神戸の中盤、前線を構成する面々。写真は左上から時計回りに、古橋、イニエスタ、山口、リンコン、サンペール、マシカ。写真:サッカーダイジェスト

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 5月1日に行なわれたJ1リーグ12節で、ヴィッセル神戸が10年ぶりにホームでサンフレッチェ広島を破った。神戸にとっては歴史的な一戦と言える。スコアは3−0。うち2点を日本代表・古橋亨梧が挙げ、今季9得点でJ1得点ランキング1位タイに浮上した。またベルギー代表のトーマス・フェルマーレンが7試合ぶりに復帰し、年代別ブラジル代表のリンコンも途中出場。何かと話題の多いゲームとなった。

 その中で最も注目を集めたのは、やはりアンドレス・イニエスタの復帰だろう。昨年12月10日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝・水原戦で右太ももを痛めてから実に142日ぶりにピッチに戻ってきた。

「本当に幸せな気持ち。チームメイトとともにピッチでプレーできることが何よりも嬉しいですし、長いリハビリの努力が実ったかなという気持ちです」
 自らの復帰戦をそう感慨深げに語った。
 
 イニエスタ復帰が何を意味しているのか――。ざっくり言えば“ドリームチーム”の始まりである。ケニア代表のアユブ・マシカ、リンコン、イニエスタの3選手はまだコンディションを上げていく段階とはいえ、これで離脱中のドウグラス以外の外国籍選手は揃ったことになる。ダビド・ビジャ、ルーカス・ポドルスキを擁した2019年に見劣りしない、まさに豪華布陣だ。

 フォーメーションは現行の4-4-2から少しアレンジが加わると思われる。広島戦ではイニエスタの投入後に4-2-3-1気味に変更している。“気味”とする理由は、イニエスタのポジションはあって無いようなもので、状況に合わせてトップ下やボランチ、時には最後尾に下がってプレーすることもあるからだ。いわゆるフリーマンである。

 昨年のACLでは4-4-2を基本に、イニエスタの動きに合わせて山口蛍や郷家友太らが守備面のカバーリングなど、気の利いたポジショニングでリスクを回避していた。イニエスタ復帰後のこれからは、同じようなチーム作りになると考えられる。
 
 だが、昨年とは大きく違う点がある。それはセルジ・サンペールの存在だ。昨年のACLでは外国籍選手登録枠(3人)から外れ、サンペールは大会に参加していない。それまではサンペールをアンカーに配し、山口とイニエスタをインサイドハーフに置く4−3−3だったが、ACLではサンペールの代役が見つからず4−4−2へとシフトした経緯がある。

 ただ、広島戦では4−2−3−1を採用した。三浦淳寛監督はその理由を「アンドレスが入るのと同時に(中略)我々はクリーンシートで終えたかったので中央を閉めた。外でボールを持たれる分にはそれほど怖さはないと思ったので、中央を閉めるために布陣を少しいじりました」と説明している。これを鵜呑みにするなら、4-2-3-1は3-0の状況を踏まえた臨時的な布陣。そう解釈すれば、イニエスタ復帰後のシステムは、現行の4-4-2か、サンペールをアンカーに置く4-3-3かの二択になる。もちろん、中盤が流動的に動く神戸のサッカーにおいて、あくまでスタートポジションの話ではあるのだが……。
 
 現在12試合で10失点と堅い守備を誇っている神戸は、このバランスをできるだけ崩したくはないだろう。そう考えれば、山口とサンペールのダブルボランチ、右にマシカ、左にイニエスタ、2トップは古橋とリンコンという配置が最良の選択のように思える。

 だが、もっと攻撃的でエキサイティングな布陣はやはり4−3−3だ。アンカーにサンペール、インサイドハーフに山口とイニエスタ、右ワイドに古橋、左ワイドにマシカ、1トップにリンコンもしくはドウグラス。机上の空論に過ぎないが、この布陣で攻守のバランスがうまく整えば“えげつないチーム”になるのは明らかだろう。そんな夢を垣間みられたのが、イニエスタが復帰した広島戦だった。

取材・文●白井邦彦(フリーライター)

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