志尊淳 崩しようない完璧さにふとのぞく甘さという両義性 「由利麟太郎」では「かわいくてクレバー」

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鼻の先端と下顎の先を直線で結んだラインに唇の先が並んだ、理想の横顔


「かわいくてクレバーな志尊くん」 

これは横溝正史原作のミステリードラマ「探偵・由利麟太郎」(制作:関西テレビ フジテレビ系 火曜よる9時〜)の公式サイトに寄せた田辺誠一のコメントの一部。これこそ志尊淳の魅力を端的に語っていると思う。

志尊淳はこのドラマに主人公・由利麟太郎(吉川晃司)の助手・三津木俊介役で出演している。この役はWEBで由利麟太郎の事件簿を連載しているという設定。本当はミステリー作家志望だが、本業そっちのけで麟太郎の活躍を記述して公開しているのである。それがゆくゆく小説になるであろうことは想像に難くない(勝手な想像だが)。それはともかく、志尊淳が演じる三津木俊介役は田辺の言うように「かわいくてクレバー」である。

主演の吉川晃司は白髪でスタイリッシュないでたちの超然とした名探偵を演じ、田辺は丸メガネでトレンチコートの昭和感をどことなく残した京都府警の警部を演じていて、ふたりとも隙のないベテラン感を醸しているなかに混ざって若さをふりまく助手・三津木を演じる志尊は、コンパクトにまとめた黒髪(由利麟太郎の白髪と対比している)、ぶかっとしたアウター、肩掛けショルダーと現代的な雰囲気をまとい、古都・京都を舞台にした昭和感漂うミステリーに現代の若者の視点を持ち込む役割を担う。

事件、そして尊敬してやまない由利麟太郎を見つめるその黒目がちな瞳は、事件簿をWEBで書いているだけあって、一瞬たりとも状況を見逃さないという純粋さそのもの。横顔もいい。鼻の先端と下顎の先を直線で結んだラインに唇の先が並んだ、いわゆる理想の横顔。昨年、舞台「Q  〜A Night At The Kabuki〜」(ノダマップ)では「ロミオとジュリエット」のロミオ的な役割を演じていた志尊。そのときもその端正な顔立ちが王子感にピッタリであった(ジュリエット的役割は広瀬すずが演じた)。


天上人のようでありながら、手の届きそうなところを保った奇跡的な個性の持ち主


整った顔は安心感を与えてくれるもので、罪を暴く探偵という職業にその端正さは最適なのである。が、完璧に整い過ぎているものは近寄りがたくもあるのだが、志尊淳の場合、ふだんきゅっと結んだ口元をほころばせて笑うときの表情の無邪気さや、黒目がちな瞳に愛嬌があり、天上人のようでありながら、地上の我々の手に届きそうなところをギリ保っているという、なかなかに奇跡的な個性の持ち主なのである。

志尊淳の持つ両義性が最も発揮されたのは、トランスジェンダーの役を演じたNHKのドラマ「女子的生活」(18年)。身体的には男性で恋愛対象は女性だが、髪型や服装は女性らしいものを好む多様な志向をもった役柄を清々しく演じて、高評価を受けた。

その後、朝ドラこと連続テレビ小説「半分、青い。」(18 年)では、同性を愛するゲイセクシャルの役を演じた。どちらの役も、これまで当たり前のように思われてきた「男らしさ」や「女らしさ」とは誰かが勝手に定義したものに過ぎず、そういう「らしさ」に縛られることなく、各々が好きなように生きていいことを物語っていた。志尊淳の醸す崩しようない完璧さにふとのぞく甘さという両義性が「男らしさ」も「女らしさ」も両方を持った人物として大いに生かされたように思う。

以前、志尊淳に取材をしたとき、「演じた役をマイノリティーとは僕は思っていなくて、むしろマイノリティー、マジョリティーと区別することに疑問があります。ひとりひとり、個性をもった人間として捉え、ひたすら役に寄り添うことを心がけてきました」(ぴあ「月刊スカパー!」より)と答えたことが印象的で、彼はものすごく真摯にLGBTQ に向き合っていた。その精神性と彼の端正な横顔は呼応しているような気がしてならない。


これまでの偏見すら覆した寄付活動


志尊淳=真面目という印象が更新されたのは、2020年の6月上旬だった。コロナ禍で日本中が外出自粛になっていた期間中にはじめた「#志尊の自粛部屋」というインスタライブ(4月23〜30日まで毎日配信、以後は不定期)の活動で得た収益の一部1000万円を日本赤十字社と共同募金会へ寄付したことが6月10日に発表されたのである。これまで寄付というと、国民的大スターのするものという印象がなんとなくあったが、志尊淳はその偏見すら覆した。

インスタライブは、普段着っぽい志尊淳がファンとインスタを通して交流したり、自粛期間の日常を公開したりするファンサービス的なものからはじまって、叔父でありミュージシャンの宮崎歩(「崎」は正しくは「大」の部分が「立」)と作った楽曲「きぼうのあしおと」の発表と進化していった。外に出ることができず、なかなか人と会えないなか、身内とリモートを通してコラボするというこの時期にぴったりフィットした企画であり、その曲で踊るダンスバージョンなども発表した。

もともと「ミュージカル テニスの王子様」などでも活躍していた志尊淳。歌もたいしたもので、親しみやすい素顔の公開だけでなく、俳優としてこれまで培ってきた歌や踊りの才能も披露する、これもまた志尊淳の両義性ともいえるであろう。

常に印象を更新し続ける志尊淳。映画「帝一の國」、連ドラ「Heaven? 〜極楽レストラン〜」(TBS系)、「劇場版おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜」で子犬系男子を演じたかと思えば、「HiGH&LOW THE WORST」では闘犬のような強さを発揮する。

彼のその多面性の魅力を存分に出した作品が「潤一」(関西テレビ系)である。出会った女性によって、まったく違う表情を見せる謎の人物・潤一を志尊淳はのびのび演じている。簡単に「志尊淳らしさ」を規定させない自由さをこれからも発揮し続けてほしい。
(木俣冬)