小保方氏が批判した記者は理研の会見でも熱心に質問していた(写真は2014年4月1日の調査委員会会見)

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小保方晴子・元理化学研究所研究員(32)の手記「あの日」(講談社)が波紋を広げている。手記は新型万能細胞、STAP細胞の作成に成功したと理研が発表してから丸2年が経った2016年1月28日に発売され、早くもアマゾンの「本の売れ筋ランキング」で1位にランクインした。

手記では、STAP論文共著者で小保方氏にとっては理研時代の恩師にあたる若山照彦・山梨大教授(48)に対する不信感をぶちまける一方で、小保方氏を取材してきたメディアへの批判にも多数のスペースが割かれた。媒体名や記者名を挙げながら、「人生で一番の恐怖を感じ、全身が硬直した」「殺意すら感じさせるものがあった」などと取材の恐怖を振り返った。

「山梨に行った情報はすべて毎日かNHKに流出」

STAP細胞をめぐる報道で先行していたのは毎日新聞とNHKだった。当然、これは小保方氏からすると「理研側からNHKと毎日にリークされた」と映る。手記によると、理研の報告書の内容は「発表前からいつものように毎日新聞にリークされ」たといい、リークがひどいと事務方の幹部に訴えると、その幹部は、

「幹部の中に秘匿情報をマスコミと山梨に流出させている人は認識していて、その人の目星はついている。実は、その人を呼び出して口頭で注意をしたけれど効き目はなかった」
「山梨に行った情報はすべて毎日かNHKに流出するんだけど、止まらない」
「若山先生には理研広報からも注意を呼びかけている」

などと明かしたという。

特に毎日新聞の須田桃子記者については、「取材攻勢は殺意すら感じさせるものがあった」という。須田記者は取材の成果を「捏造の科学者 STAP細胞事件」(文藝春秋)としてまとめ、第46回大宅壮一ノンフィクション賞の書籍部門に選ばれている。この書籍のプロフィール欄には、須田記者は

「特にiPS細胞(人工多能性幹細胞)については06年の開発発表当初から12年の山中伸弥・京都大学教授のノーベル賞受賞を経て現在まで継続的に取材してきた」

と説明されている。

小保方氏は、須田記者の取材手法を、

「脅迫のようなメールが『取材』名目でやって来る。メールの質問事項の中にリーク情報や不確定な情報をあえて盛り込み、『こんな情報も持っているのですよ、返事をしなければこのまま報じますよ』と暗に取材する相手を追い詰め、無理矢理にでも何らかの返答をさせるのが彼女の取材手法だった」

と批判。須田記者のメールは、断片的に得られた情報を裏付けるための取材の一環だとも言えるが、その執拗さに小保方氏は恐怖を覚えたようだ。これに加えて、メールを返信しても、自らの言い分が記事には反映されていないとも感じていたようだ。

「どんな返事や回答をしても、公平に真実を報道しようとはせずに、彼女が判定を下した善悪が読み手に伝わるように記事化し、悪と決めた私のことを社会的に抹殺しようとしているように思えた」

NHKの記者からは、小保方氏の携帯電話に電話やメッセージが直接送られてくるようになったといい、

「NHKの記者がどのように携帯電話の番号までの個人情報を入手しているかを考えると、生活のすべてを包囲されているような恐怖で、『もう生きていくことができない』と考える時間が長くなった」

と説明。NHKスペシャルの取材でカメラに追い回された時には、

「人生で一番の恐怖を感じ、全身が硬直した」

という。

週刊文春「嫌らしい言い方をすれば、STAPを書けば部数が伸びました」

手記では、週刊誌の粗野な取材方法や動機にも触れている。週刊文春からは2015年になっても取材依頼の手紙が届いたといい、そこには率直すぎる取材目的が綴られていた。

「なぜ私たちが毎週のようにSTAP騒動を取り上げてきたか。理由ははっきりしており、読者の評判がよかったから。嫌らしい言い方をすれば、STAPを書けば部数が伸びました。アンケートも毎週取っていますが、ずば抜けていい数字」
「私は小保方さんをモンスターのような存在として書いてきました」

小保方氏が住んでいるマンションのオートロックを突破し、部屋の前までやって来てインターフォンを押した記者も多かったという。特にマンション前で週刊新潮のカメラマンからフラッシュを浴びた際には、

「マンションの中に逃げ込むと、カメラマンや記者が一緒に中まで入ってきて、録音しながら矢継ぎ早に質問をされた」
「恐怖で足の震えが止まらず、初めて警察を呼んだ」

という。

小保方氏は手記に15章あるうち、第11章を「メディアスクラム」と題してメディア批判にあてている。取材手法や「個人攻撃」については幅広く批判を展開しているものの、その程度が限度を超えたものだったのかについては取材側の言い分も聞いてみないと真相は分からない。また、報じられた内容が誤報にあたるかどうかについての具体的な反論には至っていない。