このような危険な自撮りを「エクストリームセルフィー」と呼ぶが、当然リスクが高く、事故や死亡などと隣り合わせだ(写真:Shutterstock/アフロ)

スマートフォンでの自撮り(セルフィー)中に死亡する、「死のセルフィー」が多発している。2018年9月に発表された全インド医科大学などの調査によると、2011年10月から2017年11月までにセルフィーによる137件の事故が起き、259人が死亡していることがわかった。

自撮りによる死亡事故は国内でも起きている。2017年2月、神奈川県座間市の公立中学校で、3階の屋上から3年生の男子生徒(15歳)が転落して死亡。生徒は同級生8人と卒業記念や、思い出づくりのために自撮り写真を撮っており、屋上が施錠されていたので窓から出てさく伝いに渡ろうとしたところを誤って転落したと考えられている。

このように自撮りで事故や死亡につながる例は少なくない。過激な自撮りも流行中だ。自撮りの現状とともに、過激化する理由と危険性について解説したい。

死亡者の多くは10代、20代

SNSなどで驚くような自撮り写真を見かけたことがあるかもしれない。野生の熊の前での自撮り、高い建物の上にいる自撮り、火事の前での自撮り……このような危険な自撮りを「エクストリームセルフィー」と呼ぶが、当然リスクが高く、事故や死亡などと隣り合わせだ。

〈高い建物の上で撮ったエクストリームセルフィーの例〉

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中でも、高いビルの屋上など危険な場所を歩いたり、走ったりする様子を撮影してSNSなどに投稿する人たちは「ルーファー」と呼ばれる。2017年12月には、62階のビルの屋上で自撮りしていたルーファー、中国のヴォン・イオンニンさんが落下して死亡するなど、死亡事故も起きている。

先ほど紹介した調査によると、事故に遭ったユーザーの年齢は10〜68歳であり、平均年齢は22.94歳。10、20代の若者たちが多くを占めている。


調査結果によると、10、20代の男性の死亡事故が目立つ(図:Selfies: A boon or bane?)

同時に、全体の72.5%を男性が占めている。若者のほうが無鉄砲な行動に出やすく、また、男性に比べて女性が少ないのは、「センスが良い」「かわいい」と思われたい願望が強いため、行動が過激化しづらいからだと考えられている。

死因は「溺死」が最多で、海岸で波にのまれたり、泳げないのに岸辺で自撮りしたり、ボートが転覆したりなどの事例が目立つ。続いて多いのは、走っている列車の前で自撮りして事故に遭うなどの「交通機関」、「銃などの火器」、高い建物からの「落下」などである。このような自撮りの共通点は、スリリングでショッキングなショットが可能となる点だ。

セルフィーはSNSに投稿するために撮られることが多く、主に見る人たちの注目を集めたり、「いいね」やフォロワーを増やすことを目的として投稿される。ところが自撮りが普及した現在は、当たり前に撮っていては「いいね」は集まりづらい。そこで行動を過激化させることで注目を集め、同時に「いいね」やフォロワー増加を狙うというわけだ。つまり、承認欲求が暴走し、判断力が働いていない状態となっているのが問題なのだ。

なお、死亡事故最多の国はインドで、ロシア、アメリカ、パキスタンと続く。ただし、該当調査は英語で報じられたニュースが対象となっているため、日本など英語圏以外の事故は反映されづらい可能性がある。調査結果では日本では起きていないことになっているが、冒頭でご紹介したように国内でも起きているのだ。

「承認欲求の暴走」からエクストリームセルフィーへ

では、国内の自撮り事情はどうなっているのだろうか。株式会社テスティーの「10代女性のセルフィー事情調査結果」(2016年6月)によると、「自撮りの練習はしますか?」という質問に対して半数以上が「する」と回答。「セルカ棒(自撮り棒)は使用していますか?」という質問に対して、約6割が「使用したことがある」と回答した。Instagramがさらに流行している現在は、この傾向がますます強まっていると考えられる。

このように若い世代を中心にセルフィーが普及する一方で、自撮り時に周囲の人たちに迷惑をかけたり事故などにつながるため、JR西日本や東京ディズニーリゾート、観光地など、自撮り棒使用が禁止される場所も増えている。

女子高生などに話を聞くと、「日常的に自撮りをしている」「友だちと撮った写真は(本人に)断りなくSNSに載せる」という子は多い。多くの子たちは一度は自撮りの練習をしたことがあるが、「もうどうやれば(自分たちがかわいく)撮れるかわかっているから」と、一発で自撮りを決めていた。「『セルフィーは載せるな』とか親や先生は言うけど、載せないと誰も見てくれないし、いいねももらえない。これまで危ないことになんて遭ったことない」と彼女たちは言う。

タレントの世界と同様、特別にかわいらしい10代女子は顔写真を載せるだけで途端に「いいね」やフォロワーが増えることがある。一方、思ったほど「いいね」やフォロワーが伸びなかった子は、注目を集めるために肌の露出を増やしたり、過激な行動でほかのユーザーとの差異化を図り始めることも少なくない。それが、エクストリームセルフィーの拡大につながっているのではないだろうか。一度過激な投稿で注目を集めると、フォロワーからさらに過激さを求められるため、行動に歯止めが効かなくなるのだ。

世界中で制限されるセルフィー

危険な自撮りは世界各国で問題視されており、特に事故が多いインドやロシアでは国が対策を始めている。インドでは交通量が多い海岸沿いでさくがないなどの危険な場所を中心に「セルフィー禁止地区」を指定、警告の看板を設置している。ロシア内務省も、2015年に、危険な自撮り撮影による死傷者数を減らすためのキャンペーンを行っている。


ロシア内務省によるキャンペーン(画像:ロシア内務省)

セルフィーが禁止される例も増えている。今年、カンヌ国際映画祭では、レッドカーペットでのセルフィーが禁止された。セルフィーのために足を止めることでレッドカーペットでの進行が遅れ、映画祭の威厳を失わせるためだという。

また、年に1回イスラム暦の最後の月に行われるムスリムの聖地巡礼「ハッジ」でも、セルフィーが禁止されている。巡礼者を霊的な旅路に集中させるためだという。どちらもセルフィーが流行しすぎたための措置と言えるだろう。

問題視されることが多いセルフィーだが、当然、セルフィー自体が悪いというわけではない。海外の「Psychology of Well-Being」の記事「Promoting Positive Affect through Smartphone Photography」によると、笑顔のセルフィーを毎日撮ったグループは自信が高まったり、心が落ち着くなど、心理的にポジティブな変化があったという。セルフィーには自尊心を高めるなどのプラスの効果が期待できそうだ。危険な自撮りには手を出さず、安全にセルフィーを楽しんでいただければ幸いだ。