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【朝倉秀雄の永田町炎上】

 今後、原発をどうするかは国論を二分する大きな政治テーマだ。

 そんな中10月16日に投開票された新潟県知事選では、原発再稼働に慎重な米山隆一郎新知事が誕生した。米山は当選後も東京電力柏崎刈谷原発について「現時点では認められない」との姿勢を崩していない。原発・エネルギー政策は常に立地自治体の首長選の結果に左右されるリスクに直面していると言ってもいいだろう。原子力規制委員会の安全審査に合格した原発を地元の理解を得ながら順次再稼働する方針の安倍政権にとってはまったく厄介な話だ。

「昔の名前で出ている」小泉純一郎元首相などは10月19日、共同通信のインタビューに応え、「次期衆議院選で野党が統一候補を擁立し、『原発ゼロ』を争点化すれば、自民党は敗北する。安倍政権が脱原発に転ずることはない。民意を無視する政党が、政権を持続できるわけがない」などと無責任なことを宣っているが、有権者の多くは科学的根拠もないのに「原発は危険だ」と思い込んでいるから、発電コストやCO2の排出量などをいっさい考えず、ついその気になってしまう。そんな大衆心理を巧妙に手玉に取って知事に上り詰めたのが米山や鹿児島知事の三反園訓というわけだ。

■安全審査に合格した川内原発にイチャモンをつける三反園知事

 三反園といえば8月26日、「熊本地震で県民の不安が高まった」などとイチャモンをつけ、九州電力川内原発を一時停止し、再点検するように申し入れた。むろん知事風情に原発を止める権限はないが、地元との軋轢を避けたい電力会社は立地自治体と事前の了承などを定めた「協定」を個別に結んでいるのが通例だ。「協定」には法的拘束力はないものの、知事が「協定」を盾に反対すれば、現実には再稼働は難しい。知事が交代する度に原発が止まる前例を作ったら、国のエネルギー政策は成り立たない。当然、九電は応じない方針だが、原発停止を公約に掲げて当選した三反園は9月7日、川内原発1、2号機を直ちに一時停止し、周辺住民の安全政策を検討するよう改めて要請した。

 だが、避難計画の策定義務は本来、原発30キロ圏内の自治体が負っている。当然、規制委員会の安全審査の対象外で、再稼働の要件にはなっていない。立地県の知事である三反園こそが避難計画策定の最高責任者のはずだ。要は三反園は自分の責任を九電に転嫁しようとしており、まったくの筋違いと言うものだろう。

 それでも九電は10月6日から川内1号機の定期点検に入り、三反園の顔を立てて約130の検査項目に加え熊本地震後に設備のボルトや配管の緩みがないかどうかなど10項目を追加した。良心的な対応と言えるだろう。検査を終えた後、12月8日には運転を再開する予定だが、また三反園との間で一悶着ありそうだ。

■原発こそがベースロード電源だ

 日本経済を本格的な回復軌道に乗せるには安価な電力の安定供給が欠かせない。安倍内閣は昨年、2030年の原発比率を20〜22%にする目標を掲げた。現在、日本にある原発は42基。建設中の「大間原発」を含めても43基だ。政府の電源構成目標を達成するには全国42基のうち30基程度の稼働が必要となる。

 だが、これまでに原子力規制委員会に安全審査を要請したのは16原発26基。審査に合格して稼働中なのは、四国電力伊方原発と九州電力川内原発1、2号機の3基にすぎない。一度は再稼働に漕ぎ着けた関西電力高浜原発3、4号機はイデオロギーを司法の場に持ち込んだ不埒な大津地裁の裁判官によって3月に運転差し止め命令を受け、目下、停止したままだ。

 原発は発電コストの安さや安定した供給力で他の電源よりも優れている。世界最高レベルの安全基準に合致し、安全性が確認された原発を再稼働して活用するのは当然だし、何も問題ないはずだ。

 原発の代替電源の確保はおよそ非現実的だ。再生可能エネルギーは供給が不安定で、主要電源には向かないし、原発停止中は原油や液化天然ガス(LNG)など燃料コストの高い火力発電に頼らざるを得ず、「原発ゼロ」は電気料金の上昇を招き、筆者のような売れないモノ書きを苦しめる事にもなる。

 本年9月1日時点で運転可能な原発は米国100基。フランス58基、英国15基、ロシア36基、中国34基、韓国25基、共産党が模範とするドイツでも8基が稼働中で、日本よりも多い。

■「パリ協定」を遵守するためにY原発再稼働が不可欠だ

 世界各国で地球温暖化の影響と見られる異常気象が続いている。温室効果ガス排出量の削減は先進国・新興国を問わず世界各国の共通のテーマだと言っていいだろう。昨年末の国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議(COP21)では2030年以降の地球温暖化対策の国際枠組みとなる「パリ協定」が採択され、11月4日には発効する。これによって産業革命前からの平均気温上昇を2度未満に抑えるため、各国は対策を策定して国連に提出し、5年ごとに見直す義務を負うことになる。

 日本の排出量は3.7%で、世界6位。安倍内閣は10月11日に閣議決定。同日に国会提出。同月7日までの批准を目指すが、批准から30日が経過しないと、ルール作りの議論に正式には参加できないから、どうやら11月7日からの第22回会議(COP22)には間に合いそうもなく、蚊帳の外に置かれる事になりそうだ。日本が国連に提出した削減目標は2030年度に対2013度比でCO2排出量も26%減らすというもの。それには化石燃料への依存度を減らし、CO2を排出しない原発の活用が不可欠になる。

文・朝倉秀雄(あさくらひでお)※ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中。