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●500億円のコスト削減を目指して

7月4日、RPA総合プラットフォームメディアを運営する「RPA BANK」は、RPA関連製品や最新事例などの紹介を行うイベント「RPA DIGITAL WORLD 2018」を開催した。

このイベントでは、三井住友フィナンシャルグループ 総務部 上席推進役 兼 企画部 業務企画室 上席推進役の山本慶氏が「圧倒的な生産性向上の実現に向けて 〜人の仕事の質を高めるRPA〜」と題した講演で登壇。自社の導入事例について語った。

先行き不透明な現状で、新たなリソースを投入するのではなく、現有人員によって新たなビジネスへのチャレンジと収益の創出を目指してRPA導入を行った三井住友フィナンシャルグループでは、2020年までに4000人の余剰人員捻出と、500億円のコスト削減を目指している。

「付加価値業務の拡大や働き方改革の推進は極めて抽象的で、なかなか具体的なソリューションがなかった中、注目したのがRPA。4000人を付加価値業務の拡大、働き方改革の推進、現有人員で新たなトップラインを導き出すという3分野に注入し、新たなビジネスを作り上げていきたい」と語った山本氏は、2017年の導入以来、すでに1年で約550人の仕事をRPA化できたと成果を紹介した。

同社では、毎朝必要となる顧客の運用状況確認と運用商品提案に向けた資料作りで、30分から1時間を要していた。また、多様化するニーズに対応した適切な商品提案のための検証作業等も、ルール変更の存在や商品増加への対応が必要なことからシステム化が難しく人手で行っており、多くの人員と時間が費やされていた。

この作業をRPAによりロボットに割り振ることで、営業担当者は朝の時間をメールで顧客情報を読むことや移動時間にあてられるようになり、検証作業担当者はロボットの監督者としての業務や顧客対応など人にしかできない業務にあたれるようになったという。

「仕事を失ったわけではなく、新しい業務への取り組みや、これまでやりたくでも出来なかったことへ取り組むことができるようになった。RPAに仕事を任せることで従業員の行動を変えられることがRPAの導入意義であり、付加価値業務を増やすためのアプローチ。単なる時間削減ではなく仕事の質を変え、従業員が生き生きと働ける環境を作って行ける」と山本氏は語った。

●RPAを成功へ導く3つの要件

講演の途中からは、導入を担当したメーカーとしてUiPath 代表取締役CEO 長谷川康一氏も登壇。山本氏との対談形式で講演が進められた。

「RPA元年と呼ばれた昨年からRPAに取り組んだ企業は多くいるが、悩んでいる企業も多い。つまりは、塩漬けになっている。まだスケールできないでいるRPAをどう次に進めるか。その成功要件を3つにまとめた」と長谷川氏が挙げたのは、スケール(規模感)、レジリエンス(安定/向上稼動)、インテリジェンス(人工知能(AI)の活用)という3項目だ。

スケールは、部署ごとや一部業務等の小規模導入ではなく、ある程度の規模を持って導入することで効果が出るというポイントだ。

レジリエンスは導入後に発生する画面構成やアプリケーションロジック、OS、ハードウェアといった変化をいかに吸収し安定的かつ向上しながら稼働するものにするかという部分になる。

そしてインテリジェンスは、既存システムを接続するだけでなくOCRやチャットボット、AIや解析ツールといった頭脳となるものとつなぐことで業務範囲を広げていくことだという。

「2年前は日本企業は周回遅れだったが、今や三井住友フィナンシャルグループの取り組みは世界でも注目されている。UiPathは日本のRPAが世界標準になると考えている」と語った長谷川氏は、「RPAの特徴は簡単で大量で繰り返しと言われるが、今回日本でやらなければならなかったのは、簡単ではなく複雑、大量ではなく少量、単純な繰り返しではなく分岐がある多様な繰り返し。複雑、少量、多様なRPAでないと日本ユーザーのニーズに合わない」とも語り、自動化ニーズは細かなシーンに偏っており、その部分でROA(総資産利益率)が出せなければならないと指摘した。

向上稼動については、個人のデスクトップを自動化させるのとは違い、止まってはいけないシステムを自動化するにあたってどうしたのかを山本氏が解説。

「顧客情報などをすばやく従業員に伝えるためには、夜間に大量処理する必要がある。ここは24時間365日スケーラビリティを追求して安定稼働させるので、データセンターと同じような設計とデザイン、セキュリティ、ガバナンスコントロールで実装し、安定稼働させる。ロボットが止まった時にリブートするロボットを用意、ロボットの影響範囲を把握し、即時対応できる準備をしている」と語った。

安定稼働については「RPAのいいところは、改良が簡単にできること。しっかり安定稼働させる仕組みがあれば、ニーズをつかまえて、どんどん生産性を高くして行く向上稼働が次の課題になる」と長谷川氏が指摘。

三井住友フィナンシャルグループでは手書き・非定型の書類をOCRでデジタル化するにあたって、コグニティブOCRで認識した文字列と、RPAが読み取り結果に社内システムのデータを参照して組み合わせた結果の整合性や、過去実績と新規読み取り分をRPAが照らし合わせた結果などから、読み取りの正解率を予測。概ね合っているという前提で従業員が検証することで効率化を実現したという。

また、RPAによるデータ入力をOCR側へ反映させることで、次回読み取り時のミス削減に役立てるという手法にも取り組んでいるという。

「さまざまな事例で紙は常に問題になる。経営サイドはOCRを導入したがるが、現場は中途半端に入れたくないと言う。非定型で手書きのOCRを三井住友フィナンシャルグループがやってくれたのは、我々にとっても心強いこと」とした長谷川氏は、汚い文字を読み取る、書かれている場所や文脈からミスを読み解くといった人間の力を持たせながら、1日あたりの処理件数のような人間の限界を超える作業をさせられるRPAの好事例であるとも語った。

インテリジェンスについては、まだ準備段階であるようだ。

「スケールとレジリエンスがあれば十分ROAは出る。ただ、これにインテリジェンスが加わることでさらに高度な自動化ができる」とした長谷川氏は、「デジタルのプラットフォーマーになりたいと考えている。既存システムと手作業がデジタル化された後に、新しいテクノロジと融合する。レガシーを基盤として新しいテクノロジを使えるのではないか」とも語る。

プラットフォームとしてさまざまなシステムと接続できるAPIを装備することで、新たなテクノロジーが登場した時、迅速にビジネスに反映させることが可能になると期待できる。

「そういうRPAの使い方のためには、従業員の理解も必要。1から10まである仕事のうち、RPAがやってくれるのは1から2程度、3まで届くかどうか。それは本来人がやらなくてもよかった部分であり、そのいらないところをロボットに任せる。一方、できた余力で4から10の部分をやって行くという発想に変わっていかないと、プラットフォームにAIがのる日はなかなか来ないと思う」と山本氏。

これに対して長谷川氏は「RPAも今は1から3くらいだが、APIをしっかり持つことで、今後できれば1から6くらいまでできるようになり、人には7から10をやってもらうという形にしたい」と語った。