ヴェンゲルの提唱するW杯の隔年開催案を巡っては、世界中で賛否両論が巻き起こっている。(C)Getty Images

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 アーセン・ヴェンゲルはアーセナルで22年間も過ごした立派な御仁だが、まるで早くも全てを忘れてしまったか、または全てを否定しまったかのような印象を醸し出している。
 
 監督時代ヴェンゲルは、「自分の選手たちを疲労困憊させる」と主張してひっきりなしに代表チームに文句をつけ、「選手たちの給料を払っているのはクラブだ」と再三強調していたものだった。

 ところが国際サッカー連盟(FIFA)でワールドフットボール発展部門の責任者になった彼は今、手の平を返したように、ワールドカップ(W杯)を2年に1回開催するという突飛な案を掲げている。「2年おきというこのニュー・バージョンなら、観衆の期待と要望に応えるうえ、プレーの質も選手たちの質も向上させることになる」、としきりに請け合っているのである。
 
 一方で、ヴェンゲルは、FIFAの財政的意図については、ひと言も言及していない。W杯のほとんど全ての収入はFIFAの懐に入るのであり、4年おきから隔年開催になれば、当然ながら儲けも倍となるわけだ。
 
 FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長の政治戦略についても、ヴェンゲルは一切言及していない。「小国」もこの一大イベントに参加しやくなる、と説くことで、インファンティーノは次期FIFA会長選挙での再選に向け、票を稼ぎたいのである。

 それだけではない。とりわけヴェンゲルは、隔年開催が選手たちの健康状態にもたらす影響についても、無言を貫いている。

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 W杯の隔年開催とは何を意味するのか――。

 それは、優秀な選手たちが毎年毎年、EURO、コパ・アメリカ、アフリカ・ネーションズカップなどをW杯の狭間にこなさねばならず、W杯で疲労困憊したシーズンの後だというのに、休む間もなくこれらのコンペティションに4〜5週間も動員される、ということなのだ。
 
 これは純粋なるクレイジーだ!
 
 コンペティションにコンペティションを重ね、常に「もっとやれ」と選手たちに要求するうち、怪我はどんどん増え、選手たちのキャリアも徐々に短くなり、プレーのクオリティもますます落ちていくことだろう。
 
 W杯を平凡な大会にしてはならない。逆に「4年に1回しか来ない、特別で聖なる大会」という性格を、しっかりと維持すべきである。そしておそらく、結論もこの方向になるだろう。とち狂った今回の案が、日の目を見ることはないと思われる。

 そして、この隔年開催をやめる方向に譲歩することと引き換えにすれば、自分の腹案であるクラブW杯を押し付けやすくなる、とインファンティーノは目論んでいるのだ。
 
 よって、ムッシュー・ヴェンゲルよ、理性を取り戻したまえ。

 あなたが懸命に守ろうとしていた価値観を思い出し、あなたの理解を超える利益合戦の「おもちゃ」に使われるようなことは、やめてほしい!

文●レミー・ラコンブ text by Remy LACOMBE
訳●結城麻里 translation by Marie YUUKI

■Remy LACOMBE(レミー・ラコンブ)
著者プロフィール/1959年11月8日、フランス東部アルザス地方出身。スポーツ日刊紙『レキップ』でサッカー担当として活躍後、1995年より欧州随一の権威を誇る専門誌『フランス・フットボール』に異動し、旺盛な取材活動を展開。現在は編集長を務める。