新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する免疫を持つ方法として、「ワクチンを接種するよりもCOVID-19に感染した方がいい」と言われることがあります。実際に、COVID-19に感染することで免疫を得ることはあるのですが、それでもワクチンを打つことが重要だとマイクロバイオロジーの研究者であるBeth Marie Mole氏が解説しています。

No, your antibodies are not better than vaccination: An explainer | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2021/10/prior-infection-vs-vaccination-why-everyone-should-get-a-covid-19-shot/

◆ワクチンの有効性は過小評価されている可能性がある



ワクチンの有効性は基本的に「ワクチンを接種した人」と「ワクチンを未接種の人」の比較によって評価されます。ここで留意すべきなのは、アメリカの場合「ワクチンを未接種の人」の中には「過去にCOVID-19に感染したことですでにある程度の免疫を持っている人」が含まれるということです。免疫を持つ人はCOVID-19に感染しにくくなりますが、調査の過程では考慮されないため、結果としてワクチンの有効性が低く評価されることになります。

上記を考慮しても、COVID-19ワクチンの有効性は高く、ファイザー/バイオテック製ワクチンは90%の有効性が最低6カ月間持続し、モデルナ製ワクチンは93%の有効性があることが確認されています。

また感染によって得られた免疫応答は症状の深刻度によって差があり、病状が軽度だった人は免疫の反応が弱く、重度だった人には反応が強くなるという、大きな差が見られることもわかっています。2020年6月に発表された研究では、COVID-19から回復した人の中和抗体レベルは多いもので4万倍の差があったと報告されており、検出可能な中和抗体レベルだった人は多く見積もっても20%ほどだったとのこと。このことから、感染によって得られた免疫は、確実性・信頼性という点でワクチンに劣ると考えられています。

◆抗体の違い



抗体は免疫応答の全てではありませんが、2020年12月に発表された医療従事者1万2500人を対象とした研究では抗体レベルが高いほど感染リスクが低くなることが示されています。また、2021年5月には中和抗体レベルとワクチンの保護の間に「非常に強い関係」があることも発表されています。

感染による免疫は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が持つさまざまな面を全て標的とします。一方でCOVID-19のワクチンは、ウイルスが持つスパイクタンパク質に標的を絞っているため、「感染による免疫の抗体には多様性があり、ワクチンによる抗体には多様性がない」という違いがあります。逆に言うと、ワクチンの場合は「高度に標的を定める抗体」を持つことになります。

◆デルタ株の影響



2021年6月には「SARS-CoV-2に感染した人は、COVID-19ワクチン接種の恩恵を受ける可能性が低い」とする調査結果が発表されています。一方で2021年8月に発表された研究では、「感染歴あり・ワクチン未接種の人は、感染歴あり・ワクチン接種ずみの人に比べて再感染の可能性が2.34倍高い」と結論づけられました。このような研究結果の差は、デルタ株の影響があると考えられています。

デルタ株が流行する中で行われた研究では、デルタ株への中和抗体レベルが、デルタ株流行前の変異株に比べて4〜6倍低いことも示されています。

7月にNatureに発表された研究では、SARS-CoV-2感染から1年が経過した47人について調査が行われました。被験者のうち26人はワクチン未接種、21人はワクチンを1回接種済みだったところ、ワクチン未接種のグループはデルタ株に対する中和抗体レベルが非常に低く、「ほとんどが検出可能な中和抗体レベルを持っていない」ことが示されたとのこと。対して、ワクチンを1回接種したグループは、ワクチンを2回接種した人と同等あるいはそれ以上の中和抗体レベルだったと記されています。

上記のとおり、「感染による免疫応答には差が大きいこと」「デルタ株によって中和抗体レベルが低下すること」「ワクチンの効果が非常に大きいこと」の3つをもって、ワクチン接種は重要であるとMole氏は結論付けました。