泉本 行志 / 株式会社アウトブレイン

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まず現場の業務を何も知らないあなたは、部内、関連部署の主要メンバーのヒヤリングから
始めるかもしれません。そして、業務の概要や現状の問題をある程度把握し、その改善策を
チームメンバーと話し合う場を設けました。

メンバーA: 「それは、システム的に無理ですよ」
メンバーB: 「それでは業務が煩雑になり過ぎます。」 
メンバーC: 「○○部署との関係上、そんなこと勝手にできないです。」
メンバーD: 「それよりまず、○○を改善することが先ではないですか。」

あなたは、業務分析をし、発見した問題点に対する改善の方向を示してみたものの、
現場のメンバーからの意見は、ネガティブなものばかりです。
実務のことは、彼らの方が良く知っているし、彼らの意見は現実的でもっともな気もする。 
実際に改善活動を行うのは、彼ら自身だし、新任のマネージャーとして信頼を得たいあなたは、
メンバーを尊重し、みんなの意見をうまくまとめた解に落とし込もうという気持ちに駆られます。 
しかし、限られた情報ではあるが、そこから自分が考え得た解はメンバーからの意見と同じではありません。
それでも、自分の意見を押し通すのは、結構勇気がいるものです。

現場の声に耳を傾け「ファクト」を押さえていくことは大切です。ただ「意見」を全て聞くことが
正しい行動へと導くとは限りません。部署を改革するというミッションをもつあなたは、
現場の延長上に解を探すのではなく、よりハイレベルの視点で「今何を実現させることが必要なのか」
をまず定め、その実現を可能にする方法を現場に問う姿勢が必要です。

司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」の中に、日露戦争の旅順での戦いで、大将が砲技術の専門家達の意見を
聞きすぎた余り、なんの行動も出来きず惨敗している様子が描かれています。そこに主人公が登場し、
専門家ができないということでも「やる」と決め、結局実現させて戦局をいっきに好転させた場面があります。
専門家は、その分野の専門知識・経験はあるけれども、それは狭視的な見解であることが多いという
含蓄のあるシーンだと思います。

これは、企業組織内でも言えるのではないでしょうか。
「ITチームができないって言ってるからしょうがない」、「この業務に詳しい人が言ってるからそうなんだろう」
と実務の専門家が言うからというだけで、それをまともに受けてしまい何も行動できないでいるマネージャーが
少なくない。 より戦略的・改革的な行動を決める際は、技術的・実務的にどうこうは後で考えることにし、
大局を見据えた方向性を示し、ある程度トップダウンで組織を動かしていく力量も、時には必要となります。
 
現場の意見を聞き過ぎて滞ってしまうくらいなら、「○○は絶対にやります」とまず宣言してしまいましょう。 
その本気度がメンバーに伝われば、方法は自ずと現れてくるものです。


(初回2007年4月18日掲載)