マレーシアのセパンサーキットで1月30日から2月1日まで3日間にわたり行なわれた2017年最初のプレシーズンテストでは、今年からモビスター・ヤマハ MotoGPへ移籍した22歳のマーベリック・ビニャーレスがトップタイムで締めくくった。

 今回は開幕を1ヵ月半以上先に控える1年間の最初のテストで、ここから各メーカーはマシンの戦闘力アップとパフォーマンス改善に向けてさまざまな手を打ってくるので、この3日間の結果が来るべきシーズンの勢力関係を直接に予言するわけではない。とはいえ、好調なスタートを切ったかどうかは、マシン開発の進捗状況やライダーの実力、適応性などを推し量るうえで重要な指標になることもまた、事実だ。

 その意味では、ビニャーレスにとって今回のテストは彼の高い資質を存分に誇示する3日間になったといえるだろう。

 ビニャーレスは、初日に3番手タイムを記録すると、2日目に2番手、そして最終日にはこのテストでの最速タイムを記録した。3日間を通してヤマハ最上位を常に維持しながら最後は総合トップで締めくくっただけに、走行終了後の夕刻には充実した口調でテスト内容を振り返った。

「一発を狙ったタイムよりも、安定して高いペースで走れたのがよかった。日に日によくなっていったし、レースペースでも硬めコンパウンドのリアタイヤを入れて1分59秒台を連発できた」

 笑顔でそう話す彼に、今の状況でシーズン全体を推し量るのは時期尚早とはいえ、もしも明日がレースだったとしたら優勝争いをできる自信があるか、と訊ねてみた。ビニャーレスはためらいのない笑顔で、「できると思う」と答えた。

「レースペースもぼくが一番よかったし、バイクのフィーリングもいい。優勝争いをする自信はあるよ。ライン取りはまだ完璧ではなくて、乗り方もまだ(ヤマハのスタイルに)合わせて修正していかなきゃいけない。ブレーキングポイントはもっと磨いていく必要があるし、スロットルの開け方もまだ少しアグレッシブなので、さらにスムーズにしなければならない。でも、バイクには順調に順応できているよ」

 2歳年長の世界チャンピオン、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は子ども時代から切磋琢磨し競い合ってきた間柄だ。そのふたりが、今年は世界の頂点でいよいよ雌雄を決することになるのだろう。

 ところで、2日目の走行でビニャーレスが2番手タイムを記録した際に、彼よりも上位につけていたのが、アンドレア・イアンノーネ(チーム・スズキ・エクスター)。ドゥカティのファクトリーチームからスズキファクトリーへ所属を変えた大型移籍組のひとりで、今回のテストではどのような走りを披露するのか注目を集めていたが、期待に応えて2日目のタイムシートで最上位につけた。

 最終日は「タイムアタックを実施せず、レースペースの確認に集中した」ため、ラップタイムの更新がなく、この日のセッションでは11番手だった。だが、3日間の総合順位では2日目の記録がビニャーレスから0.084秒差の総合2番手。「マシンの戦闘力向上のために、日本のファクトリーの人たちがすごくがんばってくれている。チームも結束しているし、雰囲気がすごくいい」と、周囲に対する気配りや細やかな心遣いを感じさせる言葉が、非常に印象的だった。

 さらに、今シーズンの移籍で大きな注目を集めているのが、9年間過ごしたヤマハを離れてドゥカティに新天地を求めたホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)だ。ヤマハブルーを基調としたマシンやレザースーツ姿を長年見慣れてきただけに、ドゥカティのコーポレートカラーである赤に身を包んだロレンソの姿は、見た目も新鮮に映る。

 無駄を削ぎ落としたスムーズさと、高いコーナリングスピードが身上のロレンソは、ヤマハのマシン特性を最大限に活用して戦闘力を発揮し、毎年のようにチャンピオン争いを繰り広げてきた。年間総合優勝は3回(2010年・2012年・2015年)。だが、マシンのキャラクターが古巣とはほぼ180度異なるドゥカティでは、そのポテンシャルをどこまで発揮できるのか。

 テスト初日は、トップと1.669秒という大差で17番手。「がっかりはしていないけれども、でもまあちょっとビックリはしたよ」と話す口調は穏やかで、新しい環境に堅実に馴染んでいこうとするベテランらしい落ち着きが感じられた。

「ヤマハのようにコーナーでタイムを稼ぐやり方とは異なる乗り方に変える必要があるので、いいラップタイムを出すために今、それに取り組んでいるところ。今日はトップ4のうち3台がドゥカティだったので、バイクそのものの戦闘力は示していたと思うよ。あとは自分のペースを安定させることだね」

 テスト2日目は8番手に上昇。3日目を終えて総合順位は9番手だったが、総合首位のビニャーレスから0.398秒という僅差の内容を見るかぎり、この3日間で大きな前進を遂げたことは明らかだ。ロレンソ自身も「初日は厳しかったけど、最終的に思ったより速いタイムを出せたのでとてもハッピー」だと話した。

「最初はバイクの順応にもっと時間がかかると思ったけど、今日は大幅によくなった。今後に向けて改善の余地はまだたくさんあるけど、それも時間の問題だろう。だから、今年はレースに勝つことができると思う。チャンピオン争いをできるかどうかはわからないけど、やるべきことを進めていけば、結果はついてくると思う」

 彼ら大型移籍組の順応度に加え、各陣営が投入してくる2017年仕様のマシンが、それぞれどのような"武器"を準備してくるのかという興趣(きょうしゅ)とも相まって、今年は開幕前からかなり見どころの多いシーズンになりそうだ。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira