新入社員研修中に「うつ病」! 新卒社員のその後
■うつ病の原因が缶詰研修にある!?
「新型うつ病が20代に多いとは聞いていましたが、まさか新入社員研修中に発症するとは思ってもいませんでした。しかも、休職期間が1年を過ぎても自ら辞めようという気配はない。辞めてもらうのに苦労しました」
新型うつとは、別名未熟性うつとも言われ、仕事をしている時など特定の環境下にいる際にうつ症状が出ます。一方、仕事が終わる5時以降やプライベートの時は正常に戻るというやっかいな疾患です。大手消費財メーカーに新卒入社したA(22)が「抑うつ」と記載された診断書を持参したのは3カ月間の研修終了直後のことでした。面食らった上司は人事部に連絡。人事部員が本人を伴い主治医に面会した話を聞いて人事部長は驚きました。
「発症の原因が研修にあると言うのです。当社は3カ月間、土日以外は同期と寝泊まりする缶詰研修を行うのですが、それが本人にはだいぶこたえたらしい。とくに、これまで親にも怒られたことがないような厳しい叱責を講師に受けたことで相当のショックを受けたようだ、と言うのです。話を聞いてこれではダメだ、すぐにも辞めさせるべきだと思ったのですが、病気と診断された以上休ませるしかありませんでした」
休職中のAを人事部員がフォローすることになりました。3カ月後、その部員から「海外旅行中の本人から電話があり、すこぶる快調なので職場復帰したいと言ってきましたがどうしましょうか」と相談を受けました。人事部長は「何だ、それは」と思ったが、半年後に復職させることに。ところが、復職後2週間で再び発症。2回目の休職に入ったのです。それとなく退職を勧めたのですが、本人は応じる気はなく1年が経過しました。
「スキルや知識を持つベテランならともかく、何の貢献もしていない新人をこれ以上置いておくわけにいきません。そこで秘策を打つことにしたのです。本人には復職を前提に休職期間中に好きな時間に会社に来て、自分の好きな勉強をしてもよいことにしました。ただし、それも続けられない場合は『退職します』と一筆を書いてもらうことにしたのです」
Aの机は人事部内の最も多忙な国際人事室に置かれました。最初の頃は、Aは外国人社員の間で飛び交う英語や忙しく動き回る人事部員を呆然と眺めていましたが、そのうち出てこなくなりました。後日、Aから退職届が送られてきたそうです。
※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。
(ジャーナリスト 溝上憲文=文)