キックオフカンファレンスで登壇した三浦(右)とイニエスタ(左)。写真:金子拓弥

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 Jリーグのキックオフカンファレンスで、アンドレス・イニエスタと三浦知良は揃って壇上に立った。ふたりが所属するヴィッセル神戸と横浜FCは、2月23日のJリーグ開幕節で顔を合わせる。

 キャリアの終盤を日本で過ごしているアンドレス・イニエスタだが、三浦の隣に並ぶと、アレビン(11歳〜12歳)の選手のような雰囲気を漂わせていた。イニエスタがボールを蹴り始めた頃、三浦はすでにプロのサッカー選手だった。我々スペイン人の間で末永く愛されているアニメの原作コミックが発売され始めた時、イニエスタはまだこの世に生を受けていなかった。

 そのコミック、『キャプテン翼』は1981年に連載が始まった。漫画家、高橋陽一氏が描くプロサッカー選手を目指す少年たちの成長物語だ。2年後にはアニメ化され、後年、スペインでは「カンペオネス、オリベルとベンジ」とタイトル名を変えて放送された(オリベルはオリベル・アトム、大空翼のこと、ベンジはベンジ・プライス、若林源三のこと)。
 
 その頃、ひとりの日本人の青年がサッカーを学びにブラジルに渡っていた。それが三浦で、いつしかオリベル・アトムのモデルとして認識されるようになった。

 魔術師オリベルは、実際のサッカーの試合ではあり得ないアクロバティックなプレーを連発していた。時に現実はフィクションを超える。今月26日に53歳の誕生日を迎える三浦はJ1に昇格した横浜FCでいまも現役を続けているのだ。

「僕もその年齢まで続けられたらいいんだけどね。情熱を失わず、サッカーへの愛を持ち続けている。尊敬を感じる」

 対面を果たした後、17歳年上の三浦について、イニエスタはこう語った。現在スペイン2部のデポルティボでプレーする柴崎岳も三浦の信奉者のひとりで、最大級の賛辞を述べる。

「(僕があの年齢まで現役を続けるなんて)あり得ない。誰からも愛され、尊敬されている。すべての若手の模範となる存在だ」

 日本は伝統を重んじる国として知られるが、三浦もまた背番号11にちなんだある習慣を持っている。それは毎年1月11日午前11時11分に契約更新を発表することだ。
 
 三浦はJリーグが誕生した1993年当時から日本を代表するスター選手のひとりで、そのオープニングゲームにも出場。アジア、ヨーロッパ、南アメリカ、オーストラリアを股にかけて活躍し、ジェノア時代には、サンプドリアとのダービーマッチでゴールを決めている。

 誕生日ケーキに立てられた50本のローソクを吹き消してしばらくした後にリーグ戦で得点し、そのゴールは最年長プロ選手としてギネス世界記録に認定された。

 いま日本で生活する100歳以上の高齢者は7万1000人を超える。これは21世紀が明けた頃よりも5倍以上に相当する。この高齢化社会が加速する日本において、サッカー選手の“高齢化”も進行しており、中村俊輔もそのひとりだ。スペイン1部のエスパニョールに入団した約11年前、キャリアの晩年に差し掛かりつつあると思われていたが、6月に42歳になる今シーズンも三浦と同じ横浜FCでプレーする。
 
 こうしたJリーグ独特の現象について、「日本の文化と関係がある」と語るのがガリシア地方出身で東京のスペイン大使館に勤務するパブロ・ルビン氏だ。

「日本にはセンパイとコウハイという習慣がある。センパイはコウハイよりも立場が上の人間だ。会社でも学校でもスポーツのチームでも、何らかの組織に所属したら、必ずそう区分される。コウハイはセンパイよりも後にその組織に加わり、したがって経験が浅い。センパイに対しては丁寧な口調で話す必要があり、アドバイスを求めることも多い」

 こうした上下関係が根付いている社会的価値観を背景に、三浦の周辺には幕を下ろす時間が訪れつつあると進言する者は皆無に近いそうだ。