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 1月27日、経団連の中西宏明会長が「日本の賃金水準がいつの間にか、経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になっている」と発言すると、SNS上では「お前が言うな」「マッチポンプだろ」と批判が殺到した。

 OECDの統計データで「平均年収」の国際比較を見てみると、日本は2018年が約4万ドルで19位に位置していたところ、2019年は3万8000ドルで24位にランクダウン。実質年収も順位も下げた形だ。韓国にも抜かれ、OECDに加盟するアジア諸国では最下位に。経済評論家の森永卓郎氏が語る。

「日本の賃金は、めちゃくちゃ低いです。とくに、非正規社員がひどい。いま日本の最低賃金は、全国平均で時給902円です。

 じつはかつてのアメリカはもっと低くて、2009年から今も時給761円(連邦法で定められた7ドル25セントを、1ドル105円の為替で算出)なのですが、バイデン新大統領が先日発表した大型経済対策の中で、「最低賃金を15ドルに上げる」と言っています。日本円にすると、1575円ぐらい。

 これまでは日本以外でアメリカだけが、最低賃金=非正規社員の賃金が低い国だったんですが、アメリカが最低賃金を上げると、日本は完全に一人負けになってしまいます」

 気になるのは、年収ランキングで後塵を拝した、お隣の国との逆転劇だが……。

「日本の賃金は、韓国より低いんです。表面的には同じぐらいなんですけど、韓国では皆勤すれば “週給手当” にあたる賃金が上乗せされます。それで実質的に、韓国を下回っている
というのが日本の現状です。

 ですから、日本の賃金が低いという中西会長の認識は、先進国で見ると正しいんです。でも、ネットで炎上したとおり、『そうなったのは誰のせいだ』ということなんですよ!」

 経営者の雇用方針によって、日本の賃金は下がり続けている。

「かつては先進国でもトップクラスの賃金でしたが、いまは最下位。なぜそうなったかというと、経済が低迷したからです。1995年には世界のGDPのうち、日本のGDPが占める割合は約18%でしたが、直近では6%を切って5%台まで落ちているので、GDPの世界シェアが、当時の3分の1になったんですよ。

 20年間にわたり、日本では非正規社員を増やして賃金をどんどん抑え込んできたわけですが、それにより、まずGDPの6割を占める消費が落ちて、GDP全体も落ちる。これを繰り返してきたんです。生産が落ちれば賃金が低くなるのは、当たり前です」

 一方で、経団連幹部をはじめ、経営者たちの報酬は減っていないという。

「労働者の賃金はズルズル下げてきたのですが、役員報酬は爆発的に増えているんです。かつては、一部上場企業の社長でも年収3000万円ぐらいだったんですけど、いまは何億円というレベルが普通になっている。『自分たちの報酬を増やすために社員の賃金を抑えてきた』と言われても仕方がないでしょう」

 では、“無責任発言” を返上するために、経団連が果たすべき役割とは。

「『賃金が低い』という認識があるんだったら、せめてアメリカのように最低賃金アップを画策すべきです。いまの最低賃金=時給902円で考えると、年間平均労働時間の1700時間をかけても、年収は150万円ぐらい。これでは結婚もできないし、子供も作れません。

 これが、せめてアメリカ・バイデン大統領の目標値と同じ最低賃金(時給約1575円)になれば、年収が270万円ぐらいになります。夫婦で働けば年収540万円ほどになるから、非正規社員でもなんとか生活していけるんです。

 私が2005年に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)を出版したときは、『森永は貧困ビジネスだ』と、さんざん叩かれました(笑)。でも現状は、私の予測よりひどい。年収300万円をもらえたら、御の字の時代なんです」

 
●経営者も国も役割を果たさぬ今、国民が主張すべきは「金よこせ!」

 一方で、中西会長の炎上発言は、春闘(春季労使交渉)に関するものだった。一時は「官製春闘」と言われたように、政府も賃上げを後押ししていたが……。

「現実には、最低賃金は上がっていません。『中央最低賃金審議会』というのがあるんですが、2020年は企業のコロナ対応に気を遣って、引き上げ勧告をしなかったんですよ。

 今回、連合は2%程度の賃上げを求めていますが、2020年も2021年も経営側は全然、上げる気がないですよね。労働者の生活は、ますます悪化するに決まっています」

 加えて春闘では、非正規社員=最低賃金のことは、俎上にすら上がらない。

「一応、連合は『非正規社員のことにも目を配る』と、表向きは言っています。でも結局、連合も正社員が主体なので、非正規社員のことまで考えられるとは、とても思えないですよね」

 もう、かつての “普通の生活” は幻なのか――。

「結局、賃金は労使の交渉で決まるので、国はあまり口出しができないんです。安倍前首相は『賃金を上げよう』と言っていましたが、結局、上がらなかった。ただ、政府は最低賃金はコントロールできます。

 ところが現実には、そうした本当に必要なことはやらずに、どさくさに紛れて補正予算でGoToキャンペーンを実施したり、“国土強靭化” という名目で、公共事業に2兆円も突っ込んでいる。国民のことなんか考えていません。

 解決策としては、まずは他国並みに最低賃金を上げること。あとは、非正規社員数を規制すればいいんです。たとえば竹中平蔵さんがやったような、製造業の派遣労働を真っ先に禁止して、最低賃金を引き上げるという方法が考えられます」

 一方で、われわれ一般市民にも、決意が必要だ。

「コロナ禍による消費の落ち込みで、日本のGDPは2020年7-9月期に、前年比5.7%も縮小しています。これはアメリカより、はるかに大きな下落なんです。

 なぜ消費が伸びないかというと、結局は消費者にお金がないんですよ。だから、みんなガマンしていないで『金よこせ』と声を上げるべきです」