軽自動車でダントツの人気を誇るN-BOX(写真右)。同車種のヒットにより、今やホンダの国内新車販売は軽が半分を占める(記者撮影)

ホンダの軽自動車「N-BOX(エヌボックス)」の販売が好調だ。

2020年末に2代目のマイナーチェンジを施し、内外装などを一新。全国軽自動車協会連合会によると、2021年1月は1.6万台、2月も1.8万台を販売し、軽で1位の座を守り続けている。

軽自動車では近年、N-BOXやダイハツ工業の「タント」、スズキの「スペーシア」といった車高の高い「スーパーハイトワゴン」に人気が集まっている。軽の寸法規格ギリギリまで車内空間を広くとり、後部座席のドアが電動スライド式になっているのが特徴で、小さな子供のいる若い世帯のファミリーカーとしても支持を得た。

国内販売の軽依存が5割超す

中でも特に人気が高いのがN-BOXだ。2011年の年末に初代モデルが発売されるとたちまち大ヒットし、2017年の2代目登場で人気に拍車がかかった。2020年の販売台数は19.5万台。軽では6年連続、登録車を含めた新車販売でも4年連続で首位となり、日本でいちばん売れている車だ。

N-BOXの高い人気は商品性にある。軽としては内装に高級感があるうえ、スーパーハイトの中でも後部座席の空間が特に広い。また、自動ブレーキをはじめ、ペダル踏み間違いによる急発進・加速のストップ機能など最新の安全装備を標準搭載。カスタムやオプションの選択肢が多い点も大きな魅力だ。

2020年の販売実績で見ると、N-BOX1車種だけでホンダの国内新車販売の約3割にも及び、「N-WGN」などほかの車種も加えた軽の販売構成比は前年の50%から52%に上昇した。マイナーチェンジ後の新型N-BOXも売れ行きは好調で、2021年1〜2月の月次では軽比率がさらに高まっている。

ただし、N-BOX人気を喜んでばかりもいられない。1つは収益性の問題だ。N-BOXは最低車両価格が142.9万円からと軽の中では高めだが、それでもサイズの大きな登録車に比べれば値段が安い。ホンダによると、軽の1台当たりの貢献利益(販売収益から材料費を引いた利益)は登録車を含む全カテゴリー平均に比べて半分程度だという。しかも、軽自体が日本の独自車両規格なので、それに投じた研究開発費は国内の販売で回収するしかない。

軽自動車で儲けにくいのは販売店も同じ。販売店関係者からは「N-BOXのような人気車種があること自体は非常にありがたいが、新車販売で登録車ほどは利益が出ない。車検や点検などアフターサービスの面でも軽自動車は単価が安い」との声も聞こえてくる。

登録車はフィットもベスト10圏外に

軽の販売が好調な一方で、ホンダは本来の主戦場であるはずの登録車で苦戦が続いている。国内登録車販売は2016年(38.3万台)から減少傾向が続き、2020年は新型コロナの影響もあって30万台を割り込んだ。

2020年のメーカー車名別の登録車販売ランキング(日本自動車販売協会連合会調べ)を見ると、ホンダ車で上位15位までに入ったのは、フィット(4位)とフリード(7位)の2車種のみ。登録車におけるホンダの存在感は以前より確実に薄れており、中部地方のホンダ系販売店の店長は「いくらN-BOXが売れても、軽はしょせん軽。登録車でヒット車種が出てくれないと、ホンダのブランド力は上がらない」と嘆く。

登録車で数少ない売れ筋車種のフィットも足元では販売が失速。2020年2月のフルモデルチェンジ直後は台数を伸ばしたが、2021年1月は全登録車の中で10位、2月は12位にまで順位を落とした。小型登録車であるフィットの主たる購入者は女性だが、「年末に登場した新型N-BOXの評判がよく、そちらに流れるお客さんが少なくない」(複数の販売店)。


4月に投入するコンパクトSUV「ヴェゼル」の新型モデル。精彩を欠くホンダの登録車販売で起爆剤になるか(写真:ホンダ

そうした中、登録車でのホンダ復権のカギを握るのが、4月に発売する予定のコンパクトSUVの新型「ヴェゼル」だ。2013年の発売後、SUV部門で国内年間販売台数1位を3回獲得した主力車種の1つで、今回が初のフルモデルチェンジになる。

ガソリン車とハイブリッド車(HV)の2タイプから選べる点は前モデルと同様だが、新型は内外装のデザインを一新。カーナビの地図が自動で更新される機能や、スマートフォンが鍵の代わりとなる「ホンダデジタルキー」といったコネクテッド技術を充実させたほか、最新の先進安全装備も搭載した。 

「販売台数、そして電動化を加速させる意味でも、ヴェゼルは非常に重要な戦略車種だ」と商品企画担当の池田裕介氏は話す。コンパクトSUVは近年人気が高く、トヨタ自動車「ヤリスクロス」、日産「キックス」など、各社が力を入れるカテゴリー。競争は激しいが、ホンダとしては、ぜひここで存在感をアピールしておきたいところだ。

HV化への高いハードル

一方で、販売好調な軽にも大きな課題が待ち受ける。政府が求める電動化への対応だ。ホンダは登録車の新車販売におけるHV比率が6割に迫るが、軽はN-BOXをはじめとする現行の全車種が純粋なガソリン車。今後についても、「電動化を加速するのは軽も同様だが、今はまだ具体的な話ができない」(倉石誠司副社長)と述べるにとどまっている。

ホンダに限らず、軽メーカーは電動化対応に頭を悩ます。電動化の手段としては、登録車と同様にストロングHVが当面の現実解になるが、軽の特性を考えるとハードルは高い。大幅なコストアップが避けられず、「車両価格の安さ」という軽の強みが薄れてしまうからだ。


2020年12月にマイナーチェンジをして発売したN-BOX(写真:ホンダ

また、ストロングHVは大型電池など部品搭載点数が増えるため、「純粋なガソリン車よりも車内空間の確保が難しく、軽でこの問題をどう乗り越えるかも大きな技術的課題になる」(東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリスト)。特にN-BOXのように「軽でも車内が広い」ことを売りにしている車種にとって、電動化と空間確保の両立は悩ましい問題だ。

ホンダは技術畑を歩んできた三部敏宏専務が4月に社長となり、新体制がスタートする。国内における登録車の復権と、軽の電動化は新社長の大きな宿題になる。