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ダットサンの新型車 ティザーが話題

text:Kenji Momota(桃田健史)

ダットサンの新型車!?

今年(2020年)4月29日、AUTOCARが報じた。

ダットサン・レディゴー(現行モデル)

近日中に発売されるクルマのデザイン・イメージを公開する、ティザーである。

ただ、このクルマは日本では発売予定ではないダットサン「redi-GO(=レディゴー)」

現行車のスペックは、全長3429mm×全幅1560mm×全高1541mm、ホイールベースが2348mmの5人乗り5ドアハッチバック。エンジンは、799ccで5速MT。

日本の軽自動車より少し大きなイメージだが、価格はインドの場合、ベース車が約34万円とかなり安い。

こうしたクルマは、Aセグメントに属する。日本でのコンパクトカー、フィットやヤリスよりワンランク小さい。

海外では軽自動車規定がないので、「レディゴー」のようなクルマが存在する。

ターゲット層は二輪車から四輪車への乗り換えようとする庶民である。「redi-GO」は、英語の「ready GO」を連想される造語。気軽にすぐに乗れる、という意味を込めている。

そんな海外のAセグメントがなぜ日本のネットで話題になるのか?

非常事態宣言下で、日本では自動車関連情報が不足していることもあり、最近ではこうした日本未発売の新車情報がネット上で目立つようになったからだ。

そもそも……、日本でいま「ダットサン=日産」をすぐにイメージできるひとは決して多くないはずだ。

ダットサンって、なんだ?

ダットサン=日産の連想 50代以上?

ダットサンについては、日産のホームページなどに詳しい。

起源は、日産自動車という企業体が誕生する前にあるとされ、高度経済成長期には日本、アメリカ、欧州、東南アジアで日産のブランドのひとつとして広まった。

ダットサン・トラック・ロングボディ・デラックス

日本では、ダットラこと、ダットサン・トラックとして馴染みがある方がいると思う。海外では、フェアレディZもダットサンである。

ちなみに、DATSUN(=レディゴー)を欧米人は、「ダッツン」と発音する場合が多い。

こうした初代ダットサンは80年中盤に、日産のブランド戦略を刷新するために廃止された。そのため、「ダットサン=日産」とイメージできるのは、現在50代以上の方ではないだろうか。

そんなダットサンを名乗るレディゴー。このダットサンと、初代ダットサンとは目的と性質がまったく違うブランドである。

新生ダットサンは2012年、経済発展が著しい新興国向けに特化したブランドとして誕生した。

日産の内田誠CEOが日産横浜本社で決算報告などを行う際、登壇ステージのバックには、日産と並んで、インフィニティとダットサンのロゴが描かれている。

高級ブランド(インフィニティ)、セールスボリュームが最も大きい主要ブランド(日産)、そして新興国向け低価格ブランド(ダットサン)という3本柱である。

新生ダットサンはどのようなプロセスで生まれたのか?

新生ダットサンが生まれるまでの話

時計の針を少し戻す。

2008年1月、インドのデリーモーターショー。

タタ・ナノ(現行モデル)

プレスデーの朝、デリー中心部の見本市会場内は、ショーの準備ができていないブースがいくつもあった。

会場の外では、聖なる動物である牛が堂々と大通りを歩き、その脇には定住先のない人々が未舗装の路面に寝転んでいる。

新興国といっても、この頃のインドは経済成長の初期にあった。

そんなデリーモーターショー2008の目玉は、地元タタが満を持して発表した超小型車「ナノ」だった。

10万ルビー(当時レートで約27万円、現在は約14万円)という、世界の自動車産業界にとって大きなインパクトがあった。

ショー現地には、日系自動車メーカー各社の関係者が視察に来ていた。

インドはマルチスズキ(現在のスズキ)が市場の約半分を占有する特異な形態で、そこにどう切り込むかを検討していた。ホンダはインドでの活動を活発化させていたが、トヨタと日産はインド市場に対して慎重だった。

日産関係者とも意見交換したが、日産ブランドとして参入することの難しさを指摘したうえで「BRICs向けに新ブランドが必要かもしれない」と漏らした。

当時は、ブラジル/ロシア/インド/中国/南アフリカが新興国の筆頭と言われて、各国の頭文字でBRICsと呼ばれていた。

これが、新生ダットサンに至るまでの一場面だった。

ダットサン 日本では絶対に売らず?

新生ダットサンは2013年から、インドとインドネシアで発売を始めた。

最初に導入したのは、1.2Lの「GO」と、全長を伸ばして後席やラゲッジスペースを拡張した「GO+」だ。

ダットサン・ゴー+

現在、ダットサン
・redi-GO
・GO
・GO+
・ON-DO
・MI-DO
・CROSS
というAセグメントからBセグメントSUVまでのラインナップ。

販売国はインド、インドネシアの他、ロシア、南アフリカ、そしてカザフスタンの5か国だ。

2014年にインドネシア日産の本社と工場を取材したが、「GO」誕生の背景には、インドネシア政府が進めるLCGCというエコカー政策があった。

この政策の規定と、インド市場での適合を考慮して商品企画されたという。

製造は、日産車と同じ工場であり、製造管理体制や製造における質は日産クオリティである。

ダットサンは、ゴーン体制下で生まれた世界戦略の一環だ。当面は新興国向けなのかもしれない。

だが、販売せず、サブスクリプションモデルなど、所有から共有に関するビジネスようならば、日本でも使い勝手が良いかもしれない。

クルマ本体のコスト最重視を考えた新しいビジネスで、日本にダットサン導入という可能性は否定できないと思う。