「いないいないばあっ!」のチャリティーステージ「ワンワンわんだーらんど」の、中国版ステージショー(2018年8月)(写真:上海习游文化传播有限公司)

0〜2歳児向けの番組「いないいないばあっ!」が、今、アジア各国に「輸出」され、人気を博している。教育熱の高まりなど背景に、日本の乳幼児向け番組制作のノウハウが求められている――。

0〜2歳児を対象にしたEテレの人気番組「いないいないばあっ!」。踊りや歌、人形劇などで成り立つこの番組に、わが子もそれはそれはお世話になった。オープニング音楽が流れたとたん、どんなに泣いていても番組の世界に引き込まれたものだ。今、その「いないいないばあっ!」が、中国、ベトナム、ミャンマーで放送されている。

独自のキャラクターなど「お国柄」も取り入れて

2017年1月からベトナムで吹き替え版が放送され、2017年7月には中国でも、完全ローカライズ版の放送が始まった「いないいないばあっ!」。アジア諸国での人気は好調で、今年8月からはミャンマーでも放送開始。アジアの子どもたちを次々と魅了する理由を、ベトナム・ミャンマー担当の演出・奥富健善氏はこう語る。

「そもそも、これらの国で未就学児のみを対象にした幼児番組がこれまでなかったのが人気の大きな理由でしょうね。ベトナム国営放送に初めて教育専門チャンネルが開局したのが3年前。海外アニメの吹き替えなどはあっても、同じくらいの年齢の子どもが実際に登場する乳幼児向け番組はなかった。ベトナムでは、0歳から6歳くらいまでがそろって楽しんでくれていますよ」

子どもにうけるものをいちばん知っているのは子どもたちだ。

中国での放送は、上海のある制作会社の男性が日本在住時に『いないいないばあっ!』に夢中になっている子どもの様子をみて、いつか中国でも放送したいと考えたことがきっかけ」と、プロデューサーの鈴木知子氏。

「ただし吹き替え版ではなく、親近感を持たせるために、出演者は全員中国の人でやりたいと。現地の子どもたちをオーディションして、スタジオ撮影や家庭でのロケを行い制作されています」


べトナムでも、放送2年目からはオリジナルのネコのキャラクター「ミャオミャオ」を開発・制作し、ベトナム各地を訪れるキャラバンロケも現地で撮影するなど、オリジナルの部分が多くなった。現在制作中のミャンマーは、スタジオ設備が整っていないこともあり、自然の中でのロケが中心だ。各国のカラーやオリジナリティーを出しながらも、日本側は番組の質を維持するよう、制作のサポートや監修を行っているという。

「どの国の制作スタッフにも日本で研修を受けてもらいますし、こちらも現地に出向いて勉強会をしたり、とくにはじめは制作の指導もしていました。新キャラの『ミャオミャオ』もデザインはベトナムチームに任せつつ、人形は日本の工房で作るなど、技術的なフォローもしています」(奥富氏)


NHK「いないいないばあっ!」の主要キャラクター「ワンワン」と、ベトナム国営放送VTV7版に登場するネコのキャラクター「ミャオミャオ」(写真:NHK)©VTV7

そんな努力のかいあって、放送開始から2年が過ぎたベトナムや中国では、現地スタッフが制作したパッケージを、日本でチェックするだけで放送できるほど、クオリティーが高い番組が出来上がるようになってきた。遠足のお弁当箱がバインミーだったり、お月見団子が月餅だったり、ミャンマーの寺院でお参りをしたりと、文化や生活習慣の違いが見られるのも楽しい。

「日本では宗教色は通常出さないのですが、ミャンマーではお参りが日常。そこは外せなかったですね。ただ、犬は寺院に入れないので、ワンワンは正装して、お寺の前にいる設定です(笑)」(奥富)

「違いがあるのは面白いですよね。それに、いないいないばぁ遊びは万国共通。子どもたちが面白いと思う感覚はどこも同じだということも発見できました」(鈴木)

「海賊版」ではなく本物を! アジアの教育熱

視聴者の反応は好調で、ベトナム、中国ともに、各局上位の視聴率を得ている。さらに中国では公式グッズの売れ行きもよく、ファンミーティングや有料のステージショーにも親子連れが集まると言う。

「とくに上海は教育熱心な家庭が多く、子どもの教育にお金や時間をかけようという世帯が多いですね。海賊版ではなく良質な本物を与えたい思いが強いようです」と鈴木氏が言うように、中国だけでなく、ベトナム、ミャンマーでも子どもへの早期教育の期待が高まっている。だからこそこうした幼児番組がうけるのだが、一歩間違えると親は番組に過度な知育要素を求める傾向があり、それが悩みの種だと言う。

「この番組は決して上から教え込む番組ではないんです。例えば、ワンワンに『さあ、歯磨きしましょう』『手を洗おうね』とストレートに言わせるのは違う。ワンワンは先生じゃないですからね。子どもと同じように、遊びや失敗を通して一緒に学んでいくというコンセプトを、制作側に理解してもらうのは難しいですね」(奥富)


ミャンマー版「いないいないばあっ!」のロケ風景。 スタジオ設備が整っていないこともあり、自然の中でのロケも多用(写真:NED)

数字や文字学習などの知育的要素を番組に入れれば、確かに親世代は喜ぶだろう。だがEテレがこの番組を通して世界で共有したいのは、知識よりも自然や家族を愛する情緒や、友達と過ごす喜びや豊かさ。つまり、子どもが本来求める楽しく幸せな世界観そのものだ。

「やっぱり子どもたちは最初からわかってくれているんです。とくに、赤ちゃんは音や映像の質が高ければ興味を持ってくれる。それは、私たちが今、外国版を見て感じることでもあります。外国語で説明が続くと退屈だけど、音楽や映像が楽しいと飽きない。海外制作を通して、改めて赤ちゃんの気持ちになることや、言葉に頼らず表現を磨く大切さを学んだ気がします」(鈴木)

作り手である大人たちが、かつてのワクワクを忘れないこと。それがこの番組が世界に受け入れられている理由だった。