生活保護受給者数が過去最多となる210万人を突破した(今年3月時点)。国の財政難が叫ばれるなか、増え続ける生活保護費。お笑い芸人・次長課長の河本(こうもと)準一の謝罪会見も記憶に新しい不正受給の問題も尾を引く。

そこにひと筋の光が! 厚生労働省が生活保護の不正受給を見破るソフトを開発し、今秋にも全国の自治体に導入するというのだ。厚労省の担当者が話す。

「生活保護の中の医療扶助の適正化を促(うなが)すために開発しました。これを使えば、電子化したレセプト(診療報酬明細書)から不審な点が疑われる事例を容易に抽出できます」

はて、“医療扶助”とは?

「生活保護受給者が病院にかかる場合、自治体などから医療券をもらい、病院に提出して治療を受けることになります。受給者に病院窓口での自己負担はなく、国と自治体が全額負担する。これを医療扶助と呼びます」(厚労省担当者)

生活保護受給者には毎月、生活費や家賃が支給されるが、これとは別に検査や治療の無料チケットが配布されているのだ。そして、驚くのはその支出総額。

「毎年かかる生活保護費(平成24年度予算で約3兆7000億円)のうち、約半分(同約1兆7000億円)が医療扶助費です」

なんと! 医療扶助にそれだけの費用(税金)がかかる理由について、嘉悦大学講師で社会福祉士の多村寿理(じゅり)氏がこう解説する。

「まず、受給者の3割以上が傷病者や障害者で、高齢者も4割以上。受給者には病院にかかる必要のある人がたくさんいるのです」

問題はここからだ。

「生活保護の受給条件のひとつに『病気』があります。つまり、うがった見方をすれば支給を受け続けるためには『病院に通院している』事実が必要。この事実をつくるため、本来なら病状が回復し、仕事に復帰できるのに、仮病を使ってムダに通院を続けている受給者も少なくありません。『疲れやすい』などと訴え、複数の精神科をハシゴして向精神薬を大量に仕入れ、ネットなどで転売している受給者までいるようです」

そんなエセ患者(エセ受給者)、病院からつまみ出せばいい!

「医師法に『治療の求めがあった場合、これを拒んではならない』という応召(おうしょう)義務があるため『腹が痛い』などといって来院する患者は追い返せません。病院にとっても、通院してもらったほうが国や自治体から受け取る診療報酬が増える。それをいいことに、受給者に不必要な治療を施したり、入院をムダに長引かせたりする悪徳な病院もあるほど」(多村氏)

生活保護を継続したい患者と、儲けを得たい病院。持ちつ持たれつの関係が、医療扶助が増え続ける原因だと多村氏は指摘する。

そこで今回、厚労省が開発した医療扶助の不正受給発見ソフトだ。「生活保護等レセプト管理システム」が正式名称だが、前出の厚労省担当者がその性能について教えてくれた。

「まず、レセプトとは、患者が受けた診療について病院が自治体などに請求する医療費の明細書のことです。そこに不正がないかを点検するのは自治体の担当者ですが、従来のレセプトはすべて紙媒体。数万から数十万枚規模で毎月届く“紙レセプト”に現場からは悲鳴が上がっていました。しかし、ここ数年ですべてのレセプトを電子化し、昨年、それを調べるソフトの本格運用も全国で開始。これでレセプトの点検作業が劇的に早くなりました。この秋に導入するのはその“バージョンアップ版”。過剰な診療や薬の投与など不審な点が疑われる事例の抽出機能を向上させました」

例えば、〈月15日以上の通院が3ヵ月以上続いている〉〈180日を超えて入院している〉といった過剰受診が疑われる受給者の特定も可能になるのだという。

「そこで不適切な受診や診療が発覚すれば自治体が指導を行ない、従わないと生活保護の打ち切りや医療機関の指定を取り消すことができます」(厚労省担当者)

これで医療扶助の不正受給問題も解決!かと思いきや、前出の多村氏が険しい表情でこう話す。

「『月180日以上の入院』がチェック対象となるなら179日目でいったん退院し、再度入院手続きを取るなど抜け道はある。また、ソフトを使って指導対象となり得る受給者や医療機関を抽出したところで、直ちに不正とは言い切れず、最後には受給者や医療機関への聞き取り調査が欠かせない。そこで主治医に『これは必要な治療』と言われれば自治体はお手上げ。残念ながら、根本的な問題解決にはつながらないでしょう」

生活保護の不正受給をなくすためには、生活保護制度そのものを見直す必要があるのかも。

(取材・文/興山英雄)