■熊本OB決戦の様相を呈した、長崎vs讃岐の上位対決

長崎県の島原半島へは、熊本市からのアクセスだと熊本港から出航しているフェリーで約1時間、高速船なら30分で着く。有明海を隔てていながら感覚的には近く、過去には熊本の中学を卒業後、島原商業や国見など島原半島の強豪校へ越境入学する選手も少なくなかった。また、J2のロアッソ熊本も昨年のワールドカップ期間に島原で短期キャンプを行うなど、サッカーを通じた両県の関係は深い。

現在JFLを戦っているV・ファーレン長崎には、FW中山悟志、山内祐一、MF山本翔平、松岡康暢と、過去に熊本でプレーしたことのある4選手が在籍。熊本時代から彼らを応援してきたファンは、所属チームが変わっても熱心に応援し続けており、長崎のホームゲームに足を運ぶ人もいる。

今月18日に行われたJFL前期第16節は、その長崎が今期から昇格したカマタマーレ讃岐を迎えた一戦。熊本でのプレー経験がある選手を4人抱える長崎に対し、讃岐にもDF鈴木祐輔、FW福嶋洋と熊本でプレーした選手がおり、加えてその讃岐を率いるのが2009シーズンに熊本を指揮した北野誠監督と、さながら「熊本OB決戦」の様相。あいにく、長崎では松岡がベンチ入りしたものの出場せず、また中山、山内、山本は怪我でベンチ外と、この日のピッチに立てた「熊本OB」は讃岐の鈴木と福嶋の2人だけとなったが、取材に向かう船中でも、顔なじみの熊本サポーターの姿を多く見かけた。

15節までの8試合を終えた時点での成績を見ると、長崎が勝点15の3位、一方の讃岐が勝点16の2位。この日勝ったほうがFC琉球を抜いて暫定首位に立つ上位対決とあって、JFLの同節のカードの中でも注目を集めるゲームとなった。

■勝負に徹した讃岐が辛勝して単独首位に

激しく降っていた雨の影響で、会場となった島原市営陸上競技場のピッチは至る所に水たまりができているコンディション。余談になるが、ちょうど1週間前に行われたJ2第16節、熊本対FC東京の試合でも激しい雨の影響が心配されていたものの、ピッチ状態は全く対照的で、舞台となった熊本県民総合運動公園陸上競技場の水はけの良さを改めて感じさせられたものである。

さて、15:00に始まったゲームは、予想していたとおり立ち上がりからお互いに「前に運ぶ」ことを最優先する狙いの色濃い展開となった。長崎はFWの有光亮太と水永翔馬がややタテ関係になる4-4-2、対する讃岐はフィジカルが強く高さもある西野泰正を1トップに置く3-3-3-1の布陣。序盤、そのピッチコンディションに順応した讃岐が、主に右サイドから長崎のDFラインの裏を狙う形を見せて押しこむ。しかし最初のチャンスは15分の長崎。左サイドバックの持留新作が持ち上がって中央へ入れたボールを水永が落とし、試合前にJFL通算100試合出場を祝うセレモニーが行われたキャプテンの岩間雄大が狙うが、これは讃岐GK瀬口拓弥の正面に飛んだ。

思うようにボールコントロールができない中、セカンドボールの争いでは、選手を均等にピッチに配するシステムの讃岐にやや分があった。それでも、決定的なチャンスを作っていたのは長崎の方である。特に経験豊富な佐藤由紀彦からの配球が絶妙で、水たまりでストップすることを予測して強めのパスを讃岐の3バックの脇へ出し続け、30分あたりからは長崎ペースに。それでもフィニッシュに持ち込むにはピッチ状態が悪すぎて、公式記録によれば前半のシュート数は長崎が3本、讃岐は1本となっている。

ハーフタイム、「このままなら0-0で終わる。ミスをする方が負けるから、自分たちはミスをしないこと、そして相手のミスを誘うように」と、讃岐の北野監督は選手たちを送り出した。その指示を受けた讃岐の選手たちは再び積極性を取り戻し、右の岡本秀雄が中から外へ開く動きを織りまぜて徐々に形を作っていく。その後は一進一退の攻防が続いて終盤を迎えるが、83分、「飛び出すことと、シュートを打つこと」(北野監督)を期待されて68分に交代で入っていた吉澤佑哉が、岡本から長崎DFラインの裏へ出たパスに抜け出して詰め、讃岐が待望の先制。