう過ごしますか?
記者の質問に、郄橋大輔は愛嬌よく笑って答えた。
「マジでわかんないです!」
アイスダンスの北京五輪選考基準は1枠で、小松原美里・尊組と同点になっていた(日本スケート連盟が発表した4項目で2対2)。
「ふたを開けるまでわかんないというか。だから、あまり考えないように、考えても仕方がないので。今は(やってきたことを)ポジティブに捉え、(選んでいただけたらうれしいなって)思っています。それに、緊張感から解放されたので、今日はクリスマスを楽しみたいなって」
「メリークリスマス!」
席から立ち上がった郄橋は、人数制限で集まったメディアに対し、最後に明るく言った。村元も同じあいさつを重ねた。ふたりの呼吸は合っていた。
その冒険は、北京五輪へ続くのか。
フリーダンスの得点は1位、総合では2位だった
【アイスダンスの定石を覆す】
12月25日、さいたま。全日本選手権のアイスダンス、フリーダンス(FD)の5分間練習で、郄橋と村元は手をつないでリンクに入っている。中央で名前がアナウンスされるのを待つ間、ふたりは向かい合って両手をつなぎ、目を見つめ続けていた。気持ちを通わせ、高める。
「アイスダンスは時間が大事」
それが定石のなか、ふたりは濃密に時を過ごし、不可能を可能にしてきた。キャリア2シーズン目にして、グランプリ(GP)シリーズ・NHK杯、ワルシャワ杯と立て続けに日本歴代最多得点をたたき出している。おとぎ話に近い展開だ。
勢いを得て乗り込んだはずの全日本、自信を持っていた(23日の)リズムダンス(RD)で、まさかの転倒だった。それが響き、2位発進となっていた。
「(RDを終えた後のメンタル面の問題は)僕はめちゃくちゃありましたね」
郄橋は正直に告白した。
「昨日の練習(FD前日の練習)では、コントロールができないくらいに(気持ちが)バラけてしまって。切り替えていたつもりだったんですが、できていなかったですね。どうしたの? っていうくらい、自分は焦っていて」
気持ちが大きく揺さぶられるほど、その一本に懸けていたのだろう。
【ふたりがつむぐ氷上の物語】
しかし本番、郄橋は場数の違いを見せた。5分間練習は表情にやや固さが残っていたが、試合でスタートポジションについた途端、完全に迷いは吹っきれていた。シングル時代、世界トップで戦ってきた賜物か。
夢のなかでふたりが恋にふける『ラ・バヤデール』の世界を、かなだいは氷上に演出した。コンビネーションスピン、ストレートラインリフトで拍手の音が高まって、ワンステップシークエンスからローテショナルリフトと曲のテンポが速くなるにつれ、ふたりは激しく愛を重ねた。バイオリンに合わせ、ツイズルをくるくると鋭く回る。その調和は成長の証だろう。エッジワークは深く、体も極限まで倒し、動きを大きく見せていた。
「アイスダンスでは姿勢だったり、傾斜だったり、それが少しでもずれるとカーブが変わってくるので、そこは気をつけていますね」
シーズン前のインタビュー、郄橋はスケーターとしての進化を口にしていた。
「足を上げた時、つま先の伸ばし方とか、そこも合わせないと。シングル時代より、お互いがきれいに見える位置を磨かないといけない。細かい神経を全身まで張り巡らせていると、ただ滑るだけでも、毎日の積み重ねできれいに映るようになってくるのかもしれません」
旋律に乗ってコレオを情熱的に決めたあと、かなだいは顔をほころばせて抱き合った。スタンドのスタンディングオーベーションに、どちらも丁寧に応えた。その姿に一層、拍手が大きくなった。
ふたりは氷の上に物語を作っていた。
「今日のフリーは何も考えず、かなだいの世界を思う存分、表現するっていう気持ちで滑りました」
村元はそう振り返った。
「細かいミスはありましたが、ほとんど気にならず。滑っていて気持ちよかったので、自分たちへのクリスマスプレゼントになったかなと思います。リズムダンスは、その日は悔しかったし、落ちたというより、はぁーというか。でも、私は意外とすぐに切り替えられて、終わってしまったことは仕方ないし、マリーナ(・ズエワ)コーチにも『切り替えが大事』とは言われていたので」
かなだいは、FDを滑りきった。112.96点はFDで1位。劇的な巻き返しを見せた。
ただ総合では176.31点で、1位とわずか1.86点差の2位だった。
「マリーナには、今日の(試合の)朝に『Enjoy life』って言われました。スケートとか全部、1日を楽しみなさいって意味で。今日できることは、全力でできました!」
村元は暗さのない声で言った。最善は尽くしていた。
【五輪へ道は続くのか】
一日一日を濃密に過ごしてきたかなだいは、2度目の全日本を戦いきっている。彼らの躍進があって、アイスダンスは日本でかつてない注目を浴びるようになった。同時に、国内のレベルも上がりつつある。
「2シーズン目でここまで来られたっていうのはすごいことで。大ちゃん(郄橋)はシングルからアイスダンスに転向したばかり。これこそ、"超進化"でした」
村元はそう言って、全日本の戦いを清々しい笑顔で締めくくっている。
「悔しさはありますけど、自分たちの成長を感じつつ、そこは誇りにしたいなと」
郄橋は、いつものように朗らかな声で言った。
この後の物語がどう続くのか。12月26日夜の発表は、ひとつの分岐点になるだろう。ただふたりの挑戦はすでに値打ちがあるもので、次の進むべき道を行くことになるはずだ。