三井物産の新社長に就く堀健一専務(左)と安永竜夫社長(記者撮影)

三井物産は「資源商社」から脱却できるのか。

大手商社の三井物産は安永竜夫社長(60)に代わり、堀健一専務(59)を4月1日付けで昇格させることを決めた。安永社長は会長に就く。

2015年に54 歳で社長に就任した安永氏は執行役員だった当時、32人抜きの大抜擢で社長に就任した。そのため、安永氏の時と同様、三井物産の次期社長も執行役員級の若い年次から抜擢される可能性がささやかれていた。

化学品畑を歩んだ新トップ

堀氏は化学品畑を中心に歩み、アメリカの家畜飼料添加物メーカー・ノーバス社の買収にも関わった。その後、経営企画部長やニュートリション・アグリカルチャー本部長を経て2019年4月に専務に就任した。安永氏が執行役員から社長に大抜擢されたことを考えれば、今回の社長人事にサプライズはなかった。

2020年12月23日に開かれた記者会見で安永氏は、堀氏の課題解決能力の高さなどを挙げ、「新しいリーダーシップを発揮するに当たって最適の人物だ」と説明した。

三井物産はかつて、純利益で業界第2位を誇る名門商社として存在感を示してきた。ただ、近年は非資源事業に強い伊藤忠商事が伸長し、業界3位が定着している。記者会見で堀氏は、「成果、経営指標について(マーケットの)期待に応えられていない」と答えた。

三井物産は資源事業で強固な収益基盤を持ち、鉄鉱石や銅などの金属資源、LNG(液化天然ガス)など資源事業から上がる利益の割合が大きい。同社が「資源商社」と称される所以で、過去最高益を記録した2012年3月期の当期純利益4344億円のうち、約9割は高市況に沸いた資源事業が稼いだ。資源事業の割合は2020年3月期時点でも約6割を占める。

資源事業は、市況によって業績が大きく乱高下しがちだ。安定した収益構造への変革が安永氏の課題でもあった。

非資源分野の育成目標は未達に

実際、安永氏は社長就任直後、資源バブルの崩壊に直面した。資源事業で約2500億円もの大型減損を計上したことなどから2016年3月期の業績は初めて最終赤字に転落した。社長就任早々に辛酸をなめた安永氏が取り組んだのが資源事業の収益改善だ。鉱山の操業コストを低減し、市況が悪化しても赤字になりにくい資源事業への転換を図った。

安永氏が取り組んだもう1つの収益改善策が非資源事業の育成だ。2018年〜2020年3月期を計画期間とする前の中期経営計画では、機械・インフラや化学品などの非資源分野を伸ばす計画を策定した。計画期間中に非資源事業の純利益を2017年3月期比の4割増、2000億円にする計画だったが、2020年3月期の実績は1611億円にとどまっている。

ブラジルの農業事業や鉄道事業が不調に終わったことが原因だが、赤字続きの案件を処理するなど、みるべき成果もある。三井物産は飯島彰己・現会長の社長在任時の2011年、世界の穀物需要拡大を見込んで、累計470億円を投じてブラジルの農業生産・穀物物流事業を手掛けるマルチグレイン社を完全子会社化した。だが、競合激化で赤字決算が常態化していた。

安永氏はそのマルチグレイン社からの撤退を決め、2018年5月に公表した。現在は清算に向けて事業の整理を行っている。撤退を決めた結果、マルチグレイン社に割いていた人員などの経営資源を他の事業に振り向けられるようになった。

安永氏は「マルチグレインからの撤退などを進めた結果として、次の躍進につながる種まきはできてきている」と振り返る。その中でとくに成長が期待できるのがヘルスケア事業だ。今後は「環境と健康というキーワードに結び付いたビジネス以外は残れない」と強調する安永氏にとって肝煎りの事業だとも言える。

2019年3月には約2300億円を投じ、インドやマレーシアなどで80病院を経営するアジア最大級の民間病院グループ・IHHグループの筆頭株主となった。同グループの総病床数は1万5000床を誇り、病院運営だけでなく、医療データを使った健康維持など「未病領域」でのビジネス拡大も狙っている。

次期中計の利益目標は4000億円

その矢先に直面したのが新型コロナウイルスの感染拡大だった。コロナ影響による資源市況の低迷などで、三井物産の2021年3月期の純利益は前期比54%減の1800億円に沈む見通しだ。

2020年5月に発表した2021年〜2023年3月期までの中期経営計画では、最終年度の純利益目標として4000億円を掲げた。この半分以上をヘルスケアや機械などといった非資源事業で稼ぐ算段だ。

中でも低・脱炭素ビジネスについて。三井物産は業界内でいち早く2050年のGHG(温室効果ガス)排出量の実質ゼロを標榜。現中計にもすでに盛り込んでいる。2020年4月にはエネルギーソリューション本部を新設し、再生可能エネルギーや水素、EV(電気自動車)関連のインフラまで、既存の本部を横断するような形で取り組む。2030年に純利益200億円に成長させる方針だ。

商社3位からの脱却に向け、非資源事業の花をどのように咲かせるのか。堀新社長の手腕が問われる。