新型「ヴェゼル」は「CX-ハリアー」と揶揄されることもあるようだが…(写真:本田技研工業)

2月18日に世界初公開された2代目ホンダ「ヴェゼル」のデザインに対して。賛否両論が巻き起こっている。

2013年12月にデビューしたヴェゼルは、Bセグメントと呼ばれるコンパクトカーのカテゴリーに向けて送り出されたSUVだった。同じカテゴリーの日本車は当時、日産「ジューク」ぐらいで、ヨーロッパでもプジョー「2008」、ルノー「キャプチャー」などしかなく、コンパクトSUVでは先発組だった。

ヴェゼルはコンパクトカーの「フィット」で実績を積んだセンタータンクレイアウト、つまり前席下に燃料タンクを置くことで後部空間を使いやすくした独創のパッケージングを採用。


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それでいてスタイリングは大胆なウェッジシェイプでダイナミックな雰囲気を強調し、インテリアもドライバーを囲むようなインパネ、高めのセンターコンソールなどで、スポーティに仕立てていた。

日本国内では発売翌年から3年連続でSUV販売台数第1位の座を獲得し、「HR-V」などの名前で展開された海外向けを含めた累計販売台数は、380万台以上に達した。この大ヒットは、デザインによるところが大きかったはずだ。

フィットやホンダeに通じるデザインに

ホンダは、ヒット作をモデルチェンジする際、デザインについてはキープコンセプトとすることが多い。軽自動車の「N-BOX」や「N-ONE」は、その代表例である。しかし、ヴェゼルは、初めてのモデルチェンジなのにスタイリングもインテリアも一新してきた。これには筆者も驚いた。

そこで資料を見ると、デザインの前にパッケージングについて言及していることに気づく。先代型の資料では、まずデザインについて説明し、次にパッケージングを紹介していたのとは逆の順番だ。

ボディサイズの数値は未公表だが、先代型から大きく変えていないとしており、センタータンクレイアウトも継承されている。


丸っこいスタイリングから一転して直線基調に(写真:本田技研工業)

その中で運転しやすい視界、ゆとりの後席空間、実用的な荷室を作り上げたという。

その結果が、運転席から直視できて車両感覚が掴みやすいノーズ、水平基調のサイドのキャラクターラインやルーフライン、台形のサイドウインドーなどにつながっているというわけだ。センタータンクレイアウトならではの空間効率の優位性を、見た目でもアピールしにきたのだと感じた。

この方向性は、昨年モデルチェンジしたハッチバックの「フィット」、同じく昨年日本で発売された電気自動車「ホンダe」とも共通する。

筆者は、昨年11月にホンダeのデザインイベントのトークセッションを取材したことがある。ホンダeのデザインは、フィットや軽自動車の「N-WGN」に通じると感じたので尋ねたところ、「コンパクトカーについてはこの路線でいきたい」という答えが返ってきた。

ちなみに先代型のスタイリングは、「安定感のあるロワーボディとクーペライクなアッパーボディという2つの塊を特徴的なキャラクターラインで融合し、躍動感あふれるエモーショナルでスタイリッシュなエクステリアデザインを実現した」と資料に記されていた。新型とはアプローチがかなり異なることがわかる。


先代「ヴェゼル」のエクステリア(写真:本田技研工業)

とはいえ、新型もクーペのようなパーソナルな雰囲気をヴェゼルの個性として受け継いだ。それを反映しているのは、高さを抑えたルーフと傾斜を強くしてファストバック風に見せたリアゲートだ。

リアドアのオープナーもクーペらしく見せるべく、引き続きドアのフレームに内蔵した。そのうえで現行型より位置を下げ操作しやすくしている。

リヤまわりはハリアー似…ではない

フロントでは、ボディとの一体感を高めた同色グリルが目立つ。グリルレスとしたフィットとの共通性を持たせつつ、SUVらしい力強さを盛り込んだのかもしれない。バンパー下部の張り出しからも、そのメッセージが伝わってくる。

ただし、グリルとヘッドランプの位置関係に既視感があるのも事実である。


新型「ヴェゼル」のフロントまわり(写真:本田技研工業)

グリルを最小限にとどめるとか、ヘッドランプをフィットやホンダeのような表情を感じさせる形にするとか、これまでのSUVの常識を打ち破るような提案があっても面白かったのではないだろうか。

リアについても同様で、左右のコンビランプをつないだデザインはトヨタ「ハリアー」に似ているという指摘がある。ただし、同様のスタイルはSUVだけでもレクサス「UX」、アウディ「Q8」、フォルクスワーゲン「Tクロス」などが採用しており、ハリアーはこの中では後発だ。カーデザインのトレンドのひとつと理解すべきだろう。


リアには水平基調のテールランプが横切る(写真:本田技研工業)

さらに新型ヴェゼルでは、リアゲートのオープナーを使いやすい位置に置き、それを造形の中に自然に組み込ませることにも留意したそうで、美しさと機能性の両立を目指したことにも触れておこう。

インテリアデザインも一新した。先代型ではクーぺのパーソナル感とミニバンの快適性を融合させるべく、運転席は高い位置に置いたセンターコンソールとドライバー側に傾けたセンターパネルで操縦のための空間であることを強調していたのに対し、新型はHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の考え方に基づき、少ない視線移動や動線に沿った操作類の配置などが重視されている。

具体的には、運転席は高めの位置にメーターやセンターディスプレイをレイアウトし、視線移動を少なくしてスムーズなドライビングを提供。スイッチ類は着座姿勢を崩さず自然に手が届く場所に置くことで、乗る人の所作を美しく見せることにも配慮している。

開放感や爽快感も新型が目指したポイントで、高さを抑えた水平基調のインパネとセンターコンソール、インパネと上端を揃えることで実現した全席爽快視界、一部のグレードに装備したガラスルーフ、車内に柔らかな風の流れを作り出す左右のエアコンルーバーなどの仕掛けを盛り込んでいる。


一新された新型「ヴェゼル」のインストルメントパネル(写真:本田技研工業)

グレードはガソリン車がGの1グレード、「e:HEV」と名付けられたハイブリッド車がX、Z、PLaY(プレイ)の3グレードとなる。

ハイブリッド車の3タイプは上下関係を構成しているわけではなく、Xは飾らないナチュラルテイスト、Zはクオリティにこだわった上質な仕立て、PLaYはその名のとおり、冒険心を刺激するプレイフルなグレードというキャラクター分けにしているという。

もっとも目立つのはやはりPLaYで、2トーンカラーにはトレンチコートをイメージしたという個性的なサンドカーキも用意。トリコロールのアクセントを各所に配し、グレージュとブラックの2トーンインテリアはリボンでアクセントをつけ、ガラスルーフが爽快感を届ける。

賛否あるデザインだが「納得できる」

初代ヴェゼルは、マイナーチェンジでスポーティなRSグレードやターボエンジンを追加したことでもわかるように、クーペのようなスタイリング、スポーティなインテリアを反映した、勢いを感じさせるSUVだった。

ただし、実際はセンタータンクレイアウトのおかげでライバルを圧倒する広いキャビンを持っていたのに、リアに向けて絞り込んでいったサイドウインドーなどのおかげで、その長所が実感しにくかったし、やや子どもっぽい印象がしたのも事実である。

その点、新型はパッと見てキャビンが広そうだとわかるし、躍動感は薄れたものの、逆に落ち着いた雰囲気で、コンパクトSUVとしては上質に見える。格上のSUVからの乗り換えも可能にする内容の持ち主だと思った。


アクセントカラーが入る「PLaY」グレード(写真:本田技研工業)

他社のデザイナーからは、「今やウェッジシェイプでは新しい提案は難しく、ユーザーの嗜好とも離れつつある」という言葉を聞いたこともある。これはクルマに限った話ではないと思うが、疾走型よりも協調型が求められるということなのだろう。それを考えれば新型ヴェゼルの形は納得できる。

先代のデザインの正常進化版として新型を送り出したら、おそらく数年後にはかなり古臭いSUVに見えてしまうのではないだろうか。