by geralt

物理学者のリチャード・P・ファインマンは量子電磁力学(QED)の発展に大きく寄与したとしてノーベル物理学賞を受賞しました。ファインマンの功績の1つにファインマン・ダイアグラムを生み出したことがありますが、一般人には分かりづらい「ファインマン・ダイアグラムとは何か?」ということについて、Quanta Magazineがアニメーションで解説しています。

What Are Feynman Diagrams? - YouTube

1948年の春、アメリカのポコノ山地でリチャード・ファインマンを含む世界屈指の物理学者による会議が開かれ、素粒子の振る舞いについて話合われました。



アインシュタインの特殊相対性理論に一致する形で素粒子の振る舞いを説明することは物理学の大きな問題であり、あらゆる可能性や問題が考えられました。



粒子の振る舞いを追跡し計算するためにファインマンが書き記したのは、シンプルな図。



これらの図は物理の世界で「ファインマン・ダイアグラム」と呼ばれるようになります。



第二次大戦後、物理学者たちは電磁気力を説明するための理論をより発展させたいと考えていました。



なぜ同じ電荷の粒子が互いに反発しあい、反対の電荷の粒子が引き合うのかをひもとく量子電磁力学(QED)は、粒子の振る舞いとして起こりうる結果の蓋然(がいぜん)性を計算してくれると考えられたのです。



しかし、ここには乗り越えがたい2つの問題がありました。1つは「方程式を書くには考え得る粒子の振る舞いを追い続けなければならない」ということ。これはどんなに有能で我慢強い物理学者でも気が遠くなる、不可能に近い作業です。



そして2つ目の問題は、粒子がどのように集まり、散乱し、他の粒子に変換されるのかという可能性である「散乱振幅」を数量化する時、計算は破綻し無限値が生み出されることにあります。



1948年のファインマン・ダイアグラムは、粒子の振る舞いについて計算し、最終的に定量化するためのシンプルな視覚化だといえます。



ファインマン・ダイアグラムを空間と時間における粒子の振る舞いを表すものです。ファインマン・ダイアグラムでは、直線的なグラフが電子のような粒子を、波線グラフは光子のような力を伝える粒子を示します。



以下の図は縦軸が時間、横軸が空間を示し、粒子同士が光子をキャッチボールして力を及ぼし合っている様子を表すダイアグラム。まずの左側の電子が光子を放出してその進路を変え、跳ね返った光子が別の電子の方向を変えることで、散乱が起こっていることを示しています。



ひっくり返すと、電子が示す矢印が逆方向を向き、陽電子が電子になりました。



ダイアグラムのそれぞれの座標はQEDに対応した方程式によって定義されており、これらが素粒子の反応過程を表現しているわけです。



このような散乱は素粒子の反応のあらゆるところで起こります。この時、エネルギー、速度、電荷は保存されることになります。



ファインマン・ダイアグラムの奇妙なところは、この仮想粒子は消滅したり、時間をさかのぼったりするということ。これはつまり、空間の中ではどのような異常な反応でも起こりうることを意味します。



粒子の反応には無限の可能性がありますが、ファインマン・ダイアグラムはこの可能性をふるいにかけ、起こりうる結果を計算してくれるものとなりました。



ファインマンがファインマン・ダイアグラムを発表した時、同僚たちはファインマン・ダイアグラムを自分の研究でどう使ったらいいのかがわからず混乱したとのことですが……



理論物理学者のフリーマン・ダイソンは研究者が理解し自分たちの研究で利用できるようにファインマン・ダイアグラムを数学に変換。またダイソンは繰り込みによっていかに無限大が限りある値に変わるのかを示してみせました。



ダイソンの尽力が功を奏し、ファインマン・ダイアグラムは広まり、現代の理論物理学に大きな影響を与えました。しかし、時間がたつにつれ、ファインマン・ダイアグラムには限界があることもわかってきます。



例えば亜原子粒子の衝突では、比較的シンプルな散乱振幅を計算する時でも何千というダイアグラムが必要になります。



そこで新たに、物理学者の中には「(PDFファイル)Amplituhedron」という多次元的な幾何学のアプローチで散乱振幅を計算しようとする動きもあるそうです。



しかし全ては1948年に開かれたポコノ山地から始まったことであり、ファインマン・ダイアグラムは小さな図で広大な宇宙の理解を助ける、画期的なツールだといえます。