「あえてMT車に乗るメリット」は存在する? AT率約9割でもMT推奨派が多い謎

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MT車をすすめる合理的な理由はほとんどない

 スポーツカーなど一部の車種をのぞき、ほとんど見ることのなくなったMT車。ATやCVTが進化するなかで、いまあえてMT車を選ぶメリットはあるのでしょうか。

AT車普及9割もいまだに「MT車推奨派」が多い背景とは

 1985年には新車販売台数の半数以下、比率にして48.5%しかなかったAT車ですが、1990年代以降急速に普及し、近年では新車販売の実におよそ99%がAT車(CVTを含む)となりました。

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 MT車が設定されているのは、軽トラックなどの商用車、そしてスポーツカーなどの極めて限られたモデルとなっているのが現状です。

 こうした時代背景に伴い、運転免許においてもAT限定免許を取得する人が増えているといいます。

 地域や教習所にもよるといわれますが、現在では普通自動車免許の新規取得者のおおよそ7割程度がAT限定免許を選択するようです。

 現在、30代前半の筆者(Peacock Blue K.K.瓜生)の私見でいえば、筆者が免許を取得した15年くらい前には、「男ならMT」というような意識がなんとなく自他共あったように記憶しています。

 そうした雰囲気がどの程度影響を与えたかは定かではありませんが、少なくともAT限定免許を選択しようとは考えていなかったのは確かです。

 ひるがえって、現在ではそうしたジェンダー意識が時代錯誤とされる世の中であり、筆者自身もそのようには考えていません。

 AT限定免許を持つ若いスタッフに話を聞くと「MT車に乗る機会がないのでAT限定にした」と話します。

 実際に、仕事柄多くのクルマに乗る筆者でも、年に数えるほどしかMT車に乗らないのですから、この若いスタッフのいうことは一理あります。

 むしろ、「必要なものを必要なだけ」という合理的思考は、これからの世の中にマッチしており、非常に素晴らしいとさえ感じます。

 このように、そもそもMT車を運転できる人が減少しつつある昨今、MT車にあえて乗るメリットはあるのでしょうか。

 もし筆者が知人や友人に「いまあえてMT車に乗るメリットはあるか?」と聞かれたら、迷わず「No!」と答えるでしょう。

 もちろん、職業や生活上の必要があったり、特定のクルマに乗りたかったりといったような明確な目的があれば、話は別です。

 ただ、こういっては身も蓋もありませんが、現時点もしくは将来的にそうした目的がない人にとっては、ほとんどの場合、MT車に乗るメリットは皆無であるといえます。

 一方、インターネットなどを見ていると、現在でもMT車を愛するユーザーが少なくないことも実感します。

 ただ、そうした人々がMT車のメリットとして挙げることには、にわかに首肯することはできません。

 たとえば、「MT車の燃費が良い」や「(熟練者の場合)MT車の方が乗り心地のよい運転ができる」といったものは、個別の事情に依存する部分が強く、統計的に信頼できるものではありません。

 むしろ、AT/CVTの進化した今となっては、AT/CVT車が多くの人が高燃費かつ乗り心地の良い運転をできるでしょう。

 MT車派の意見としては、「MT車は操作が多く、運転に集中するため、事故を起こす可能性が低い」という声も見られました。

 AT車は運転が簡単なため、ながらスマホなどをしてしまいがちであるという意味を含んでいると思いますが、認知的負荷が低いことと、それによって生まれた余裕を何に使うかは本来別の話です。

 むしろ、操作が多いMT車のほうが、ミスを起こす可能性が高いと考えることもできます。

 いずれにせよ、こうした話は「MT車のほうが優れている」という結論ありきで構築されたロジックがほとんどであり、個々人の見解の域を出ません。

 MT車の需要が減っていることの現実的な問題として、選べるモデルが少ないという点があります。

 いわゆるスポーツモデルを除けば、普通乗用車でMT仕様を選べるモデルは少数です。

 それはすなわち、量産効果を得にくいため、コストが割高になる、もしくは同クラスのAT車より機能面で劣るということにつながります。

 また、各社が切磋琢磨している領域ではないため、新技術などの発明が生まれづらいということも考えられます。

 ましてや、電動化が進むこれからの自動車業界を考えると、トランスミッションという概念そのものがなくなる可能性すらあります。そういった意味でも、いまMT車にあえて乗る合理的な理由は考えにくいのです。

いまあえてMT車に乗る最大にして唯一無二のメリットとは

 しかし、もし筆者が免許をこれから取得しようとする人に、AT限定免許をすすめるかといえば、それも「No」です。

 仕事上、生活上の必要性がない人で、いまMT車を新車購入する人のほとんどが「MT車が好きだから」が主たる理由だと考えられますが、それこそがMT車に乗る最大にして唯一無二のメリットといえるのではないかと考えます。

 大前提として、人が何を楽しいと思うかは人それぞれです。MT車を楽しいと思う人がいれば、AT車を楽しいと思う人もいる、どちらにも優劣はありません。

 人の趣味嗜好は、他人によって規定されるべきものではなく、自身の中から生まれてくるものです。

 データを見れば、MT車はもはや風前の灯です。現在新車購入されるMT車の多くが、趣味性の高いスポーツモデルだと考えられます。

 それらは、そもそもが限られたターゲットのみを想定しているニッチなモデルであり、大多数のニーズに合わせたものではありません。したがって、誰もが魅力に思うわけではないのも当然です。

 前述の通り、性能面や機能面で見てもMT車を選ぶ合理性は皆無です。しかし、人は合理性でのみ生きるものではありません。

 AT車に比べて非合理的なものが合ったとしても、それを補って余りあるものが「好きだから」という感情なのだと思います。

 結局のところ、各メーカーから用意されているMT車のほとんどが「操る喜び」といったある種の精神論を強く訴求しているのは、それ以外に合理的な説明がつかないからではないでしょうか。

最近ではAT車に慣れて、クラッチ操作を苦手とする人も多いという

 新車販売におけるMT車比率が1%程度であることは前述しましたが、逆にいえばいまでも年間4万台程度のMT車が販売されているととらえることもできます。

 潜在顧客も含めれば、その数倍のニーズはあることでしょう。これは趣味の世界で考えれば、まだまだ非常に大きな市場規模であるといえます。

「人が何を楽しいと思うかは人それぞれ」といいましたが、それでもこれだけの人がMT車を楽しいと思うのであれば、それだけ「MT車に魅力がある=好きだから」と思う人が多いということの証明になるのかもしれません。

 MT車を「移動のための生活の足」というAT車と同じ土俵で考えるならば、MT車をすすめる理由はほとんどありません。

 しかし、趣味のものとしてとらえたら、いまなお多くの人を惹き付ける魅力的な乗り物であると考えます。

 ただ、日本ではAT限定免許では法律上、一般公道でその魅力を味わうことができません。

 MT車に魅力を感じるかどうかは人それぞれですが、体験するチャンスを味わう権利、という意味で、筆者はAT限定免許ではなく、MT車も運転出来る普通免許の取得をすすめるのです。