メニコンは「プレミオ」ブランドなどで、使い捨てコンタクトレンズを展開している(左写真:記者撮影、右写真:メニコン

コンタクトレンズのチラシをお配りしています」――。

街頭では様々なチラシが飛び交うが、最も多いものの1つが、コンタクトレンズの販売店だ。駅前や商業施設ではあちらこちらで販売店を目にする。それだけ競争は激しい。だが実は、日本のコンタクトレンズメーカーが冬の時代から脱し、快進撃を続けている。

業界首位の米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に続き、日系最大手のメニコンは2013年度から連続増収増益を続け、2017年度には売上高766億円(前期比6.4%増)、営業利益44億円(同12.4%増)と過去最高の業績をたたき出した。同じく日系のシードも、2017年度は売上高278億円(前期比13.8%増)、営業利益は21億円(同38.7%増)で着地し、こちらも過去最高益だった。

「使い捨て」めぐる戦略で明暗

今でこそ“わが世の春”を謳歌する両社だが、20年前は苦境にあえいでいた。2000年前後、メニコンやシードといった国産メーカーは外資系の攻勢に押されていた。それまでは長期間使うハードタイプが主流だったが、「アキュビュー」ブランドで知られるJ&Jが、1991年にソフトタイプの使い捨てコンタクトレンズを発売。手入れの必要ない手軽さが消費者に受けた。

一方、当時のメニコンは使い捨てというスタイルが日本になじまないと判断。「良いものを長く使う」という方針で商品開発を行ったが、客離れを招いた。ピーク時の1997年度に約330億円あった売上高は、2002年度には約260億円まで急落(いずれも単体の数値)する事態となった。

方針転換を余儀なくされたメニコンは、他社から製品供給を受ける形で、2005年に使い捨てコンタクトレンズを発売。その後2011年に初の自社製使い捨て製品「マジック」の投入にこぎ着けた。「使い捨てが増えたことで、コンタクトレンズはより身近な生活消費財になった」(日本コンタクトレンズ協会の松見明事務局長)。

外資系の攻勢に押されるメニコンに追い打ちをかけたのが、安売り競争の激化だ。当時の販売店はレンズそのものは安売りしながら、併設している眼科に処方を受けに来る客を取り込むことで利益を確保していた。だが2006年の診療報酬改定で保険点数が下がり、従来の販売方法では処方とコンタクトレンズの販売のどちらからも利益を得られなくなった。メーカーであるメニコンも、そのあおりを受けた。

そんなメニコンを救ったのが、2001年に始めた定額会員プログラムの「メルスプラン」だ。たとえば2週間使い捨てタイプであれば、両目レンズと洗浄用品で月額2600円。3カ月ごとに受け取る仕組みだ。お金を気にするあまり3週間、4週間と無理に使い続けることも起こりにくいため、“コンタクトデビュー”する子どもを心配する親の需要にはまった。

しかも料金は一律のため、販売店同士の熾烈な価格競争を和らげる一助にもなった。メルスプランでは、顧客はメニコンに月額料金を直接支払うが、コンタクトレンズの受け取り店に指定した販売店にはメニコンからの販売手数料が入る。メニコンも、競争で疲弊していた販売店も、安定的な収入を得られるシステムとなった。

買収攻勢で定額プラン強化

メルスプラン強化のため、メニコンは加盟店の拡大を進めている。初めてコンタクトレンズを買う消費者は、販売店が勧めるメーカーの製品を買う傾向が強い。販売店は特定のメーカーと提携関係を結ぶことが多く、メニコンもメルスプランを提供する店舗を増やす必要がある。

さらに近年は販売店自体の買収にも乗り出した。名古屋地盤のメニコンだが、関東や九州を地盤とする販売店を取得。会員数は2013年度〜2018年度(計画値)で年平均4.5%の成長率となり、2017年度末には累積会員数が127万人まで拡大、売上高も急成長を見せた。


2017年のコンタクトレンズ国内出荷額は2237億円(日本コンタクトレンズ協会調べ)。シードの決算資料によれば、メーカー別シェア(2016年時点)ではJ&Jが35%でトップ、次いでメニコンが19%で2位につけている。追われるJ&Jは、「詳細はまだ公表できないが、従来の視力矯正にとどまらないコンタクトレンズ製品の開発を進めている」(会社側)とする。

若年層の視力の低下などもあり、コンタクトレンズの使用者数はここ20年で倍増。日本市場は米国に続き世界2位の規模だ。とはいえ、これまでと同様の成長には限界もある。今各社が取り組むのが、2週間など長い使用期間があるレンズから1日使い捨てタイプへの移行促進と、製品群の充実である。


メニコン東京本社に併設する同社の直営店。店舗では1日使い捨てのコンタクトレンズを積極的に売り込んでいる(記者撮影)

一般的に、1日使い捨てレンズを使う場合に毎月かかる金額は、2週間使い捨てレンズに洗浄用品を加えた価格の2倍以上。しかしコスト以上に手入れ不要という利便性は大きく、メニコン国内営業統括本部・ブランド戦略&市場調査部の吉村良祐部長は、「1日使い捨てコンタクトの市場が急激に伸びている」と話す。

新素材レンズや老眼対応に商機

また、レンズのラインナップを拡充する余地も大きい。より多くの酸素を通すため目に優しい「シリコーンハイドロゲル」という素材のレンズは、市場全体では2週間使い捨てレンズのうち8割で使われている。だが、1日使い捨てレンズで2割にとどまる。メニコンではシリコーンハイドロゲルを使用した1日使い捨てレンズを2016年12月に発売し、今年9月には乱視用も発売するなどの充実を図っている。

年齢が50代に入ると、コンタクトレンズをやめて眼鏡で生活する人が増えてくる。昨今はコンタクトレンズに慣れた団塊ジュニアの世代が、老眼の進む年齢になってきた。各社が需要拡大を期待するのが、「遠近両用レンズ」などの年齢に合わせた製品だ。狙うのは、コンタクトレンズからの“卒業阻止”。遠近両用や乱視用といった特殊レンズは、まだ市場の2割にも届かない規模だが、「今後、1人あたりのコンタクトレンズ装用年数は延びていく」と前出の吉村氏は自信を見せる。

今後は単価や使用年数を伸ばし、人口減少をカバーできるか。競争も一層激しくなりそうだ。