松山商「思い切り」で今治西との決戦へ

エース・山本 寛大(松山商)

 その姿を見て思わず「監督」といいそうになってしまった。7回コールドで松山商が県大会初戦を飾った試合後、坊っちゃんスタジアムを出たところに、ニッコリ笑顔で待ち受けていたのは今年2月から松山商の外部トレーナーを務める大倉 孝一氏であった。

 昨年9月、「ENEOS Presents 第6回IBAF女子野球ワールドカップ宮崎大会」大会4連覇を達成した侍ジャパン女子野球日本代表(マドンナジャパン)では、指揮官として第3回(愛媛県松山市開催)・第4回(ベネズエラ・カラカス及びマラカイ開催)・第6回、トレーナーとして第5回(カナダ・エドモントン開催)にかかわった大倉氏。松山商でもマドンナジャパンを率いている時と同様に「練習では受身でなく自分を出していくことを作っていき、試合では自分を発表していく」メンタル的指針も与えながら、重澤 和史監督率いるチームをサポートしている。

 その浸透度の高さは「初戦の硬さ、重さがあったが、粘ってくれた」と指揮官も評価したエース・山本 寛大(1年・右投右打・172センチ65キロ・伊予市立伊予中出身)や1対2と大洲に迫られた5回裏・1点を加えてなおも二死二塁の場面から技ありの右打ちで勝利を大きく引き寄せた7番・神野 恵資(2年・二塁手・168センチ62キロ・右投右打・松山リトルシニア出身)をはじめとするファウルゾーン内だけではない。

 一例をあげる。松山商1点リードで迎えた3回裏二死一塁で5番・土居 雅哉(2年・左翼手・175センチ68キロ・右投右打・松山ボーイズ出身)が中前にポトリと落とす安打。そこで一走の4番・堀尾 晃生(2年・一塁手・175センチ77キロ・右投右打・えひめ西リトルシニア出身)に対し、三塁ランナーコーチの西田 有宇喜(2年・外野手・170センチ64キロ・右投右打・愛媛松山ボーイズ出身)は迷わず本塁突入を指示した。結果は中堅手のファンブルを誘い適時二塁打に。その判断に至った流れを西田はこう説明してくれた。

「ランナーのスタートもよかったですし、外野手の動きを見てホームに還せると思いました。チームに勢いをつけるために積極的に腕を回しました」。これも1つの「自分を出す」である。

 そして大倉氏は言う。「自分を出していく力を付けないと、困ったときのアドリブができない」。となると、相手を困らせる術は県内でも郡を抜いている今治西との準々決勝は、そこをいかにできるかを知る格好の機会であろう。

 ちなみに2013年春の県大会準々決勝以来となる公式戦の両雄対戦は、1999年夏の愛媛大会3回戦で松山商が今治西に6対4で勝利して以来、今治西が県大会公式戦6連勝中。(2000年夏準決勝8対5・2003年春1回戦7対5・2006年夏3回戦10対2・2008年秋準々決勝7対0・2011年秋準々決勝4×対3・2013年春準々決勝8対0)。ただもし、重澤監督が掲げる「120%挑戦者」を選手たちが忘れず、大倉氏の言う「発表会」が成功裏に終わった暁には、16年間蓄積された松山商「負の連鎖」は一気に解き放たれるはずだ。

(文=寺下 友徳)

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