思えば、浦和レッズの2016年シーズンは、不意に終わりを迎えたのではなかったか。

 2ステージ制だった昨季のJ1。ファーストステージでは3位に終わった浦和だったが、セカンドステージで優勝を果たし、Jリーグチャンピオンシップ出場を決定。と同時に、年間勝ち点でも1位となり、チャンピオンシップでの"第1シード"を獲得した。

 意気揚々と決戦に挑んだ浦和は、鹿島アントラーズとの対戦となったチャンピオンシップ決勝第1戦でも1−0と勝利。第2戦は引き分けでも年間優勝が決まるとあって、浦和は2006年以来となる覇権をほぼ手中に収めたかに思われた。

 J1優勝を果たした先には、FIFAクラブワールドカップでレアル・マドリード(スペイン)をはじめとする世界の列強との対戦も待っている。厳しくも楽しみな戦いはまだまだ続く。当然、浦和の選手たちにはそんな思いもあっただろう。

 ところが、だ。ホーム・埼玉スタジアムでの第2戦、前半早々に先制点を奪った浦和は、その後受け身に回り、2点を失って逆転負け。アウェーゴールの差で鹿島に優勝をさらわれてしまう。

 もちろん、クラブW杯への出場権もまた、鹿島の手に渡った。すでに天皇杯は、チャンピオンシップを前に4回戦で敗退していた浦和に、気持ちを切り替えて向かう舞台は残されておらず、突然にしてシーズンの幕が下ろされたのである。

クラブW杯を見るのは、ちょっと悔しかったっていうのは正直あった。そこで(鹿島が)結構結果が出たっていうのが何か腹立って、『なにしとんねん、レアル。ぶち負かせよ』と思ったけど(笑)」

 2カ月ほど前の出来事を振り返り、そう語ったのは浦和の背番号10、MF柏木陽介である。冗談めかし、笑いにくるまれて発せられたその言葉は、しかし、偽らざる彼の本心だったに違いない。

 年間勝ち点1位になった時点で、普通のリーグ戦なら文句なしの優勝だった。ところが、チャンピオンシップという制度により、浦和はタイトルを失った。しかも、自分たちから優勝を奪っていった相手が檜舞台でスポットライトを浴び、世界を相手に堂々たる戦いを繰り広げている。これが悔しくなかったはずはない。

 だが、その一方で柏木は、優勝をさらわれたライバルが不気味な強さを発揮し始めていること――それはすなわち、クラブW杯で躍進する予兆めいたものでもあったわけだが――に気づいてもいた。

「鹿島がどんどん強くなっていっているのは感じていた。オレらとの試合のなかでも強くなったなって、やりながら感じていたから。(鹿島は)セカンドステージは全然やったけど、(チャンピオンシップでは)なんか強いときの鹿島やなっていうか......。そういう勝負強さとか、チームとしての(一発勝負への)持っていき方とかはうまいなって思う。そこらへんは自分たちも意識せなあかんなと思った」

 鹿島に敗れ、突然のシーズン終了を迎えてからは、柏木は努めて気持ちを切り替えることで、受け入れがたい結果を消化しようとしたという。

「もうなんか、年間勝ち点1位っていうことだけを......、自分のなかでそういうふうにした感じ。オレらは年間通して1位だったと」

 だからこそ、柏木は昨季優勝できなかった「悔しさをバネに」ではなく、自分たちは勝ち点トップだったという「自信を胸に」新たなシーズンへと向かうと決めた。

「(年間勝ち点1位の)自信と、あとは久しぶりに休めるなって思うようにした。シンプルに、神様から休みをいただいたと。そういう気持ちを持ってオフに入ったかな」

 新シーズンをいいコンディションで迎えるために、まず柏木がしたのは、英気を養うことだった。

「1月に入るまではまったく動かず、とはいっても、体幹(のトレーニング)とかはやっていたけど、美味しいものを食べたり、旅行へ行ったりしてリラックスできたというのはあった。それがしっかりできたうえで、元日からはちゃんと走り出したから、ここ(一次キャンプ)に入ってくるためのベースとなる筋肉の作り方っていうのは、しっかりできたかな。だから、この一次キャンプはすごくいいキャンプになったっていうところはある」

 1月16日から29日まで沖縄・東風平で行なわれた浦和の一次キャンプ。長いシーズンを戦い抜く体を作り上げるためのフィジカルトレーニングによって、肉体はかなり追い込まれたはずだが、それでも柏木からは余裕の笑みさえこぼれる。

「疲れてはいるけど、"死んだ"っていうところまではいかなかった。(一次キャンプ前に)自分で動いていたから(一次キャンプでも)動けたかなって思う。意識の部分でいい方向にいっているし、今年は気持ちがちょっと違う」

 一次キャンプがいかに充実したものだったかは、柏木の晴れ晴れとした表情が雄弁に物語る。締めくくりとなるサガン鳥栖との練習試合(25分×4本を1−0で勝利。柏木は25分×2本にフル出場)を終えた背番号10に、「今年は気持ちが違う」理由を尋ねると、簡潔な答えはすぐに返ってきた。

「目標がいっぱいあるから」

 さも当然というように、柏木が続ける。

「やっぱり、なんだかんだ言っても最終的に(J1年間優勝を)獲れへんかったっていうのは悔しいから。J1はやっぱり獲らなあかんし、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)も獲りたいし、獲れるもんは全部獲りたいっていうのが正直ある。そのためには、オレがもっと厳しい状況でも打開できるような選手にならないといけない。(J1年間優勝を逃したからといって)くじけられへんなっていうところはあるから」

 もっともっとうまくなりたい。そうなることで、チームはもっと強くなる。だからこそ、柏木はこのシーズンオフに加わった新戦力の突き上げを心待ちにする。

「(MF矢島)慎也(ファジアーノ岡山→)とか、(MF長澤)和輝(ジェフユナイテッド千葉→)とかがオレのポジションを脅かすくらいのプレーをしてくれたほうが、オレもレベルアップしやすいから。そういうふうにやっていけたらいいなと思うし、そうでないと困るなっていうところはあるかな」

 MF菊池大介(湘南ベルマーレ→)、FWラファエル・シルバ(アルビレックス新潟→)、FWオナイウ阿道(千葉→)なども含め、新戦力については「みんな能力が高い」と言い、彼らの実力を認めながらも、だからといって、柏木の胸の内にあるのは危機感ではない。自分を脅かすような選手になってみろと、他を挑発するかのような、あふれんばかりの自信である。

「オレはいける試合は全部いきたい。だけど、(ACLの)移動も含めたら全試合に出るっていうのは、たぶん無理。だから、いい競争をしながら、(選手が)2チーム分いるという気持ちで戦っていけたらいいかなと思っている。(J1とACLを並行して戦う過密日程のなかで)自分が出ない試合ももちろんあるやろうし、そのなかでいい準備をしていくっていうか、一人ひとりがいい結果を出すためにやっていかないといけないのかなっていう気はしている」

 浦和の2017年シーズンは2月18日、まずは鹿島との再戦となるFUJI XEROX SUPER CUPでスタート。そして、21日にはACLが、25日にはJ1が、順に開幕していく。

 昨季の自信を胸に、獲れるものは全部獲る――。浦和の、そして柏木の新たな戦いは、もうすぐその火ぶたが切って落とされる。

浅田真樹●文