■カマタマーレ讃岐戦で用意されていた伏線

今思えば、伏線はカマタマーレ讃岐戦に用意されていた。

JFL前期第14節、カマタマーレ讃岐をホームに迎えた試合が、3年半に渡った吉澤英生監督体制の最後となった。JFL新入生ながら、ここまでは順調に結果を残してきた讃岐と、優勝候補、Jリーグ昇格候補と呼ばれながらも低空飛行を続ける松本山雅の一戦。波にこそ乗れてはいないが前前節(町田ゼルビア戦)の勝利で、チームとして方向性は見えつつあった松本は、この試合も“ある程度の”内容を見せた。

3-3-3-1のシステムの讃岐のディフェンスは、ピッチを9分割し、その場所を必ず一人の選手が埋めている。そして、縦・横の選手がスライドしてボールホルダーにプレッシャーをかける、と表現すれば良いのか。3バックの弱点を突くべく、今までになくサイドチェンジを多用してチャンスを作った松本も、結局はボールを受けてからの次の手に苦心した。言わば讃岐の術中にはまった格好となる。2-2のドローに終わったものの、何ともやりきれない不完全燃焼の試合となった。

■4シーズン目を迎えていた吉澤監督は、志半ばで解任となった

試合後の監督記者会見。アウェイの地で勝ち点1を得た讃岐の北野誠監督は最低限の結果を得たこともあり、メディアに対しても笑顔で逆質問を投げかけるなど、確かな手応えを感じている様子が伺えた。一方、吉澤監督の表情は明らかに強張っていた。ここ数試合、吉澤監督の会見時には独特の緊張感が漂っており、この日は、「それ、さっき言いましたよ」「いや、ですから……」など、記者とのやり取りに若干のとげとげしさがあった。正直、だいぶ追いこまれているなという感想を抱いた。

ここ数試合の吉澤監督からは、記者・メディアと対話を図ろうという雰囲気を感じ取ることは出来なかったのだ。チーム作りが順調にいかず、結果が出ていないこともあって、記者はどうしても監督に対して懐疑的な視線を向けるようになる。それを痛いほど理解しているからこそ、このような状況に陥ってしまうのだろう、と。繰り返すが方向性は見えてきた。これを持続できれば結果もある程度ついてくるだろう。しかし――。

この試合の翌日。クラブは臨時の役員会を開き、吉澤監督の解任を決定した。後任は、加藤善之GM。こうして4シーズン目の指揮を託された吉澤監督は、志半ばにしてクラブから離れることになった。

■明確な指針をチームに与えられなかった

筆者は、クラブの判断=吉澤監督の解任は止むを得ないものととらえている。ここまで8試合で2勝3敗3引き分け、勝ち点は9。「開幕5試合で勝ち点10のロケットスタート」の目論見が空しく響く。結果が全てのこの世界で、この数字は不本意以外の何物でもない。

そもそも、4シーズン目の指揮となる吉澤監督だが、リーグ戦では例年出足に躓いている。序盤思うように結果が出ずに、秋になりサッカーの季節が終わろうかとする頃にようやくチームが仕上がる。では、次のシーズンは期待出来るかと言うと、それまでの経験がリセットされたかのように、またチーム作りはゼロからのスタート――。これでは厳しい。

元来、チームに明確な戦術・コンセプトを与えるタイプの戦術家・理論派の監督と言うよりも、大まかな指示以外は選手個々の能力・判断に託すタイプ。HondaFC時代にJFL優勝、最優秀監督に輝いた経歴を持つが、現役時代から勝手知ったるクラブと選手。毎年毎年、選手が大幅に入れ替わるという点は、吉澤監督にとっては大いにやり辛かったことだろう。チームとしての戦い方(以前、当サイトで筆者は『背骨』という表現を使った)が明確ではないから、前線に大きく蹴り出すカウンターサッカーがやりたいのか、細かく繋いで崩すパスサッカーに挑みたかったのか、不明瞭のままで時間だけが経ってしまい、今シーズンもチームのベースはむしろピッチ内のリーダーだった北村隆二や松田直樹が組み立てようとしていた。