【新車のツボ133】

 マツダといえば「便利さよりカッコ良さ、そして、走りや運転感覚へのこだわりがスゴイ」という点で、今や日本のクルマオタクの星……ともいえる自動車メーカーである。そんなマツダの最高級車アテンザについては、発売間もない時期にも「こんな高級車なのに、ディーゼルでマニュアル(笑)」と、この連載でもXDセダンをご紹介した(第60回参照)。

 その現行アテンザもすでに発売から5年目に突入したが、今のマツダは欧州高級車ばりに毎年のように改良の手を休めず、”最新のマツダは最良のマツダ”と、まるで名門スポーツカーメーカー(=ポルシェ)みたいなセリフがピタリとあてはまる。


 実際、アテンザのマニュアル(MT)も発売当初は”XD”というディーゼルの最安グレート1種のみだったのに、発売翌年の2013年秋の一部改良で革内装の豪華グレード”XD Lパッケージ”にもMTが登場。さらに翌14年の大幅改良では、MTがディーゼル全グレードの3種類に増えただけでなく、新たに追加された4WDにもきっちりとMTを用意……と、オートマ全盛の現代にあって、にわかに信じがたいほどの”MT押し”がスゴイ。

 というわけで、今では日本で売れる全アテンザのうち、場合によっては20%をMTが占めるほどの人気だとか。「でも、しょせん8割はオートマなんでしょ!?」というなかれ、現在の国内新車市場のMT比率はわずか1〜2%。そう考えると、スポーツカーでもなく、どちらかというと高級車に属するアテンザのMT人気は異常事態というほかない!!

 今どきアテンザのようなクルマをわざわざMTで乗ろうという向きは、超少数派の筋金入りオタクにちがいない。しかし、そうした筋金入りのみなさんが買うクルマは、今やアテンザ以外にほとんど存在しない。絶対数は少なくても、それを”総取り”できれば大企業がマニア商品でも十分に商売できる……ってな、当たり前だが深〜いビジネスの真髄を、アテンザは教えてくれてもいるわけだ。


 最新型アテンザは、昨16年8月に発売以来3度目の改良を受けたモデルだ。では、なぜ取り上げるのが今なのか?  今回取り上げたアテンザは、ステーションワゴンにして4WD、しかもMT……と、バブル時代にスキーブームとラリーブームのダブル洗礼を受けたオヤジ世代としては、たまらない三種の神器がそろうのだ。それだけではない。今回のアテンザの場合、そこにさらにディーゼルといういかにも今っぽいキーワードまで加わって、もはや四種の神器ならぬ”四種のツボ”である。ウィンタースポーツ最盛期の今、これは奇跡のフルコンボだ!

 実際、とことん改良の手が加わって熟成しまくったアテンザは、クルマとしても今が旬である。インテリアの高級感や作りこみはデビュー時よりさらに高度になっているし、19インチというスーパーカー級タイヤからは想像しがたいほど、乗り心地は優しい。

 それに、極寒の冬に重宝するシートヒーターは当然のごとく用意されるが、さらに国産車ではまだめずらしいステアリングヒーターまで備わる。私のように身体中の末端がめっきり冷えるようになったアラフィフオヤジには、これは涙が出るほどありがたい。


 また、最新のアテンザにもオタク界隈で話題の”Gベクタリングコントロール(GVC)”というマツダ自慢の秘密兵器が備わる。

 GVCは特殊な部品やメカが追加されているわけではない。既存のセンサーやエンジン制御装置をそのまま使って、電子プログラムだけで「ステアリングを切ったらエンジンパワーを少し絞る、そしてステアリングを戻すにしたがって、そのパワーを少しずつ復活させる」という制御を裏でおこなう。

 この技術は、加減速で荷重移動させながら前後タイヤのグリップを微妙にコントロールする……というプロドライバーの技をクルマ側で自動でやってくれるのが基本原理。それをもって「うまい運転のコツを自動でやるなんて邪道!」と拒絶反応を示すオタクも一部にいるが、それは誤解。

 GVCのサジ加減は人間の足でやるのが不可能なほど微妙なもので、実際の制御や加減速は素人にはまったく感知できないレベル。乗っていると、単純にまるでタイヤを1〜2ランクもアップグレードさせたかごとく、ウソのようにグリップだけが上がるのだ。まさに目からウロコである。

 それにアテンザの最新4WDもまるで4WD感がないのに、これがまた絶妙で……と、今のマツダは、ウンチクを語り出すとクルマオタクは話が止まらなくなってしまう。なんだかんだいっても、アテンザもまた、そういうオタク愛をくすぐるのが最大のツボである。


【スペック】

マツダ・アテンザ・ワゴンXD LパッケージAWD

全長×全幅×全高:4805×1840×1480mm
ホイールベース:2750mm
車両重量:1600kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ・2188cc
最高出力:175ps/4500rpm
最大トルク:420Nm/2000rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:18.2km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:400万1400円