【論より証拠】米での死亡事故「全体平均の半分ほど」 なぜスバルは「安全」?
「死亡事故発生件数は全体平均の半分」text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)editor:Taro Ueno(上野太朗)
「平均と比べると、(米国における)スバルの(死亡事故)発生件数は半分くらい」
【画像】オンラインイベントの様子と自動車アセスメント(JNCAP)において最高得点を獲得したレヴォーグ【詳しく見る】 全123枚
スバルで車両安全を担当する古川寿也氏は、メディア向けに開催された同社の安全技術説明イベントでそう語った。
オンラインイベントの様子 スバル
このイベントは、国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が実施した、自動車の安全性能を比較評価する自動車アセスメント(JNCAP)において、新型レヴォーグが2020年度の最高得点を獲得したことを受けて開催されたものだ。
海の向こうのアメリカの話とはいえ、死亡事故発生件数が全体平均の半分というのは「凄い」としか言いようがない。
果たしてスバル車はなぜ死亡事故が少ないのか。今回はその理由に迫ってみたいと思う。
「たまたま」ではない データが裏付ける
まずデータの根拠からみていこう。
米国ではFARS(Fatalitiy Analysis Reporting System)という情報公開システムにより車種や発生状況など死亡事故に関するデータが公開されている。そこで全体の死亡事故の傾向を把握することが可能だ。
スバルが米国で販売する大型SUV「アセント」
そのデータから、対象となる年の直近5年の間に発売された車両を対象として販売台数100万台あたりの死亡事故数を計算すると、近年は米国の主要販売ブランド平均に対してスバルの平均が「半分ほど」だという。
具体的には、2012年は全体平均が58に対してスバルが29件にとどまっているのだ。
その後の推移をみると、
2013年:全体平均55件に対してスバルは28件
2014年:51件に対して27件
2015年:58件に対して39件
2016年:57件に対して33件
2017年:59件に対して33件
2018年:59件に対して33件
2019年:59件に対して32件
となり、たしかに全体平均の半数程度におさまっているのだ。
特定の年だけを見て「死亡事故件数が平均よりも少ない」というのなら「たまたま」と判断することもできる。
しかし統計をみるとスバルは7年以上連続してその実績をキープしているのだから、「たまたま」では片づけられない理由があると考えるのが自然だろう。
「走行安定性の高さ」 乗車中の安全に貢献?
理由として筆者がまず思いついたのは、スバル車の走行安定性の高さ。
同社はAWD比率が驚異的に高く、2018年には国内販売(OEM車を除く)のうち87.4%がAWDであり、その比率はグローバルではさらに高まり98%に達する。
スバル・フォレスター
このAWD比率はSUV専門ブランドなど全車種がAWDのメーカーを除けば世界トップを誇るものだ(余談だが2番手はアウディ)。
北米をみると、ピュアスポーツカーで後輪駆動にこだわる「BRZ」を除く全車の全グレードをAWDとしている。
日本向けではFFが選べるインプレッサも現地ではAWDだけとするなどの戦略もあり、日本以上にAWD比率が高いのである。
日本では「歩行中」が多い交通事故死亡者だが、米国では「乗車中」が大多数を占める。
そのうえ日本に比べて平均走行速度も多い(隣街まで移動するのにフリーウェイを使うのが普通)。だから、AWDにより走行安定性が高いスバルが有利と考えたのだ。
「アイサイト」などのスバルの幅広い安全思想
しかし、スバルの安全開発担当者に確認したところ、返ってきた答えは「それもあるけれど、それだけではない」というもの。
単純に「AWDだから」というだけでは説明しきないという。
スバルは「アイサイト」が死亡事故減少につながっていると考える
まず全体平均と比べた場合、スバル車の死亡事故件数が少ない事故形態は主に「車両単独」、「正対衝突(正面衝突)」、「交差点出合頭」、「歩行者/自転車への加害」の4つである。
1つめの「車両単独事故」に関しては、車線逸脱が主な要因と考えられるのでAWDによる走行安定性の高さが効いていると考えられるという。
2つめの「正対衝突」は、死亡事故に至るのはかなり衝撃が大きい状況となる。
そこに効いてくるのは「アイサイトによる減速」や「前突時のキャビンの強固さや拘束性能など乗員保護性能の高さ」が効果をもたらしているとスバルはみている。
交差点出合頭事故は、「周囲がよく見え他車に気づきやすい視界の良さ」と「側突時のキャビンの強固さや乗員拘束性能など乗員保護性能の良さ」。
そして歩行者や自転車を巻き込む事故が少ないのは、「アイサイトによる減速、歩行者などに気付きやすい視界の良さ、歩行者保護性能の高さ」と考えているそうだ。
すなわち、「AWD」のみならず「アイサイト」、「視界の良さ」、「衝突時に乗員を守る強固なキャビンと乗員拘束性能」など幅広いスバルの安全思想によって、スバル車が関わる死亡事故を少なく抑えているといっていいだろう。
「アイサイト」のメリット 論より証拠
いま、「安全」は自動車メーカーすべてが重点的に取り組んでいることの1つであり、スバルだけが特別力を入れているというわけではない。
しかし、全体平均よりも大幅に低いというスバルの実績は、なによりの「論より証拠」といえるのではないだろうか。
自動車アセスメント(JNCAP)において最高得点を獲得したレヴォーグ スバル
いずれにせよ、米国において販売台数あたりの死亡事故数が平均水準の半分ほどというのは驚くべき数字だ。スバルの安全神話は健在と言わざるを得ない。
余談だが、ここ数年、米国では側面衝突による死亡事故割合が増加傾向にある。
スバルによると、その理由は道を走るクルマのうちセダンなど一般的な乗用車が減り、セダンよりも車両重量が重いSUVの割合が増えていることが要因だという。
側面衝突時の相手車両の平均重量(大型トラックを除く)は、2014年には1801kgだったものが、2019年には2004kgへと増加。今後、各自動車メーカーは側突対応をさらに強化していくことになるだろう。
さて、日本ではどうだろうか。
公益財団法人交通事故総合分析センターのデータをもとに、その年の直近5年の販売車両(軽自動車を除く)を対象とした販売台数100万台当たりの事故件数をスバルが独自に算出している統計がある。
それをみると、2016年から最新データとなる2019年までの直近4年間は毎年、国内カーメーカー全体の平均を下回っている。
それ以前の7年間をさかのぼっても、スバルが全体平均を上回ったのは2015年だけで、ほかは平均以下、もしくは平均と同水準だ。全体の傾向をみると、スバルの事故件数は少ないと判断できる。
また、衝突被害軽減ブレーキを軸とした先進安全装備である「アイサイト」のメリットも大きい。
スバルが交通事故総合分析センターのデータをもとに算出した日本国内の統計(死亡事故だけではなくすべての事故の発生率)によると、「アイサイトVer.2」搭載車の追突事故はなんと84%も減少。歩行者事故発生率も49%減っているから効果は高いといえる。
さらに、進化版となる「アイサイトVer.3」搭載車の追突事故発生率はわずか0.06%というから驚くしかない。