卵とバターを使わないパン教室「toiro(トイロ)」を主宰する幸栄さんの暮らしのエッセー。

2人の娘をもち、簡単につくれるおやつや、だれでもまねできるインテリアアイデア、家事を楽しくする方法など、なにげない暮らしを楽しむコツが人気の幸栄さん。

今回は、子どもの高校受験についてつづります。

寒い日に思い出す、子どもの高校受験




長女の高校受験のお話

キンモクセイが香ってきたと思ったら、朝と夕の風がとてもひんやり。葉も落ち、陽が落ちるのもとても早くなり、ついつい気持ちも焦ってしまいます。もうあっという間に寒い季節がやってきて、そして今年も終わっていくのだな…と感じます。

そんな寒い日に思い出すことは、昨年の冬から今年の春にかけた長女の高校受験。
身近な人たちにも「いろいろ知りたい、教えてほしい」と言われましたので、私が感じたことをお話させていただきます。

●きっかけは入塾。「憧れの高校へ行きたい」



私は「勉強しなさい! いい学校へ行きなさい!」と言ったことはありません。単純に望んでいないですし、なによりも「彼女自身の人生」であって、私はそのサポート役にすぎないからです。
「どんな仕事でもいい、自分が心からやりたいという仕事に就くと幸せだよ。でも、そのためにはある程度学ぶことは必要だと思うよ。」とは話してきました。
もし、それでも勉強しないことを本人が選択したのであれば、それはそれですからね。

しかし、長女の場合「割り算もあやしい、分数はわかっていない」という衝撃の事実がなんと小学校高学年で判明! これはいくらなんでも焦ります…。生きてく上で必要ですよね、割り算と分数は(笑)。
そこで塾に入ったことがはじまりでした。塾も厳選したわけではありません。オンラインで資料請求をしたとき、すぐに電話がかかってきた塾がありました。その日に体験入塾、本人が楽しかったとのことですぐそこに決めました。そこが、たまたま進学塾だったのです。

彼女は中学から勉強に自信を持ち、周りの友達に「勉強を教えてほしい」と言われるようになりました。また小学1年生からゆるゆるだらだらと習ってきたフルートで、部活の楽しさを知り、努力して得る楽しみや喜びを知ったようです。
そんななか「憧れの先輩が受験した高校へ行きたい」という目標を勝手に立てていました。
それはもうかなりかなり高い目標でした。無理でしょ…と心の中で思っていた冷静な母です(笑)。

●がんばる娘のためにできること




目標を自分自身で掲げた彼女は強かった。
追い込まれ、泣く日ももちろんありましたが、自分の強みと弱みをよく知り、着実に成績を上げ、結果を積み上げていきました。
私にできることなんてなんにもありません。送迎や食事、そして食べたいというチーズケーキやマフィンをつくってあげるくらいです。


ときには、はり詰めすぎた気持ちを緩めてあげる言葉をかけたりもしました。
「上の高校へ行くことがゴールではない。あなたが楽しい高校生活を送ることがいちばんなんだよ。」と。
何度も話し合った結果、志望校は憧れの先輩の高校ではなく、「彼女らしい」校風の高校を受験することに決めました。

寒い日、ペーパーテストを終えて帰宅した彼女はこう話すのです。
「できないところもあったけど、力不足だから仕方ない。わかるのにできなかったというところはないから、納得がいっている。」
それを聞いて泣いたのは私で、彼女は笑っていました。やっぱりあなたは強いな。そして、無事合格通知を受け取りました。

●今までの人生でいちばん楽しい高校生活に




憧れていた高校の制服に袖を通した時の「やばい! うれしい!」と声に出した彼女の笑顔は今でも忘れられません。
そして「志望校に受かったらつれていって!」と約束していたディズニーランドも堪能。彼女は「今までの人生でいちばん楽しいんだよ」と高校生活を満喫しています。

レールを敷いて安全な方向へ導くことは、実際簡単ですし親も安心です。でも果たしてそれは本人が望むものなのか? 本当に本人のために大切なことなのか? と、これからもそれをいちばんに考えながら、彼女の人生を見つめていきたいと思います。

【幸栄(ゆきえ)】



1979年広島県生まれ。「はな」と「ひな」2人の娘をもつ。モデルとして活躍したのち、長女の出産を機にパンづくりに出合う。ベッカライダブルハウスにて、製造補助をしながらパンについて学び、2010年から卵とバターを使わないパン教室、toiroを始める。現在はオンラインパン教室『パン教室toiro【パンとひとさら】
』にてレッスン中。 近著に『日々たんたんとパン
』(光文社刊)、『でっかいパン バターも卵も使わない。「3分こね」でかーんたん!
』(主婦と生活社刊)