プログラマティック広告購入のサプライチェーンについて最新の調査が行われた。

専門的なグラフとともに発表された同調査は、これまでほかの大規模コンサルプロジェクトなどが指摘してきたものと同じ結論を導き出した。それを受けて現在、業界のトップは悪者探しに躍起になっている。

英国の広告業界団体ISBAがオンラインパブリッシャー連盟(AOP)の協力を得て2年がかりで行ったこの調査には100万ドル(約1億円)が投じらており、プログラマティック広告のサプライチェーン分野において、これ以上ないほど信頼性の高い調査といえる。PwCは大手広告主15社、エージェンシー8社、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)5社、プレミアムパブリッシャー12社を対象に、2億6700万インプレッションのログファイルデータを調査した。

調査で分かった最大の発見は、

できる限りの努力をしたにもかかわらず、追跡できたインプレッションは全体のわずか12%に過ぎなかった(290チェーン、3100万インプレッション)という点だろう。

調査に参加した広告主がデジタル広告に使った費用のうち、実際にパブリッシャーに渡った金額は平均でわずか49%となっている。 (2017年にACAやANAの依頼でグローバルマーケティングコンサル企業のイービクイティ[Ebiquity]が行った米国プログラマティック市場の調査でも、パブリッシャーに届く金額は元の42%に過ぎず、似たような結果となっている。さらに2014年にWFAはプログラマティック広告費用のうちパブリッシャーに届くのは40%に過ぎないと推定している)

追跡できた3100万インプレッションを分析したところ、公開されている手数料に紐付けられない「不明なコスト」が15%あることがわかった。これはサプライチェーンにおけるコストの3分の1にもなる。

この15%の謎を追う手がかりはいくつかある。まず考えられるのがDSPとSSPの違いだ。両者はデータや手数料を異なる方法で計算している。調査では、DSPの手数料(平均で広告主の支出の10%)は契約時の割合に応じて大きく異なる。調査により、この手数料は契約に記載されている割合から上下していることもわかった。だが、以下のグラフが示すように、「データやその他の技術手数料」が購入コストの大きな割合を占めているのは明らかだ。

出典:PwCによる「ISBAプログラマティックサプライチェーンの透明性調査(ISBA Programmatic Supply Chain Transparency Study)」

ややこしく、滅茶苦茶

差額はベンダーによる追加費用以外にもさまざまな要因に起因しており、サプライチェーンのややこしさが改めて明らかになった。要素の例として、オークション後のビッドシェーディング、広告の再販売、取引契約、為替レート、アドフラウドによる損失、広告主とパブリッシャー間でのブランドセーフティに関する相違、不適切な地域へのターゲティングやボットによるトラフィック操作等が挙げられる。アドテクのデータやアトリビューションに問題がある場合もある。

要するに、サプライチェーンは専門用語だらけでややこしく、滅茶苦茶なのだ。それもまたアドテクの一面であることに疑いの余地はない。

あまりにも沢山の原因が考えられるなか、パブリッシャーは以前から直接契約を推し進めてきた。実際、わけのわからない技術手数料を取られるのであれば、パブリッシャーと直接契約を結ぶほうが良いようにも思える。

直接契約がベストなのか?

だが、あるデジタル広告企業の役員は、そんなに単純な話ではないと釘を刺す。

「(PwCの調査結果が)良い結果をもたらすと考えているパブリッシャーがいることにイライラする」と、同氏は語る。「私に言わせれば、これによって広告主は、『安全で使われ方が分かるGoogleとFacebookに全額を費やそう』と考えるのではないか」。

これを防ぐには、デジタル広告のサプライチェーン全体で、バリューチェーンとなるよう取り組んでいく必要があるだろう。イービクイティのデータベースによれば、メディアチャネルのなかでもROIが長期、短期ともに最低なのがデスクトップディスプレイで、平均82%にとどまっている。テレビのROIは短期で173%、長期で420%だ。だが、5月第2週のコラムでも述べた通り、調達においてできる限り低価格でインプレッションを稼ごうとすると、コンテクストが無視されてしまうことも少なくない。PwCの調査によれば、広告主15社だけを見ても4万以上のサイトで広告を出している。こういった広告枠の多くは品が高いとはいえない。

いまのデジタル広告のサプライチェーン、バリューチェーンはあまりにも複雑過ぎる。この現状を正しい方向に導こうとする外部の大手が存在するのは幸運といえるだろう。

サードパーティCookie問題

Googleは、2022年までにChromeからサードパーティCookieを削除する方針だ。この動きに戦々恐々としているデジタル広告業界の企業は少なくない。だが同時にこれは、まるでフランケンシュタインのような様相を呈している現在のサプライチェーンを破壊し、パブリッシャーや広告主、消費者らにとって良いものに作り直すチャンスでもあるのだ。IABはサードパーティCookieの排除を「プロジェクト・リアーク(再構築プロジェクト)」と名付けている。

アナリティクスプラットフォームのビームレイ(Beemray)で事業開発バイスプレジデントを務めるラマン・シドゥ氏は、PwCにサードパーティCookieに依存しない取引について調査を行ってほしいと期待している。

同氏は「サプライチェーンでCookieを使いまわし、マッチングさせる手間をかければ費用がかかるのは避けがたい。調査の中で不明なコストとしてサードパーティCookieが挙げられていないのは驚いた」と語る。「Cookieがあると、プログラマティック広告は本当のポテンシャルを発揮できない。それを排除することで、サプライチェーンの無駄や手数料も減るはずだ」。

「自分に問題があることを認める」

一方、業界は今後2年間サードパーティCookieなしにオンライン広告をどのように運用するか模索することになる。その結果として、同じくらいややこしい代替案が生み出され、価値を追跡するのがいま以上に難しくなってしまうリスクがある。

いま求められているのは考え方の変化だ。だが言うは易く行うは難しで、結果として業界外から強制的に変化がもたらされようとしているのだ。

パブリッシャー業界団体が創設したプライベートマーケットプレイスのトラストX(TrustX)でCEOを務めるデビッド・コール氏は、これを飲酒問題に取り組むアルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)が提唱する12の手順になぞらえている。

「まず、自分たちに問題があると認めることだ。だが、それは本当に難しい」と、コール氏は語り、ChromeからサードパーティCookieが排除されるまでの22カ月を「恩赦期間」とたとえている。

LARA O'REILLY(原文 / 訳:SI Japan)