星野リゾート代表の星野佳路氏(撮影:今 祥雄)

2020年に年間4000万人――。

政府が掲げる目標に向けインバウンドが順調に増加している。だが、その恩恵を享受する宿泊業界に、高級ホテル・旅館を運営する星野リゾートの星野佳路代表は警鐘を鳴らす。

『週刊東洋経済』12月23 日発売号の「2020大予測」では、経営トップ64人を含む計85人の注目パーソンにインタビュー。その中から、宿泊業界の前途を語った星野代表のインタビューをお届けする。

高齢化とインバウンド減速が打撃に

――2020年は東京五輪の開催という追い風が吹きます。

確かにここ数年、東京五輪に向けて増加するインバウンドの取り込みで、宿泊業界は活気づいた。ただ、東京五輪でそれが一段落すると、業界は大きな目標を失うことになる。

その後もインバウンドが成長し続けると信じるのではなく、課題を抱える五輪後の宿泊市場が本当に伸びるのか、真剣に考えるべきだ。

――五輪後の課題とは。


まず2025年に向けて、今の旅行市場を支える団塊の世代が後期高齢者になっていき、必ず減速する。さらにインバウンドも、(全体の約4分の1を占める)韓国人客が足元で半減している影響が、来年から通年で効いてくるはずだ。

――それらの要因を踏まえ、2020年の国内ホテル市場の動向をどのように見込んでいますか。

東京や大阪、京都など、これまでインバウンドの成長を引っ張り投資が集中してきた都市で、一時的な供給過剰が発生するだろう。これはホテル産業の発展において避けては通れない新陳代謝で、決して悪いことではない。

むしろそういう時こそ、星野リゾートのような運営会社の真価が問われる。誰が運営してもうまくいく近年の宿泊市場では、あまり出番がなかった(笑)。

――供給過剰の市場において、何が勝敗を分けるのでしょうか。

単に新しいだけでなく、サービスや集客の仕組み、ブランド力といった総合的な実力で天秤にかけられる。インターネット時代を迎え、集客の方法が劇的に変わっていく。ホテルで受けるサービスや施設の機能だけでなく、ネット上の「旅マエ」(旅行前)も戦場となりつつある。

口コミの使い方は変わってくる

――「旅マエ」の評価を左右する口コミの価値が問われつつあります。


星野佳路(ほしの よしはる)/1960年生まれ。日本航空開発(オークラ ニッコー ホテルマネジメント)を経て、91年から実家の星野温泉社長就任。現在はグループの代表を務める(撮影:今 祥雄)

サービス利用者の中で口コミサイトに投稿した人の比率は低く、統計的に信頼できる指標とはいえない。実は消費者による口コミの利用方法も賢くなっている。調査したところ、最近の消費者は総合評価ではなく、(アメニティーの充実度など)自分にとって大事な部分の確認だけに口コミを用いるようになっていた。

ネットの時代に口コミからは逃げられないが、2020年以降の口コミの使い方は2010年代とはまったく変わってくる。

――口コミに負けない情報発信やブランド力がカギを握りそうです。

悪い口コミは、期待したことと実体験とのミスマッチで生まれる。その解消のために、ホームページなどでホテルを十分に説明しなくてはいけない。一方で、悪い口コミをなくす努力はコモディティー化を促進する。

供給過剰の市場で重要なのは、ホテルの個性だ。文句はないが感動もないホテルになったところで、激しい競争に巻き込まれてしまうだけ。悪い口コミを怖がらず、本当のファンを作るべきだ。

『週刊東洋経済』12月28日・1月4日合併号(12月23 日発売)の特集は「2020大予測」です。