大谷翔平がエンゼルスにもたらした絶大な効果
大谷翔平選手が所属するアメリカ・メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスの本拠地であるエンゼルスタジアム・オブ・アナハイム(筆者撮影)
2019年のメジャーリーグは、ワシントン・ナショナルズの初優勝で幕を閉じたが、日本で最も注目されていたのは、2年目のシーズンを過ごした大谷翔平選手の一挙手一投足といっても過言ではないだろう。
史上初の「二刀流」選手として海を渡ったが、2019年シーズンは右肘の靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受けたこともあり、指名打者としての出場に専念。大谷選手自身は「個人としてもチームとしても、今まででいちばん悔しいシーズン」と振り返った今シーズンだったが、メジャーリーグで日本人初となるサイクル安打をはじめ、その活躍は連日多くのメディアで取り上げられた。
9月には左膝の二分膝蓋骨(しつがいこつ)の手術を受けることが発表され、一足早くシーズン終了を迎えたが、すでにリハビリやキャッチボールを開始しており、来シーズンの「二刀流」復活に向けた準備は着々と進められているようだ。
「大谷フィーバー」は本当に存在するのか?
この2年間、投打の双方で活躍してきた大谷選手を語るうえで欠かせないのが、「大谷フィーバー」なる現象だ。大谷選手の活躍にスタジアムの観衆が魅了され、その様子を伝えたメディアによって、アメリカ全土で大谷選手の人気が拡大していくというもので、さまざまな切り口から「大谷フィーバー」が報道された。筆者はその実像に迫るべく、アナハイムにあるエンゼルスタジアムを訪れた。
エンゼルスの試合を観に訪れた日本人ファンは大谷のユニフォームを着ていた(筆者撮影)
この日は、奇しくも大谷選手が左膝の手術を決断した9月11日のインディアンス戦だったが、スタジアムでとりわけ目立ったのが、意外にも日本人観光客の姿であった。
エンゼルスのポストシーズンに進出する可能性が潰えつつあったこともあってか、スタジアムに来場しているおよそ20〜30%を日本人が占めているという印象で、スタジアム正面には、マイク・トラウト、アルバート・プホルスなどの名選手と並んで大谷翔平選手のパネルが掲げられている。その前には、記念撮影を待つ日本人観光客の列ができていた。
大阪から訪れたという8人組の大学生は、「日本のメディアが大谷選手を持ち上げているだけではないかと思っていましたが、球場の正面にあるパネルを見て、そうではないことを確信しました。大谷選手は『日本の宝だ』と思っているので頑張ってほしい」と、現地の印象を語る。
現在の「大谷フィーバー」や観戦に訪れる日本人観光客について、球団はどのように捉えているのだろうか。エンゼルス広報部のルーク篠田氏はこう語る。
「大谷翔平」と漢字で書かれたキャップも人気だという(筆者撮影)
「開幕から多くの日本人の皆さんにご来場いただきました。自国選手を応援するために、海外のスタジアムにまでやってくるのは、日本人特有の動きだと思います。日米野球もあり、MLBも日本支社を置いていますし、マーケティングの視点からも、日本を重視している印象を抱いています」
日本人をターゲットにしたマーケティング戦略は、スタジアム内にあるグッズショップでも垣間見えた。日の丸や漢字などがデザインされた商品が多くそろえられた店内では、会計を待つ日本人観光客の列が絶えない。
「日本人の皆さんは、グループでスタジアムに来てくださるので、グッズはもちろん、スタジアム内にも日本食のメニューをそろえ、くつろいでいただける環境を用意しています。
そして、スタジアムを訪れる多くの皆さんが、大谷選手はもちろん、『ジャパニーズキャラクター』を愛してくださっています。日本的なデザインの商品は、国籍問わず、多くのファンにご購入していただいていますよ」(商品販売を担当しているエリック・アースア氏)
さまざまなグッズのなかで1番の売れ筋は、野球帽(32.99ドル)と大谷選手の名前が入ったシャツ(34.99ドル)とのこと。「大谷選手の名前と背番号が入ったシャツは、毎試合100枚以上売れている。帽子とペアで買っていかれる方も多い」(エリック・アースア氏)という人気ぶりだ。
昨年、MLB公式サイトが発表したユニフォーム売り上げランキングでは、エンゼルス内で1位、メジャーリーグ全体でも8位だった大谷翔平選手。今シーズンも同様に、関連グッズの売り上げは好調を維持しているようだ。
「大谷フィーバー」が観客動員に与えた影響
アースア氏によると、「詳細な数字はわからないが、昨シーズンの大谷投手が登板した試合は、2000人ほど観客数が多い印象を持った」とのこと。
大谷フィーバーについて語ったエリック・アースア氏(筆者撮影)
実際に、大谷投手が登板した、昨年4月8日のアスレチックス戦は、4万4742人。18日のレッドソックス戦では4万4822人の観客がエンゼルスタジアムを訪れており、エンゼルスの年間平均観客動員数の3万7287人を大きく上回っている。
これらを踏まえると「大谷フィーバー」は、確かに存在する。その一翼を日本人観光客が担っている側面もあるといえるだろう。
過去にもメジャーリーグで、大谷選手と同じような「ブーム」を巻き起こした日本人がいる。1995年にロサンゼルス・ドジャースに入団し、新人王を獲得した野茂英雄投手の「トルネード旋風」だ。
当時のドジャースにスタッフとして勤務し、現在は大谷翔平選手が所属するエンゼルスの広報に携わられているグレース・マクナミーさんは、「メールやスマートフォンの普及によって情報伝達の速度や方法は変わりましたが、日本人だけでなくさまざまな方が選手のプレーに興奮し、熱狂に巻き込まれていくという状況は、『トルネード旋風』のときに似ていると思います」と話す。
日本人メジャーリーガーのパイオニアとして活躍した野茂英雄投手と、ベーブ・ルース以来の「二刀流」選手として海を渡った大谷翔平選手。24年の月日を超えた今も、球場に集うファンの想いには共通点があるようだ。
「二刀流」復活で「大谷フィーバー」は加速するか
今シーズンはア・リーグ西地区4位に終わったエンゼルスだが、新指揮官のジョー・マドン氏にチームの再建と、大谷選手の「二刀流」復活は託されることとなった。
身体的な負担が不安視される一方で、「来シーズンは、本塁打やサイクルヒットに加えて、投手としても163キロ。さらなる活躍が楽しみです」(大阪府・学生)と、ファンからは二刀流に期待する声も大きい。
2020年シーズンにスタジアム観戦を考えている日本人に向けて、アースア氏は「エンゼルスタジアムでは、家族や友達同士など、さまざまな形で、安全かつリーズナブルに野球が楽しめる場所です。寿司や照り焼きといった日本食も用意し、日本から来られる皆さんに楽しんでいただける環境も整っています。ぜひ足を運んでみてほしい」と語った。
来シーズンの「二刀流」復活で、さらなる活躍が期待される大谷翔平選手。その雄姿と、「大谷フィーバー」の熱狂はさらに高まることが期待できるだろう。