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text:Richard Bremner(リチャード・ブレムナー)

もくじ

ー リアの見た目、フロントよりも重要?
ー 涙々の後ろ姿 追い越したくなるお尻の3台
ー 栄光のクルマたち 古文書からの後衛戦
ー リアが最も美しいクルマ(販売中のもの) その1
ー リアが最も美しいクルマ(販売中のもの) その2

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リアの見た目、フロントよりも重要?

フロント・エンドはクルマの最も重要な基準点だ。

クルマの顔であり、クルマを見分けるポイントであり、デザイナーはこれをキャンバスとしてクルマのブランドを描き、同時に個性化し、冷却し、クラッシュから保護し、空気を切り裂くことを求められる。

しかし現実には、他人のクルマで最もよく目にするのは後ろ姿、バック・エンドだと思う。ドライブ中はほとんど誰かのクルマの後にくっついて走るからだ。

バック・エンドについて、ここでは現在のクルマで最良のものをいくつかと、ひどいもの3点を取り上げてみた。ついでに、過去のクルマで最も偉大なものもいくつか。

カタログを漁りながらセクシーなお尻のクルマを探してみて驚いたのは、スポーティーであろうとなかろうと、バック・エンドの姿、形はどのクルマもみんな似ていること。

ナンバープレートはたいてい逆台形の中に納まっている。バンパーの下が黒く塗装されているクルマも多い。ここをディフューザーの形にすることに多くのデザイナーが抗えないのだ。それが意味を持つスーパーカーなのか、ただの買い物クルマなのかとは無関係に。

中級以上のクルマであれば、リア・エンドのマフラーは2本出しか4本出し。でもそのうちの1本だけが機能するクルマも多い。

一方で、クルマの個性的な特徴、あるいは美しさというものは、グラス・エリアとボディの比率、リア・デッキの高さ、ウイングのたくましさ、ウインドウのカーブ、取り付けたエアロ・パーツなどから立ち昇るものである。

したがって、選定理由は美しさ、オリジナリティ、暗黙の合意などそれぞれ別々である。

まずは、ひどい後ろ姿のクルマから見ていこう。せっかくですから。

涙々の後ろ姿 追い越したくなるお尻の3台

メルセデス・ベンツGLEクーペ

BMW X6でもよかったのだが、笑うしかないプロポーションを持ったGLEクーペの、大きくて腰高でダムのようなお尻のほうが一枚上手だった。

クロームのフランジとのディフューザーでは、この巨体のイメージを変えることなどできない。

ホンダFCXクラリティ

水素燃料スタンドが少ないので、青い惑星の生き物に似たクルマをなぜ買ったのか、何度も説明する苦痛は減るかもしれない。でも少しだけだ。ごちゃごちゃしている。

トヨタ・プリウス

獲物を狙うタカのように空気を切り裂く必要があるのはわかる。でも、プリウスの形はこれしかないのだろうか?

なるほど、真後ろから見れば薄気味悪くはないが、横から光を当てれば、だれがこのデザインにOKを出したんだろうと思うに違いない。

栄光のクルマたち 古文書からの後衛戦

オースティン・ミニ 1959年

このリア・エンドは(着衣の)人間のお尻の輪郭を思い起こさせる。必要最小限に見えるかもしれないが、ミニの形はとても洗練されている。オプションを依頼されたデザイン界の巨匠ピニンファリーナはこう答えた「何も変えるな」。

フェラーリ250GTO 1962年

甘美な筋肉質の臀部、くぼんだカム・テール、なだらかな曲線を描くリア・ウインドウ、特大のフィラー・キャップ、バンパーなし、太いタイヤの後ろの威嚇するような排気口、そして貧弱なテールライト。

これがかつて最も艶めかしく残忍といわれたリア・エンドであろうか?

ジャガーEタイプ・クーペ・シリーズ1 1961年

シャープな造形はスピードを訴求する。長いボンネットと思わせぶりな巨大なエア・インテークは、セクシーというよりみだらな感じがする。エンツォ・フェラーリはこのジャガーが世界で最も美しいクルマだと考えた。

ポルシェ911カレラ4S(996シリーズ) 2002年

もっとも有名なこのスポーツカーは同じ言語のデザインを何度も繰り返している。こんなクルマはほかにない。中でも、幅広く官能的な曲線を描く微妙に力強いリア・エンドを持った2002年のカレラ4Sがベスト。フロント? うーん、まあまあかな。

リアが最も美しいクルマ(販売中のもの) その1

BMW M4

トランクを持ったセミフォーマルなノッチバック・クーペ。伸び伸びとして鋭くスムーズなM4のリア・エンドは控えめなマッチョ風だ。ひねりの効いた諧謔が絶妙。

シボレー・コルベットZ06

ミサイル・ランチャのように睨みを利かせる4本のエグゾースト・パイプが織りなすドラマを打ち負かすのは至難の業だ。

ちょっと邪悪なテールライト、大きなディフューザー、派手な色のウイング、洋ナシのような形のルーフ、それに大胆なバッジを付ければ、ほら、これこそ現代のアメリカン・マッスルだ!

フェラーリ812スーパーファスト

特別美しいわけではないが、もちろん魅力的だ。

くぼんだリア・ウインドウの丸みを帯びたエッジから、リア・デッキとウイングのドレープに至るまで。黒ではなくボディと同色のディフューザーとリア・アーチの排気口は、スーパーファストの高い運動能力の証である。

フィアット500

シックで、キュートで、丸っこくて、チャーミングで、魅力的で、セクシー。どの形容が一番ぴったりだろう。

現代の500は(ちょっと背が高すぎる気もするが)とてもバランスのとれた形で、1957年のオリジナルの輝かしい再来だ。エンジン位置が反対になっていることを考えるとなおさらである。レトロなペイントや限定品の装飾がなくても十分素晴らしい。

リアが最も美しいクルマ(販売中のもの) その2

フォードGT

低く、幅広く、ごちゃごちゃしていて、空きだらけ。このGTのリア・エンドは典型的なハイパーカーのそれとはずいぶん違う。

コックピットの異常な絞り込み(一部はリア・ウイングに隠れている)を一度でも見れば、その理由がわかるだろう。今日の市販車で最も興味深いリア・エンドのひとつだろう。

ジャガーFタイプ・クーペ

Eタイプの面影があるが、FタイプはFタイプである。その姿勢はまったく正しい。リア・ウインドウは先代のSの艶めかしい香りがする。中央のエグゾースト・パイプは生々しく刺激的なパワーを暗示している。

ロータス・エリーゼ・スポーツ220

これがラッセルカーの造形したエリーゼのリア・エンドである。彼の2001番目(!)のフェイスリフトにあたる。ちょっと手が加えられてはいるが、依然としてかわいらしく、丸みを帯びたシンプルなリア・エンドは、エリーゼの伝説的な軽さと俊敏さを暗示している。

ロールス・ロイス・レイス

ここには、ロールス・ロイスではあまり見られないすらりとした重々しさ、貴族的な趣き、美しさ、そして控えめな官能がある。レイスの力強さは、うねるようなウイングの端に追いやられた大きなタイヤや、豊かなパワーを暗示するファストバックのテールからも立ち昇ってくる。ベルベットに包まれたようだ。