アメリカではマーケティングにおいて、人種マイノリティへの考慮も強く求められるようになっている。

匿名を条件に業界の裏事情について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。本稿ではマルチカルチュラル・エージェンシー(人種マイノリティに特化するエージェンシー)におけるエグゼクティブに、クライアントと業務を行うことの困難、(人種マイノリティに特化した)マルチカルチュラル・キャンペーンの本来の意図、そして人種差別的なコメントに対するクライアントの対応について語ってもらった。

以下、主要な内容を編集を加えて紹介する。

―― 一般のマーケット・エージェンシーではなく、マルチカルチュラル・エージェンシーを選ぶクライアントがいるのはなぜか



一般のエージェンシーにおける人種構成がもっとも大きな理由だと言えるだろう。マルチカルチュラルな広告エージェンシー、マーケティング・エージェンシーやPR企業を見てみると、クライアントがガイダンスや助けを求めるまさにそのグループの人々が存在している傾向にある。マルチカルチュラル・エージェンシーでありながらひとつの人種、民族、もしくは全員が白人といった状況は、私には意義を感じられない。

しかし、この業界では、こういった状況によく出会う。PR出身の人間としては、私はエージェンシーからエージェンシーへと移り渡ってきたが、それぞれの職場で一緒に働くのはヒスパニック系のスタッフは1〜2名、黒人の同僚は1名しかいない、といった具合だった。大部分が白人で占められている業界だった。

なので、マルチカルチュラルな人々に向けてプロダクトをマーケティングしようとすると難しいことが多かった。彼らにどうやってリーチすれば良いか、彼らの興味や好みにどうやって繋がれば良いか、を知らないからだ。理解するためには、その世界から出てきた人物である必要がある。いろいろな異なるグループからやって来た人々が混ぜ合わさって構成されていることがマルチカルチュラル・エージェンシーの強みとなっている。一般のマーケット・エージェンシーは、クライアントに成果を届けるために必要なオーディエンスに関する知識やスキルを十分に持っていないため、彼らもまた、マルチカルチュラル・エージェンシーに助けを求めるのだろう。

――あなたのエージェンシーは、どれほどの多様性を持っているのか



状況は変わってきた。ある時点では大部分がアフリカ系アメリカ人で構成されていた。これは、その点では必ずしも有意ではないと、私は思う。ひとつの場所にたくさんの異なる(バックグラウンドからの)人々を持つことが良いと、私は考える。しかし、私のエージェンシーは、過去1年に、より多様性を増したと思う。ヒスパニック、ラテン系の従業員がいまでは多く存在し、白人も増えた。いまでは非常に面白い、多様性を持ったグループとなっている。以前はそれほど多様性がなかった。これは奇妙なことだ。

――マルチカルチュラル・エージェンシーを起用したことがないクライアントと働くにあたり、どのような困難を体験したことがあるか



私の体験から言うと、通常のマーケットに取り組むクライアントや企業の多くは、非常に数字やデータ中心主義であることに、私は気づいた。質的よりも量的であるのだ。マイノリティ・グループを理解するうえで、非常に重要だと思うことのひとつは、これらの人々に対する質的な理解を持つことだ。人間の集まりをデータで定義付けることはできない。

――具体的に数値を求めてきた場合、どのようなデータを提示するのか



彼らは我々がスポンサーをしているイベントにどのような種類の人々が出席しているのかを知りたがる傾向にある。ブランデッドイベントでは、我々はスピーチ、コメントの獲得、そしてアワードの受賞プレゼンテーションなどに関わっているため、イベント全体を通して我々が存在していることになる。そんななかで、クライアントたちがイベント後のアクションやリポートで欲しがるのは、誰が参加していたのか、という情報だ。年齢構成はどのようなものだったのか。そして、その分類を求めてくる。何人がアフリカ系アメリカ人だったか、何人かヒスパニックだったか、何人がアジア人だったか。なぜ、これらのグループにリーチすることが重要なのか、これらのグループにリーチすることの意義は何か。特定の取り組みに予算を投入するための、こういった理由付けが重要だ。時に、彼らは一般マーケットのイベントにより意義を見出すことがある。

――クライアントからの数値データへのこだわりが、業務の妨げになったケースはあるか



イベントの場合、マルチカルチュラル・イベントに50人しかアフリカ系アメリカ人が出席しない場合もある。彼らがリーチしたいと考える特定のオーディエンス属性があったとして、このような場合クライアントは「なぜこのイベントに500人、100人参加しなかったのか?」と言ってくることがある。そのような時には数字の小ささを心配するのではなく、この50人にどのような影響を与えているか、を理解することが必要となる。数字が原因で我々はこのクライアントを失いかけている。彼らがターゲットとしているオーディエンスとのエンゲージメントが持っているインパクトではなく、数字を通して、この結論(彼らのエージェンシーをクビにするという)の理由を見つけている。

――クライアントとのやり取りのなかで人種差別を経験したことはあるか



最近、私はクライアントと一緒にイベントに参加した。それはアフリカ系アメリカ人がオーディエンスにも主催側にも多いイベントだった。イベントのベンダーはクライマックスのパーティを祝うために我々を食事に招待してくれた。そこで私は自分のクライアントが非常に居心地が悪そうにしているのに気がついた。彼はその場を去りたがっており、すぐにホテルに戻りたがっていた。ベンダーがオススメのバーを提案した時、クライアントは首を激しく横に振って、そのバーが「彼にとって居心地が良い場所ではない」ために、そこには絶対に行きたくはないと主張した。彼はイベントスタッフを説得して、我々のホテルへと行くことになった。彼が黒人で占められているイベントにいることに非常に居心地の悪さを感じているのだなと、その晩気がついた。

Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)