好きなことを仕事にすれば楽しく働けるのか。実業家のひろゆきさんは「好きなことでも毎日していたら絶対に飽きる。そんなに好きじゃない仕事で8時間だけ働いて、家に帰って趣味をするほうが、たぶん人生は幸せだ」という――。

※本稿は、ひろゆき『無敵の思考』(だいわ文庫)の一部を再編集したものです。

ひろゆき流ルール:「好きすぎること」で食わない

■ゲーム好きがゲーム会社で働くのは幸せなのか

以前に一度、ゲーム会社で働いたことがあります。働くといっても、就職したわけではなくて、週に2回ほど顔を出す仕事です。

撮影=榊智朗

ゲーム会社にいると、たくさんゲームが置いてあって、「好きに遊んでいいよ」という状態です。ゲーム好きならたまらない環境ですよね。

ただ、ゲームをしたことがある人ならわかると思うのですが、ゲームには面倒くさいパートがあります。たとえばRPGだと、地道にレベルを上げてようやく次に進めたり、試行錯誤して強い武器を手に入れて楽になったり、という浮き沈みがあります。

そうすると、その浮き沈みの沈んだ瞬間というのはおもしろくないので、ゲームが遊び放題の環境だと、次のゲームに関心が移ってしまいます。

そうして、「次を、次を」とやっていくうちに、どのゲームもおもしろくないという結末になってしまって、ゲームをする気が起きなくなってしまいます。

ゲーム好きでゲーム会社に入って、ずっと働いている人は、皮肉にもゲームをする暇がなくなるみたいです。なので、そんなに好きじゃない仕事で8時間だけ働いて、家に帰って趣味をする人のほうが、たぶん人生は幸せなのかもしれません。

■「毎日だと飽きる」という現実

ゲームと同じで、寿司が好きな人でも、毎日のように寿司を食べていたら、絶対に飽きるわけです。

つまり、幸せに感じる効用は、どんなに好きだと思っていても次第に減っていってしまうものです。お見合い結婚のように、加算方式で物事を好きになることだってありますからね。

だから、好きなことを仕事にすればいいということを言う人がいますが、究極をいえば、「好きすぎてもいけない」と僕は思っています。

そもそも、みんなが「おもしろい」「興味がある」と思っている分野は、給料が下がる傾向があります。ゲームのプログラマーやイラストレーターもそうですし、テレビ業界も制作会社だと給料は安いです。

「好きすぎるから給料が安くても大丈夫です!」という人が、たまにものすごい結果を出したりすることもあるので、一概に悪いとは言えませんが、それなりに覚悟はすべきでしょう。

まあ、極められるくらい好きで、起きている間じゅうはずっとやり続けられるような人は、僕がいろいろ言わなくても放っておいてもやり続けると思うので、別に関係ないでしょうけどね。

■「好きすぎる」=「マニアック」

僕のゲーム以外の趣味は映画なのですが、これも作り手にはなれないと思っています。というのも、映画を観ていて、「僕だったらこうしたほうがおもしろいのに」と思うものは、世間ではウケないのだと感じるからです。

特に、ハッピーエンドではない映画が僕は好きなのですが、バッドエンドで大成功した映画はほとんどありません。その時点で、僕が映画を作る資格はないわけです。

2016年の『シン・ゴジラ』を観ていて、非常にもったいないなと思ったことがあるのですが、それは「海外の人にはウケないだろうな」ということです。

怪獣映画といえばアクションものとして世界で売れる可能性があるわけですが、『シン・ゴジラ』は会議の映画なので、日本人にはウケるけれど海外の評判はあまりよくないです。

「会議が長すぎて物事が思いどおりに進まない」というのは海外ではピンときません。多くの国では、だらだらと話していても、「うるさい!」とか言って相手を殴って、会議室を出ていくような主人公を求めてしまうわけです。

まあ、「日本のアイドルが出ている映画」みたいに、最初から海外を狙っていない映画ではどうでもいいのですが、庵野秀明さんは海外でも知られているのでもったいないなと思ったんですよね。

そんなふうにエンターテインメント分析をするのは好きですが、そういう意味では、僕は作りたいものを作れないと諦めている部分があります。

クリエーターとして、「作りたいものを作る」という感じだと絶対に失敗しそうで、逆に、「そつのないものを作ってお金儲けする」という方向性なら、できそうな気がします。

でも、別にそこまでして映画を作りたいわけではありません。

世の中には、映画が好きだからなんとしてでも映画に関わる仕事がしたい、という人も多いでしょうから、そういう人は、商業的な「割り切り」をちゃんと受け入れるようにしたほうがいいと思います。

最低賃金は上がるほうがいいのか

そうした仕事観に関連するのが、「給料」のことだと思います。ここでは最低賃金について話をしてみようと思います。

アメリカのカリフォルニア州で、最低賃金が15ドルになったことがありましたが、日本でも、「最低賃金を上げよう!」という動きが見られます。

写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

そもそも、最低賃金が上がるとトクをするのだと誤解をしているアルバイトの人が多くいます。

最低賃金が高くなると、「自分の時給も高くなってラッキーだ」と想像しているかもしれませんが、やはり世の中に打ち出の小槌はありません。

たとえば、都内のマクドナルドの時給が1000円くらいですが、それが1500円になった場合を考えてみましょう。

そこには2つの可能性があります。

ひとつは、人件費の分だけマクドナルドの売り上げが伸びて、人件費を賄うことができるパターン。

もうひとつは、人件費の分ほど売り上げが伸びなくて、マクドナルドが閉店して、アルバイトが失業するパターンです。

最低賃金が上がると失業するアルバイトが増える

マクドナルドの原価の割合はざっくりこんな感じのようです。

2015年 材料費35.9%+人件費32.4%+その他賃料27.8%=原価合計96.1%

仮にすべての店舗の時給が1000円から1500円に上がったとすると、人件費が48.6%になり、原価合計が112.3%と、100%を超えます。まあ、厳密には少し違いますが、だいたいはそんな感じです。

要するに、原価が販売価格より高くなってしまいます。値上げをしないと、売れば売るほど赤字になるという状態です。

味もサービスもまったく変わらないのに価格だけ16%も増えたら、お客さんは減るに決まっています。なので、元から売り上げの多い店舗は残ると思うのですが、ギリギリでやっている店は軒並み閉店することになります。

ということで結果、失業するアルバイトの人が増えてしまいます。この結論は容易に想像がつくと思います。

■「スキル不要の仕事」はやられる

マクドナルドを例にして話をしましたが、ほかの飲食店やコンビニなどでも同じことが発生します。

ひろゆき『無敵の思考』(だいわ文庫)

ここで危ないのは、スキルがなくても「なんとなく働けてしまう」という職場です。先ほどは、好きすぎることを仕事にするリスクについて述べましたが、「好き」すらもない環境でもスキルがなければ危険があるということです。

ここでは、実際に最低賃金が高いフランス社会の様子を紹介しようと思います。

2017年のフランスの最低賃金は、だいたい1200円でした。

小さい飲食店やスーパーは家族経営や外国人が多く、また労働法が厳しいので解雇しにくいため、若者を雇う余裕がありません。

したがって、やはり多くの人が仕事にありつけない状態です。

25歳以下の、4人に1人が失業中というデータもあります。

そうすると、日本で最低賃金が上がって喜ぶのは、チェーン店の近隣にある家族経営や個人の店ということになります。要するに、アルバイトをほとんど雇っていない店です。

個人的には、そういった労働集約型の産業というのはやがて頭打ちになって、その代わりに情報産業やエンタメ産業で働く人が増えればよいなと思っています。

だから、最低賃金を上げることは個人的に賛成ですが、そこで働く人たちの働き方は「流されるまま」ではなく、ちゃんと考えておいたほうがいいですよね。

----------
ひろゆきひろゆき
2ちゃんねる創設者
本名は西村博之。1976年、神奈川県生まれ。東京都に移り、中央大学へと進学。在学中に、アメリカ・アーカンソー州に留学。1999年、インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設し、管理人になる。2005年、株式会社ニワンゴの取締役管理人に就任し、「ニコニコ動画」を開始。2009年に「2ちゃんねる」の譲渡を発表。2015年、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。2019年、「ペンギン村」をリリース。主な著書に、『無敵の思考』『働き方 完全無双』(大和書房)、『論破力』(朝日新書)などがある。
----------

(2ちゃんねる創設者 ひろゆき