音声コンテンツを利用する通勤者が減ったことで、ポッドキャスト市場にもまた変化が生じている。

いまは社会情勢や軽いタッチのコメディ番組が人気を集めており、また対話や社会的交流に飢えている人も多いなかで、ポッドキャストには追い風が吹いている。

メディア企業グローバル(Global)のオーディオプラットフォーム、ダックス(Dax)によれば、ポッドキャストの4月の聴取数は、2月と比べてモバイルデバイスで14%、スマートスピーカーで5%増加している。またポッドキャストプラットフォームのエーキャスト(Acast)では、5月の4週間の聴取数は、3月23日からの4週間と比べて5%増だった。エンターコム(Entercom)やボックス・メディア(Vox Media)といったポッドキャストネットワークでも、4月の聴取数が増加している。

だが内情として、パンデミックによってポッドキャスト市場は勝者と敗者に別れている。両者の特徴を見ていこう。

勝者 / Winner

独占コンテンツで、ためになる番組 : 5月第4週、Spotifyは1億ドル(約108億円)で、ポッドキャストで「ジョー・ローガン・エクスペリエンス(The Joe Rogan Experience)」の3年間の独占配信契約を結んでいる。これは月間1億9000万ダウンロードを叩き出す大人気の同トーク番組だ。Spotifyは、ポッドキャストを通じて収益源の多様化と利益の増加を狙う野心的な計画を展開している。同社は数百億円を投じてポッドキャストの番組制作企業や分析企業を買収しており、いまや100万番組を超えるコンテンツを有している。独占配信は少ないものの、これにより広告収益の獲得と会員のリテンションにつながっている。ジョー・ローガン氏の番組は独占配信であり、会員増につながる。

こういった取り組みの甲斐もあり、Spotifyにおいてポッドキャスト番組は大きな存在となりつつある。2019年末の時点で同社の月間アクティブユーザーの16%がポッドキャスト番組を聴取していたが、現在は同19%にまで増えている。

Spotifyで広告事業のグローバルリーダー兼バイスプレジデントを務めるリー・ブラウン氏は「IABは2021年のポッドキャストの広告規模について10億ドル(約1080億円)と推算しているが、これは非常に控えめな数字だと考えている」と語る。「オーディエンスの消費と音声認識デバイスが伸びているなか、ポッドキャストによるチャンスは非常に大きなものだ。次のメディアの登場を期待している人は多く、それは音声メディアになるだろう」。

パンデミックにより皆が自宅にいるなかで、エーキャストでは新しいスキルの習得やエンタメ関連コンテンツが伸びているという。3月から4月にかけての4週間で、教育番組の聴取数は20%増加した。

音声と動画の組み合わせ : Spotifyは長年かけて動画配信を進めてきた。ジョー・ローガン氏の番組の契約には、同番組の動画も含まれている。同チャンネルはYouTubeで登録者1000万人を記録しており、ローガン氏は全米でもっとも稼いでいる司会者と目されている。

ロックダウンにより通勤がなくなったことで、人々の嗜好は「音声プラス動画」の方向に向かっている。メディアリサーチ(Midia Research)によれば、パンデミックの発生している現在、ほぼどの地域でも音声のみの配信量は減少に転じている。だがレコード会社に目を向ければ、YouTubeやヴィーヴォ(Vevo)で大きな伸びを記録しているところが大半だ。

オーディオプラットフォームのサウンドクラウド(SoundCloud)は5月にTwitchと提携し、ライブチャットやパネルディスカッション、音楽発掘番組などを配信すると発表した。

オーディオ広告のリモート制作に向けた素早い動き : ここ2カ月ほど、広告主はオーディエンスを求めてオフライン予算をデジタルコンテンツへと移行している。特に人気なのが、素早く制作できるオンラインの音声広告フォーマットだ。パンデミックの最中において、迅速であることの価値はこれまで以上に高まっている。

テレビキャンペーンの展開を狙っていたある飲料ブランドは、ソーシャルディスタンスや大規模集会の禁止が禁止されたことで、音声広告の制作支援をしているSpotifyでの展開を増やした。夏向けの広告は展開するものの、時間帯などを変える予定だという。

ダックスでは、テレビで予定していたキャンペーンを展開したいという話を10社以上から持ちかけられた。同社は社員の自宅で音声コンテンツをリモート制作できるようにしており、設計、レコーディングから48時間以内に完成させることが可能だ。エーキャストは従来の放送時間の広告は24時間でまわせるようにしている。Spotifyのセルフサービス広告プラットフォームでは、マーケターが自社広告をたったの4時間で仕上げてしまう。

グローバルの商業デジタルディレクターのオリバー・ディーン氏は「音声広告は、広告主からすればオーディエンスにメッセージを伝えるための小回りがきく実践的な方法となるだろう」と語る。「品質もよく、制作はシームレスだ」。

これは動画広告ではかならずしも当てはまらない。バークレイズ銀行(Barclays)やスーパーマーケットのテスコ(Tesco)といった大手広告主は、広告の内容をコロナウイルスにあわせて調整した。

敗者 / Loser

大半のスポーツ番組 : スポーツの生配信ができない状況下で、スポーツ系ポッドキャスト番組はユニークなコンテンツ制作を行っている。エーキャストによれば、スポーツの聴取数は5月の4週間で4.5%減少した。ほかの全分野で聴取数が増加したのとは対照的だ。サッカークラブのトッテナム・ホットスパーのポッドキャスト番組、「エクストラ・インチ(The Extra Inch)」はパフォーマンスについての番組やパンデミックによりクラブの職員を一時帰休させた問題についてスピンオフ番組を制作した。同番組の月間聴取者数は、パンデミックにより半減したという。ポッドキャスト業界は、トップを走る番組の下に何十万という番組がロングテールで広がっている。ポッドキャスト番組の大半では聴取者数が20%減となっていると推算されている。

ポッドキャストのメインターゲット、「都市部の通勤者」層に代わるもの : ポッドキャストでは業界標準や測定指標が少なく、広告主の参入が遅かったこともあり、CPMは上昇傾向にある。また広告バイヤーは都市部の通勤者層へのリーチを狙っているが、音声やポッドキャストの視聴は、もはや通勤者以外の層にも広がっている。

メディアコム(Mediacom)のコマーシャルトレーディングパートナーであるチャーリー・イェイツ氏は、広告へのプラス面として、オーディエンス数が1日を通じて安定しているため音声配信の市場全体が堅調となっている点を指摘している。

LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:SI Japan)