「エール」26話 裕一(窪田正孝)が恵まれ過ぎていて、流石に弟(佐久本宝)が可哀想になってきた

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第6週「ふたりの決意」26回〈5月1日 (金) 放送 脚本・吉田照幸 演出・松園武大〉



坊っちゃんは少々無責任過ぎます

第5週はハイテンションな喜劇週。6週のはじめも、裕一にコンクールの賞金と版権料で、現在のお金でおよそ2500万円という大金が支払われることになって、意気揚々と川俣に帰ってくるところからはじまった。

が、しかし、主題歌明けは重い空気が立ち込める。
喜多一には茂兵衛(風間杜夫)が怖い顔で待ち構えていた。

文通相手と結婚すると聞いた喜多一の店員・及川(田中偉登)は「恵まれた家庭に生まれて、おっきな家の跡継ぎの養子になり夢に進むことも許してもらい、何が不足なんですか」「長男なんだ、家のこと第一に考えるべきでしょう。僕たちの家族や人生もかかってるんだ。坊っちゃんは少々無責任過ぎます」と大層不服な様子で、「どうした?」「口が過ぎるぞ」と番頭の大河原(菅原大吉)と桑田(清水伸)にたしなめられる。

これまでちょいちょい出てきたが、喜多一の店員たちは川俣銀行四人組ほど目立っていない。そこへ来て、若手の及川が唐突にアンチ裕一みたいになっての長台詞。なぜだ。ここで裕一の浮かれた状況は誰もに祝福されているわけではないことがわかる。


「賢いが、殻が破れん」

最も裕一のことを良く思っていない人物は弟の浩二(佐久本宝)であった。彼の不満もこれまでちょいちょい描かれてきたが、26回で大爆発。まさ(菊池桃子)と茂兵衛の前で「なんでなんも勉強してない田舎もんがそんなすげえ賞とるっってことになるの? 何か間違ってる」と苛立ちを露わにする。「努力ってもっと苦しいものじゃないの?」というセリフなども含め、ドラマで努力や勉強の様子が描かれてないと不満に思う一部の視聴者の代弁のようだ。
でも茂兵衛はそんな浩二の味方をするでもなく「結果がすべてだ」と厳しい。

あとでまさには「賢いが、殻が破れん」と言う。自分に似ていると。茂兵衛がただの気難しい人でないところが面白い。この人の言動はすべて権藤家の殻に閉じ込められているゆえのものなのだろう。

余談だが、喜多一の応接間がやたらにぎやか。大きな笑っているお面(恵比寿様か大黒天かと思う)や鬼の人形(?)がやけに目立つ。唐沢寿明のにっかりした顔はでかいお面に似せているような気がする。

似てるのは三郎と裕一か

茂兵衛と違って殻を破りまくっているのが三郎か。
おれに任せとけと言っていたのに、茂兵衛だけでなくまさにも反対されて、それ以上、話を進めることができずにいた。

裕一は裕一でまず川俣銀行に土産を持って現れ、支店長たちから実家に寄ってないのかと心配されるのんきさ。当人としては川俣銀行に住み込んでいるからまず家に帰るという自然な流れなのだろうが。まあ、坊っちゃんだからさ、という感じなのかもしれない。

そこへ三郎がやって来て、裕一にとっては言い訳にしか聞こえないことを言い、「明日は明日の風が吹くだ」と飄々としている。
何もかもうまく進んでいると思い込んでいた裕一は思いがけない壁にぶち当たって膝を抱える。
背中を丸めうなだれる姿がお似合いな裕一、このナイーブなところが魅力だが、さすがにちょっとわがままかもしれない。確かに裕一は恵まれているのに……と思ってしまった。そりゃあ、世界的なコンテストに入賞し、大金が入り、恋も実ったら浮かれてしまうのも無理はないけれど。


その頃、音は……

その頃、音(二階堂ふみ)は東京に吟(松井玲奈)とふたり出てきて、親戚の家の離れに住むことに。
さっそく音楽学校の面接を受けに行った音。「世界に通用しない人材は必要ありません」と厳しそうな先生に不安を覚える。

先生役は高田聖子。「スカーレット」に出ていた羽野晶紀とは劇団☆新感線で2大人気女優として活躍、体を張った笑いもできる、思い切りのいい俳優である。

「俺…兄さんが嫌いだ」

裕一はまさに結婚を許してもらいに実家に行くが、がんとして聞く耳をもってもらえない。
裕一は「音さんは唯一信頼できる人」と言うと、売り言葉に買い言葉じゃないが、浩二は「家族が信頼できないのか」と怒り出す。
これまで裕一を自由になんでもさせてきた家族への感謝が足りないと思う浩二の気持ちはよくわかる。

「俺…兄さんが嫌いだ」とついに言葉にする浩二。家を立て直そうとしている気持ちを「もっとわかってよ」と泣き崩れる。光あれば影がある、それを姉妹の格差として描いた秀作は「あさが来た」。姉と妹の運命の違いがドラマの通奏低音になっていた。

一方、「エール」だとどうも唐突で、兄弟のパワーバランスがうまく書けていない。あくまで弟は脇役で、ここらでちょっと裕一の幸運に水を差しておこうというときに使われる印象である。それはそれでいいのだが、それにしても、浩二の寂しさは回想でなくて幼少期に時々描いてくれないと感情移入し辛い。


ドラマの序盤、まさが浩二が生まれると彼にかかりっきりで裕一は野放しにされていたと描かれていたことや、裕一にはレジ、浩二には蓄音機で、なんとなく蓄音機のほうがいいもののように思わせる描写もあったこと。そのとき、浩二も可愛がられていたように思うし、裕一が気遣われていたとしたら、吃音で内向的だったことがそうさせていたと想像するが、それももう心配なくなっていて、やっぱりただただ裕一が好きなことを好きなようにして恵まれまくっている印象しかない。

窪田正孝がナイーブに演じているのでかろうじていやな感じがしないが、やたら元気でおバカな感じの演技をする俳優だったら、嫌われていたかもしれない。流れがぎくしゃくした感じは脚本家が交代した弊害であろうか。

ただ、浩二役の佐久本宝の演技が巧く、辛い感情がひしひしと伝わってくる。沖縄在住のとき、映画「怒り」(16年)で重要な役に大抜擢、新鋭として注目され、最近では「3年A組 ―今から皆さんは、人質ですー」などでも活躍している。歩留まりなしで感情をずばっと吐き出す芝居は気持ちいい。
「嫌い」と言いながら、本当は嫌いじゃないんだろうと思える、浩二もただ愛が欲しいだけなのだという複雑な胸のうちも伝わってくる。

だから余計に、2500万、喜多一の建て直しに使いなよって思ってしまう。現実の世界で、経済的に困窮している人が今、多いから余計にそう思うのかもしれない。いやいや、天才作家は自分の幸福のみを追求し、作品で他者を救うのだという意外とハードなお話なんだろうか、これ。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和