調達購買人材はプロフェッショナルかゼネラリストか/野町 直弘
人材育成は調達購買部門に限らず全ての部門にとって大きな課題となっています。一方で人材育成という観点からキャリアについてよく聞かれることがあります。
それは「調達購買人材はずっと調達購買部門を経験(事業部や事業所間の調達購買部門での異動はあるものの)していくのが良いのか、それともローテーションの一環として調達購買部門にある一時期属するのが良いのか、」という投げかけです。
要するに「調達購買人材はプロフェッショナルなのか?ゼネラリストなのか?」
また中でもよく聞かれることとしては「どちらのパターンが日本企業の中でより一般的(多い)か?」ということです。これに対しては一概にどちらがよいとは言えません。
またどちらが多いかと言われても、「両方のパターンが混在している」というのが答えになります。また同じ企業の中でも両方のパターンの人材が混在している、というのが実情です。
欧米企業では、調達購買人材はプロフェッショナル型です。ここでは調達購買職は専門職であり、場合によっては自身のスキルを活かして多くの企業を渡り歩くこともごくごく普通に行われます。
こういったプロフェッショナルをまとめるマネジメントになるためには、マネジメントの勉強やスキル育成を行わないとその職には就けません。これが一般的であり、調達購買部門出身でない人材がCPO(最高購買責任者)や部門長に就くことはあり得ないことです。
日本企業はそうとは限りません。
実際に調達購買部門長は、調達購買プロパーの人材もいれば開発、営業部門から異動してくる人材もいます。また調達購買部門から一度他の部門に異動し、また戻って来る人も少なくありません。
欧米企業型と日本企業型、日本企業型の中でもプロフェッショナル型とゼネラリスト型が混在していますが、人材育成という面や企業に対する貢献ということを考えるとどういう方向が良いのでしょう。
あくまでも私自身の経験等を踏まえての私の考えですが、プロフェッショナルにしてもゼネラリストにしても共通して言えることは、「違う仕事の経験はすべき」ということです。
つまり調達購買部門から外に出て違う職種や部門の仕事を経験することで人材育成につながると考えています。
私は調達購買職の経験は社会人として必要なスキル育成にたいへん役立つものと考えます。特に、正しいモノや目指すべきトコロが単純明解でないという点が人を育てる要因の一つです。調達購買職は常に自社の利益だけでなく、取引先の育成や利益確保もしなくてはいけません。つまりトレードオフな状況の中で様々な検討や最適な意思決定をしなければならない、このような環境は他の部門にはない環境です。
また特に調達購買職は限られたリソースの中でやりくりを迫られます。経営資源や時間は有限です。その有限な資源や環境下で最適解を見出していく、このスキルも社会人として非常に重要なスキルと言えます。常に多忙でプレッシャーのかかる状況下で様々なことを検討し、考え、意思決定を行い、それを実行する。そのためにはもちろん社内外の調整や説得力も必要になります。
このように調達購買職は改めて考えても色々なスキルを身に付けるきっかけになるのです。
一方で、調達購買職の方にややもすれば言える共通するネガティブな点もいくつか上げられます。例えば「上から目線になる(最近は少なくなりましたが)」、「アンテナが低い」(情報は待っていても誰かが持ってきてくれる)、「受け身になる」(仕事は待っていても降ってくるもの)、等々です。まとめて言うと自ら考え生み出していくということに苦手な人材になってくる傾向があります。
このように調達購買職が自分にとってどのようなスキルを伸ばしてくれているのか、逆にどのような点が不足しているのか、ということは調達購買部門内にずっといるとわかりません。外に出る(違う仕事を経験する)ことが改めてそれを理解するきっかけになります。
振り返ると私自身そうでした。また、外に出ることで調達購買職の仕事の面白さも分かってくるようになりました。
調達購買職で身につく多くのファンダメンタルスキルの育成は、それを意識するかしないかでスキルアップのスピードも変わってきます。もちろんスキル育成の機会と捉えることで短期間で意思決定力や調整力、説得力が身につくのです。ですから一度外に出て、また戻って来たときにこのようなことに気がつくことでより一層のスキルアップが図れます。
こういう点から一度は外に出たほうがいい、というのが私の考えなのです。
外に出る上で日本企業の海外駐在の経験はスキル育成につながるということを多くの方から伺います。特に大企業の場合は高度に分業が進んでいますので、調達購買部門にずっといると仕事に関係のない知識や経験を積む機会が少なくなります。それに対し、海外に行くと仕事の守備範囲が広くなり、また場合によっては係長が課長、課長が部長や役員などの一段階上の仕事をせざるを得ません。
例えば経理、財務、法務、人事関連の仕事を兼務したり、場合によっては事業戦略、製品企画にも絡み事業計画等も作らざるを得なくなるのです。こういう幅広い業務経験を積むことが一層のスキル育成の糧になることは間違いありません。また外から調達購買職を見ることで、その特性や良さを再認識することにもつながります。
調達購買部門人材の育成やキャリア形成で悩まれている部門長やご自身のキャリアプランに活かしていただければ幸いです。