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もくじ

ー 一風変わった4台 いつもとは違うテスト
ー キアとアルファ 新生508
ー 目的は差別化 インテリアはさまざま
ー 快適なキャビン 変わる指標
ー 2.0ℓのDB11 ダイナミクス性能に不満
ー 別格の存在 選ぶべき1台
ー テスト車のスペック

一風変わった4台 いつもとは違うテスト

今回のテストには型破りな4台が集まっている。アウディやBMW、メルセデスといった、ありきたりなモデルでは満足できないひとびとに向けたテストであり、集まったのは、レンタカーでは絶対に選ばれないようなモデルばかりだ。

新型ボルボS60のルックスを魅力的だと思わないだろうか? もちろん、ドイツ製プレミアムサルーンのライバルたちと比較することも出来たのであり、もしそうしたなら、落ち着きの面で新型3シリーズには敵わないものの、このクルマはそれに次ぐ2番目の評価を得ることになっただろう。

だが、そんなお決まりの結論など見たくはなく、そして、このテストをより興味深いものにしたいと考えたからこそ、こうしたドイツ製プレミアムサルーンとは一味違う、3台の大型ファミリーサルーンとハッチバックモデルを集めてみることにしたのだ。


このなかで、もっとも風変わりな1台を決めるのは簡単ではないが、おそらく、それはキア・スティンガーということになるだろう。

それほど遠くない昔、3万ポンド(414万円)超のプライスタグを掲げたボルボ製エグゼクティブサルーンのライバルに、キアの名が挙がるなど考えられなかったが、いまや時代は変わったのであり、例え、この後輪駆動のキア・スティンガーにあまり馴染みがなくとも、このクルマは多くのひとびとのキアに対する認識を変える存在だ。

何よりも、スティンガーの開発を行ったのは、かつてBMW Mディビジョンの責任者を務めていた人物であり、英国版Autocarでは、このクルマを高く評価している。

なかでも、大排気量V6とリミテッドスリップディフェレンシャルを搭載したモデルがお気に入りなのは、ひとえにわれわれが大人になり切れていないからだが、今回の参加車両は、S60と同じ2.0ℓガソリンエンジンを積んだモデルであり、先にお伝えしたとおり、今回のテストはいつもとは少し違うのだ。

キアとアルファ 新生508

つまり、この245psを発揮するキアは、リミテッドスリップディフェレンシャルこそ備えてはいないが、8速オートマティックギアボックスを介して後輪を駆動することに変わりはなく、それは、280psのヴェローチェが参加するアルファ・ロメオ・ジュリアも同じだ。

ジュリアとは多くの時間をともに過ごしているが、そのほとんどがクアドリフォリオとであり、このスポーツサルーンというよりは、スポーツカーを思わせるモデルこそ、このクルマを創り出したひとびとが成し遂げたかったことを証明している。

そう考えると、やはり、いまなおエンスージァストや、クルマ好きのエンジニアに高く評価されるフェラーリ458スペチアーレを手掛けた人物が、ジュリアの開発を主導したことをお伝えしておくべきだろう。ジュリア・ヴェローチェが積むのは2.0ℓガソリンエンジンであり、このクルマがジュリアとしては最軽量のモデルだということを考えると、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか非常に興味深い。

そして、最後に登場するのが、いまやスタイリングとダイナミクス性能の双方で、ふたたびその実力を示しつつあるメーカーが送り出したモデルであり、先代のプジョー508は非常にありきたりなクルマだった。


だが、今回の新型は違うと、プジョーの責任者は話しており、レンタル車両として採用されなくても構わないとまで言う。むしろ、下取り価格を下げてしまうことから、採用されないほうが良いと考えているようでもあり、プジョーの計画が上手くいけば、大手レンタカー会社へ行っても、508を押し付けられるようなことはなくなるだろう。

大型サルーン人気が高い中国市場で、プジョーは苦戦している。かつては、他の海外メーカーとともに、成功を収めた市場であり、新型508が、乗り心地とハンドリングでクラストップを争い、見事なスタイリングと、当時の基準で見れば優れたインテリア品質を備えていた405や406といった、かつてプジョーが得意としていた大型ファミリーカーの系譜を継ぐモデルであるだけに、この状況は非常に残念だ。

まずは、新型508を見てみよう。かつてプジョーの大型サルーンと言えば、ファミリーカーの代表ともいえる存在だったが、最近ではセグメントの境界が曖昧になり、プレミアムモデルやSUVが、こうしたファミリーカーの領域へと、大挙して押し寄せてきている。

目的は差別化 インテリアはさまざま

だからこそ、差別化のために、革新的なインテリアが求められているのであり、プジョーでその役割を担うのがiコックピットだ。非常に小径のステアリングホイールの背後にはメーターパネルが置かれるが、残念なことに、メーターの一部がドライバーからは見えなくなってしまっている。

プジョーはiコックピットを採用したモデルを500万台販売したとしており、数だけ見れば成功と言えるのかも知れないが、だからと言って、その販売台数ほどこのインテリアが評価されているわけでもなければ、ましてや、その優秀さを証明しているわけではない。

未だにこのiコックピットには慣れることができない。シートポジション自体はそれほど悪いわけではなく、極めて標準的なものだと言えるが、まるで遊園地の乗り物のように低い位置に取り付けられたステアリングホイールは、遊園地で数分乗るだけなら十分に楽しいかも知れないが、数時間もの運転ではまったく褒められたものではなく、ましてや、年間1万6000kmもの距離を、このステアリングで運転するなど考えられない。


インフォテインメント・タッチスクリーンの操作は厄介だが、使われているマテリアルの質感そのものは高い。登場間近の208でも同じコンセプトが踏襲されるようであり、つまりは、BMWのiドライブのように、数世代を掛け、使い勝手を向上させていくことになるのだろうが、例え暫定的なものだとしても、このインテリアは問題だろう。

他の3台では、タッチスクリーン式(ボルボだ。見やすく、素早い操作が可能で、理解しやすいシステムではあるが、依然としてドライバーの集中を妨げる)と、ダイアル式(アルファだ。グラフィックスは貧弱だが、操作性には優れる)、さらには、タッチスクリーンとダイアルの組み合わせ(キアだ。必要な機能なすべて備えつつ、そのシンプルな操作性は非常に分かり易い)が混在している。

停車中であれば、反応が早く、論理的なボルボのシステムがもっとも操作性に優れると言えるが、M1号線を110km/h以上で流しているような場合には、キアに軍配があがるだろう。

では、他の3台のインテリアはどうだろう? ミトまでのアルファ・ロメオしか知らなければ、サポート性に優れたシートと、フェラーリと同じステアリングコラムに設置された軽い操作感のパドルシフトを持ち、しっかりと腕が届くエアバッグ付きステアリングが創り出す、見事なドライビングポジションに驚かされることになるだろう。素晴らしい。

レザーと整然としたステッチが高級感をもたらすとともに、このクルマのキャビンレイアウトは、まさにジュリアをドライバーオリエンテッドなモデルだと感じさせる。だが、プラスチック素材の質感は褒められたものではない。金属を模してはいるものの、どう見てもプラスチックにしか見えず、これなら樹脂素材そのものの質感を活かしたほうが良かったに違いない。

快適なキャビン 変わる指標

だが、S60でそんな心配は無用だ。これまでもボルボは、より高級感のあるキャビンを作り続けてきたのであり、確かにボルボはどれも同じように見えるかも知れないが、いずれのモデルも、プレミアムな製品だと評価されており、少なくとも、S60とボルボ製SUVの間には、多少の違いを感じることができる。

XC40のインテリアが活気に溢れる一方、S60のそれはより寛いだ雰囲気だ。この2台に共通するのは、素晴らしい質感のメタルパーツとソフトタッチの樹脂素材、そして大ぶりなシートであり、タッチスクリーンを多用していることを除けば、上品で非常に整然としたS60のキャビンは、まるで自宅にいるかのような居心地の良さを感じさせる要素が横溢している。

いまもキアはプレミアムな雰囲気を獲得するための努力を続けており、依然として、その試みがすべて成功しているわけではないが、だからと言って、完全に失敗しているわけでもない。スティンガーのキャビンの質感はS60には劣るものの、それでも、柔らかなタッチや、薄く用いられたメタル素材が見事な雰囲気を創り出している。


さらに、キアのキャビンは広大な空間となっており、今回集まった4台いずれもリアには十分なスペースを確保しているものの、ハッチバックボディを持つキアとプジョーには、ボルボとアルファを上回るアドバンテージが備わっている。

4台のなかで、もっともボディサイズが小さいジュリアが、リアスペースとトランク容量でも最小にスペースも最小に留まっている。そして、このボディサイズの違いが、路上での違いをもたらすことになるだろう。

S60は、ボルボの大型モデル向けプラットフォームをベースとしており、アグレッシブなエクステリアを与えられてはいるものの、その走りは外観から受ける印象とは異なる。ご存知かも知れないが、ボルボでは近い将来、最高速度を180km/hに制限する予定であり、彼らにとってダイナミクス性能やラップタイムは、さほど重要な指標ではなくなっているのだ。それも良いだろう。

それでも、やや驚きだったのは、少なくともこのS60では、まだボルボはそうした傾向を見せていないことであり、低速における良好な乗り心地を優先したスタンダードモデルに比べ、このクルマには1インチだけ大径のホイールが与えられていた。

2.0ℓのDB11 ダイナミクス性能に不満

素晴らしいインテリアによって、ボルボの動力性能を大目に見ることは出来るだろうかと考えてみた。つまり、それだけS60のダイナミクス性能は、クラストップのモデルから差を付けられていたということだが、高速道路では、S60は見事に寛いだ様子を見せ、このクルマでは長時間のドライブも苦にならないだろう。さらに、低速での乗り心地も犠牲になっていない。

コーナリングも同様で、それなりのリーンを伴いつつも、それほどドライビングが楽しめるわけではないが、同じようなSUVに比べ車高が低く、落ち着きを備えていている点こそが、特徴ともいえるモデルだ。

だが、だからと言って、明らかに活気が足りないわけでも、明らかにダイナミクス性能に優れるわけでもなく、ドライバーが右足に力を込めると、エンジンは十分にその存在を主張してくる。つまり、S60が得意とするのは、長距離をゆったとり移動するようなシーンであり、個人的には、それ以上の存在だと評価している。

ボルボに近い高速での快適性を実現しているのがスティンガーだが、このキアが備えているのは高速での安定性だけではない。今回集まった4台のなかでは、ジュリアが4.64m、他の2台が4.7m台に留まっているところ、唯一4.8m以上のボディを持つ大柄なモデルであり、リア駆動と、ドライバーを楽しませようとしたこのクルマの開発者たちの努力によって、スティンガーではまるでGTモデルのようなフィールまで感じることができる。


高速での快適性でS60に匹敵するだけでなく、低速での乗り心地にも優れ、フィールに溢れるステアリングとともに、中速コーナーでの本物の落ち着きとバランスまで備えており、2.0ℓエンジンを積んだアストンDB11と言えば、言い過ぎだろうか? 確かに言い過ぎかも知れないが、わたしの言いたいことはご理解頂けるだろう。

エンジンは力強い回転上昇を見せ、オートマティックギアボックスの変速もスムースなものの、パドルによるシフトチェンジを行っても、すぐにオートに切り替わってしまう点が残念だ。それでも、このクルマには、滑らかなステアリングと、見事なボディコントロール、さらに、今回の4台では最高の中速コーナーにおけるバランスといった、多くの魅力が備わっている。

ダイナミクス性能によって、プジョーを選ぶ理由を見つけ出すのは難しい。508はお気に入りのモデルであり、ふつうのライバルに対してであれば、十分優れた存在だと評価できるが、そのフィールはややありきたりなものだ。しなやかな乗り心地と、キアには劣るものの抑え込まれたノイズレベル、さらには素晴らしいコーナリング性能を備えてはいるが、それでも、このクルマはドライバーの努力に、何の見返りも返してはくれない。

ステアリングの重さはつねに一定で、このクルマの動きを伝えてくるのは、クイックなレシオと組み合わされた小径ステアリングホイールからの反応だけであり、レンタカー向きとは言えない508は、個人的には興味深いモデルだったが、もう少しフィールが必要だろう。

別格の存在 選ぶべき1台

わずか225psの508は、今回の4台のなかでも決して遅いというわけではなかった。プジョー製1.6ℓターボエンジンは、他の2.0ℓエンジンよりも低回転域での活気とレスポンスには欠けていたが、それを感じさせない滑らかなギアボックスが組み合わされていた。

だが、今回のテストでは、驚くべき速さなど問題ではなかった。0-97km/k加速で5秒(アルファ)、6秒(キアとボルボ)、そして7秒(プジョー)という記録も、決してレスポンス不足を感じさせることはない。

それでも、アルファは別格の存在だ。V6エンジンを持つクアドリフォリオがスポーツカーだとすれば、アルファの魔法はこのモデルにもかけられており、まさにスポーツサルーンだと感じさせてくれる。

その2.0ℓエンジンは、今回の4台のなかでは、もっとも高いパフォーマンスを誇るとともに、サウンドも素晴らしく、最軽量のリアを駆動するジュリアとして、十分なバランスと機敏さを感じさせる。ステアリングは素晴らしく、速度を上げれば、他のモデルよりもキャビンに侵入してくるノイズレベルは大きいかも知れないが、優れた乗り心地をも備えている。


間違いなく、このなかでは最高に運転が楽しい1台であり、実際、同じ道をBMW 3シリーズとともに走らせれば、ジュリアのほうをより魅力的に感じるかも知れない。

では、結論はどうなるだろう? プジョー508を気に入ってはいるが、あまりにも特徴のないモデルであり、簡単に脱落する結果となった。他のモデルはそれぞれが、それなりの特徴を備えている。キアは、その広大なキャビンスペースとGTカーのようなフィールが魅力であり、ボルボのインテリア品質は他を圧倒している。

だが、90歳になってクルマの運転を諦めたとき、見事なダッシュボードやスピーカーを備えたモデルのことを懐かしく思い出したりはしないだろう。思い出すのは、素晴らしい運転の楽しさを備えたモデルであり、そのフィールがどんなだったかということに違いない。つまり、選ぶべきはアルファだ。

テスト車のスペック

アルファ・ロメオ・ジュリア2.0ヴェローチェ

■価格 3万8260ポンド(528万円) 
■全長×全幅×全高 - 
■最高速度 240km/h 
0-100km/h加速 5.7秒 
■燃費 11.9km/ℓ 
■CO2排出量 158g/km 
■乾燥重量 1430kg 
■パワートレイン 1995cc 4気筒ターボ 
■使用燃料 ガソリン 
■最高出力 280ps/5250pm 
■最大トルク 40.8kg-m/1750rpm 
■ギアボックス 8速オートマティック 

ボルボS60 T5 Rデザイン・エディション

■価格 3万7920ポンド(523万円) 
■全長×全幅×全高 - 
■最高速度 232km/h 
0-97km/h加速 6.5秒 
■燃費 12.5km/ℓ 
■CO2排出量 155g/km 
■乾燥重量 1686kg 
■パワートレイン 1969cc 4気筒ターボ 
■使用燃料 ガソリン 
■最高出力 251ps/5500rpm 
■最大トルク 36.1kg-m/1800-4800rpm 
■ギアボックス 8速オートマティック 

キア・スティンガー2.0 T-GDi GTライン

■価格 3万5975ポンド(496万円) 
■全長×全幅×全高 - 
■最高速度 233km/h 
0-97km/h加速 5.8秒 
■燃費 10.4km/ℓ 
■CO2排出量 191g/km 
■乾燥重量 1717kg 
■パワートレイン 1998cc 4気筒ターボ 
■使用燃料 ガソリン 
■最高出力 245ps/6200pm 
■最大トルク 35.9kg-m/1400-4000rpm 
■ギアボックス 8速オートマティック 

プジョー508 GT 225

■価格 3万6420ポンド(503万円) 
■全長×全幅×全高 - 
■最高速度 249km/h 
0-97km/h加速 7.3秒 
■燃費 14.1km/ℓ 
■CO2排出量 131g/km 
■乾燥重量 1505kg 
■パワートレイン 1598cc 4気筒ターボ 
■使用燃料 ガソリン 
■最高出力 225ps/5500pm 
■最大トルク 30.6kg-m/1900rpm 
■ギアボックス 8速オートマティック 

番外編:過去の革新モデル

アルファ・ロメオ159


現行ジュリアにとっては先代モデルとなる159は、セクシーなアルファ製サルーンとしては欠くことのできない存在だ。このクルマが発売された時、家族を乗せるためのクルマが必要な世界中のクルマ好きが歓喜の涙を流している。ボディ全体からセクシーさを感じさせるこの実用サルーンは、運転しても素晴らしかった。

ジャガーXE


このコンパクト且つ、素晴らしいルックスをしたXEが登場したとき、世界中がジャガーを愛する理由が理解できたに違いない。運転しても強い印象を残すこのクルマのステアリングは、まさにジャガーに期待するとおりのものだったが、後席はそれほど居心地の良い空間ではなかった・・・

ホンダ・アコード・タイプR


さして特徴のないアコードは、確かに堅実な選択ではあったものの、ホンダが2.2ℓVTECエンジンと、クイックなステアリング、強化サスペンション、さらには、見事なルックスをしたホワイトのアルミホイールを与えるまでは、驚くほど退屈な存在でもあった。タイプR登場以降、このクルマにはありきたりな称賛では物足りない。

フォード・モンデオST220


万能モデルであったモンデオに対する、単なる優れた実用品という評価は、226psを発揮する3.0ℓV6を積んで、0-97km/h加速を6.6秒でこなすSTの登場によって、完全に覆されることとなった。燃費は褒められたものではなかったが、すばらしく運転の楽しいモデルだった。

ボルボS60


生真面目で四角いボルボに慣れ親しんだわれわれの目の前に、2001年、上級モデルのS80に倣った滑らかなデザインを纏ったこのS60が登場すると、世界は歓喜に包まれた。ボルボは自らの力で変わることに成功したのであり、いまや、スポーティな印象を与える一連のモデルには、ある種の美しさまで備わっている。