【photo by B.O.S.】

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 アジアカップ初戦の対カタール戦を翌日に控えた7月8日夕方、日本代表は通常よりも短いトレーニングを終えた。選手バスに乗り込むまでの間が、選手の取材が許されるミックスゾーンとなるのだが、高原直泰は足を止めることもなく、締まった表情で「良い感じで状態は上がってきた。もう試合をやるだけ」と言いバスに乗り込む。

 この日午前中、公式会見取材のため選手宿舎へ行ったのだが、そのとき、ホテル周辺のランニングから戻ってきたばかりの高原を見た。大量の汗をかいていたのが印象的だった。ハノイ入り2日目行なわれた練習試合後、「ミスが多くて、ゲームとしては悪かった。でもミスが多かったせいで、全員が動く時間が増えたから、フィジカルコンディション的にはよかった」と話している。しかし、「本番のゲームでミスが続くと苦しい展開になり、後手にまわると消耗するし、疲れも倍になる。なにより精神的な面で違うから、ミスは減らさないといけない」と、高原は語っている。

 15歳で経験したU−17(17歳以下)世界選手権を皮切りに、準優勝を飾ったU-20世界選手権、23歳以下の選手で戦うシドニー五輪、そして06年のワールドカップと数多くの世界大会を戦ってきた。もちろん世界大会出場権をかけたアジア予選も。そのうえ、ジュビロ磐田時代にはアジア王者にも輝いている。アルゼンチンやドイツでの体験はもちろんだが、高原が身につけている経験値は大きい。

「グラウンドですか?別に気にならないですね。問題ないでしょう。気温だとか芝だとかそういうことの悪さを挙げ連ねてもあまり意味がない」チームメイトたちが異口同音に不安を語った芝やピッチについても、全く動じてはいなかった。悪環境に順応し、それを“悪い”と感じない準備をすればいい。アジアという決して良いとは言えない環境のなかであっても、自分のコンディションを整える準備方法が自然と備わっているのだ。

「ここは確かに気温が高いだけじゃなくて、湿度も高い。そういう中でどういうプレーをするかが大事」との発言は、“どんなプレーを選択するか”という意味が込められていた。「夕方6時半を過ぎると、日中の暑さがおさまってくる。5時20分キックオフの試合では、前半はキツイ状況になるかもしれないが、そこをどう乗り切るかだと思う。いい試合の入り方をして、前半を乗り切れば、後半は少し涼しくなっていくから。前半は集中したい」

 すでに現代表チームではベテランの立場になっている高原。「練習中に、動き方だとか、いろんなことをタカさんからアドバイスしてもらえる」と語っていたのは水野晃樹。「気がついたことがあったとき、その場で言いますけど、ピッチを離れてまでいろいろ言うことはないですよ」言葉ではなく、その姿、背中で後輩を引っ張る。そんな高原のたたずまいは、彼が長い間追いかけてきた中山雅史のそれに似ている。

「アジアカップは、このチームがひとつ前に進むために大事な大会になる。なるべく長い時間一緒にプレーできれば、成長もできるだろうし、他にもいろいろプラスのなることがあるだろう。このチームには若い選手も多いし、数多くのゲームをこなせば、全身できると思う」もくもくと準備をし、本番に備えてきた。

 過去の世界大会やアジアの大会では、常に先輩に引っ張ってもらう立場だった。チームのことを語るよりも自分のことで精一杯という感じでもあった。しかし、今大会では、チームを引っ張る存在となった高原。「とにかく結果を残したい」ゴールという結果、勝利という結果、三連覇という偉業達成。そして、チームの成長……。多くの結果が求められるアジアカップが始まる。

―― text by Noriko TERANO ――

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