インフルエンサーマーケティングに限っていえば、エージェンシーはもはや、ペルノ・リカール(Pernod Ricard)が有する一部ブランドの牽引役ではない。

同グループのブランド、マリブ(Malibu)のマーケターは5年前、インフルエンサーマーケティング戦略に対して、完全無干渉主義の姿勢を取っていた。つまり、インターネット界で輝くスターたちの管理も、監督も、測定も、エージェンシーに丸投げしていた。だが、社のメディアおよびクリエイティブ資金がますますインフルエンサーに流れるなか、同社のグローバルマーケティングチームは、そして最近ではローカルチームも姿勢を改め、主導権の掌握に積極的になっている。

「最近は従来型のメディアではなく、インフルエンサーマーケティングに資金を注ぎ込んでいる」と語るのは、マリブのグローバルマーケティングマネージャー、モニカ・ジュングベック氏だ。同氏は具体的な金額こそ明かさなかったが、同社マーケティング部が現在、もっとも注目しているのはインフルエンサーであり、ソーシャルメディアやイベント、制作用の資金を投入していると語った。

ほかのブランドも、多くはリーチ数以外、インフルエンサーの利点をいまだ把握しきれていないにもかかわらず、同様の動きを見せている。米食品会社ゼネラル・ミルズ(General Mills)はたとえば、一部ブランドのデジタル予算のうち、じつに1/3をインフルエンサーマーケティングに割いている。実際、関係者に不安や疑念は残るものの、業界全体として支出は増え続けている。2017年、YouTubeと並んで最大を誇るインスタグラム(Instagram)のグローバルインフルエンサーマーケティング業界の規模は、11億ドル(約1100億円)だった。それが、2019年には29億ドル(約3100億円)に上るだろうと、独調査会社スタティスタ(Statista)は発表している。

インフルエンサーの知識



「インフルエンサーの知識をすべてインハウス化する必要がある」と、ジュングベック氏は語る。マリブでは、契約したインフルエンサーのタイプから投稿の週間の動きに至るまで、すべてをグローバルとローカルの両レベルにおいて、自社マーケターが監視している。高名なインフルエンサーとは短期契約を結ぶのが通例であり、ジュングベック氏をはじめ、グローバルマーケターが直接管理する。一方、ローカルインフルエンサーとの契約は、物との交換(quid pro quo)条件が一般的であり、地元マーケットのマーケターと連動させている。投稿の場は主に、YouTube、インスタグラム(Instagram)、そしてFacebook。現在、IGTVも試験的に利用しているが、急成長を続けるTikTok(ティックトック)のオーディエンスは、マリブのようなアルコールブランドには若すぎると、ジュングベック氏は語る。

マリブはいずれのインフルエンサーに対しても、契約を交わす前に必ず、軽犯罪歴の有無を確認し、過去の投稿に対するフォロワーの反応を念入りに調査する。同社では、1500万から2000万人のフォロワーを有するインフルエンサーを「メガインフルエンサー」としており、彼らが行なう自社ブランド絡みの全投稿のうち、ポジティブな反応数が全体の5%を越えるものを好評の兆候と見なしている。メガインフルエンサーのそれよりも忠実で反応の良いフォロワーを擁することが多いマイクロインフルエンサーの投稿については、その判断基準を10%超としている。

アルコール飲料のような非常に規制の厳しい市場において、こうした監視/確認は不可欠であり、マリブに限らず、広告主は通常、インフルエンサーの軽率な行動による炎上を避けるため、長期の契約を敬遠する。「インフルエンサーとは、密な関係を築く必要があると考えている。我々のブランドを支持し、キャンペーンに心から賛同してくれる人物だけを確実に起用したい」と、ジュングベック氏は語る。

サマーゲームという仕掛け



マリブは昨年から、有力なインフルエンサーを一堂に集め、水風船投げやダンス対決などを行なわせる夏のキャンペーン、サマーゲーム(Summer Games)を仕掛けているが、ドミニカ共和国における今年のイベントには、人気歌手/俳優ニック・ジョナス氏をキャンペーンの顔に起用しないことを決めた。昨年のキャンペーンにおいて、氏に対するファンの反応が期待を下回ったためであり、今年はインフルエンサーのみで行くことをマーケター陣で決定したと、ジュングベック氏は語る。5年前なら、その決断を下したに違いないエージェンシーは今回、インフルエンサーの候補探し役を担った。

優秀なインフルエンサー探しは、依然として容易ではない。エージェンシーやエージェント、ときにはインフルエンサー自身とのコネクションに頼らざるをえないからだ。多くの広告主がこの作業をメディア、スポンサーシップ、あるいはインフルエンサーに精通するエージェンシーに委託する一方、最近では、こうした業務を専門とする、インフルエンサーに特化した職業も次々に誕生している。マリブの場合、アルゼンチンなどいくつかのマーケットでは、自らマイクロインフルエンサーを探していると、ジュングベック氏は語る。そうして見つけたマイクロインフルエンサーには、前述のサマーゲームに参加させ、世界規模の試みとは別に行なう、キャンペーンの効果的ローカライズを任せている。

実際、アディダスやケロッグ をはじめ、小規模のインフルエンサーに注目する広告主が増えているが、これにはふたつ理由がある。ひとつは、コストを抑えられるからであり、その背景には、1本の投稿に対するエンゲージメントが、リーチ数と同じく重要になっている事実がある。もうひとつは、需要の高まりを受けた有名インフルエンサーの人気高騰で、マーケターが彼らからのエンドースメント待ちの列のなか、ほかよりも目立つために四苦八苦させられる事態も起きているという。

エージェンシーの代替に



「単一のキャンペーンに大小インフルエンサーを巧みに利用するブランドが増えてきた」と、インフルエンサーマーケティングプラットフォーム、バズール(Buzzoole)のグローバルCMO、サラ・ホイットフィールド氏は語る。「たとえば、有名インフルエンサー1人にリーチ数を稼いでもらい、フォロワー数はやや劣るがクリエイティビティが光る人物にコンテンツをサポートさせ、さらに、フォロワーと密な関係にある小規模インフルエンサーを数名使う。こうした組み合わせの妙を、ブランドは心得てきている」。

マリブも然りで、インフルエンサーに投稿の制作を一任するケースが増えている。大小インフルエンサーとは別に、クリエイティブな人物も積極的に起用し、マリブのコンテンツに基づいた、より自由な投稿作りを認め、通常はキャンペーン用に取っておく制作資金を使わせている。「ある意味、インフルエンサーはすでに、エージェンシーに取って代わりつつある」と、ジュングベック氏。「サマーゲームでは、インフルエンサーが考案する独創的なコンテンツの比重が従来型のそれよりも大きくなっている」。

ただ、インフルエンサーを率いて独自にキャンペーンを張れるとはいえ、エージェンシーを単なるタレントスカウトとして使うことは、マリブの意図するところではない。サマーゲームでは、Vice傘下のエージェンシー、Virtue(ヴァーチュー)がマリブのコンサルタント的な役を担い、アイデア探しに協力している。

Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)