GAFAの経営戦略、実は「古くさい」ものばかり
GAFAの一角、フェイスブックの本社敷地内にある看板(撮影:二階堂遼馬)
Google、Apple、Facebook、Amazon――GAFA。現在の世界で最も影響力があるこれら4社の強さの秘密を明らかにし、その影響力に警鐘を鳴らす書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』がいま、世界22カ国で続々と刊行され、話題を集めている。
本書をいち早く読んだのが、コンサルタントを経て経営学の研究家となり、近著『経営戦略原論』のなかで「経営の『実学』と『理論』の統合」を試みた琴坂将広氏だ。「経営戦略」の視点から、GAFAはどう読み解けるのか。
「GAFAは、スタンダードな打ち手をこれ以上なく洗練された方法で愚直に実践しています」と語る琴坂氏に解説してもらった。
(聞き手:東洋経済新報社 出版局)
経営戦略の視点から読み解くGAFA
――琴坂先生が最近上梓された『経営戦略原論』は、経営の実学と理論、すなわち「最適な処方箋」と「普遍的な法則性」の二兎を追う試みで、多くの経営者から注目を浴びています。「経営の実学・理論」の両面から、GAFAをどう見ていますか。
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、発売1週間で10万部のベストセラーとなっている(画像をクリックすると特設サイトにジャンプします)
拙著『経営戦略原論』で語っている要素がすべて発見できるのが、GAFAだと思っています。たとえば私は、組織永続のためのさまざまな取り組みを「全社戦略」と呼んでいますが、その骨格となるのは「組織ドメインの定義・周知・更新」です。組織ドメインというのは、その組織の生存目的、あるいはビジョン、ミッションとも呼ばれますが、その事例としてアマゾンを紹介しています。
アマゾンは、上場時は自社を「オンライン書店」と定義していましたが、その後は音楽やビデオの販売、さらに小売業全般へと事業を拡大していきました。2002年には「地球で最も顧客中心な会社をめざす」というミッションを掲げ、その後、顧客とは消費者のみならず、販売業者や開発者、またコンテンツ生産者も含まれると定義しています。アマゾンは適切に自社の競争優位を理解しつつ、全体の事業のポートフォリオを着実に広げていると感じます。
GAFAは事業投資における評価の仕方や、従業員やチームの管理や評価の仕方も優れていると感じています。
詳しくは拙著に譲りますが、たとえばスタートアップは「重要業績指標管理(KPI)」を中心に事業運営の重要な点に視点を絞って経営を行う利点が大きいと思われます。自社の事業の仕組みを丹念に理解し、それに基づいて各人の自由度を残しつつも、構造的かつ網羅的に、数値ベースでの明確なマネジメントが導入されています。もちろん、完璧ではありませんが、学ぶべき点は多いはずです。
琴坂 将広(ことさか まさひろ)/慶應義塾大学環境情報学部卒業。博士(経営学・オックスフォード大学)。小売り・ITの領域における3社の起業を経験後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務。同社退職後、オックスフォード大学サイードビジネススクール、立命館大学経営学部を経て、2016年より現職。上場企業を含む数社の社外役員および顧問、仏EHESSのアソシエイト・フェローを兼務。専門は国際経営と経営戦略(写真:琴坂氏提供)
また、事業投資でいえば、フェイスブックがインスタグラムを約10億ドルで買収したり、スマートフォン向けのメッセージ・サービスであるワッツアップを190億ドルで買収したりしましたが、こうした意思決定は、将来の事業評価を割引キャッシュフローで評価する考え方では難しい意思決定です。リアルオプションの考え方や、ゲーム理論の考え方など、論理的でありながら、少し進んだ考え方で議論を重ねなければ、なかなかできない意思決定です。
事業戦略のレベルにおいても、彼らは単純にそれぞれの自社のサービスで自分の目の前にいる競合他社だけを見ているのではなく、自社にとって有利なゲームのフィールドとなるよう、政府との交渉やロビイングなどを駆使した「制度戦略」で、できる限り自社にとって有利な競争環境を作り上げよう、それを保とうとしているように思えます。
組織内部のカルチャーについても同様です。グーグルで働く人が「グーグラー」と呼ばれているように、独特の行動指針やカルチャーが浸透しており、それが単なる金銭的報酬を超えた働くモチベーションにもつながり、そして組織内部での円滑な協業を可能にしています。
結果論ですが、GAFAは現代の競争環境において大きく成功している顕著な事例です。後付け解釈にはなってしまいますが、GAFAはまさに私が議論している経営戦略が体現されている事例として解説することももちろんできるでしょう。
GAFAの強さは人材にあり
――GAFAの強みの源泉は「人材」だとお考えですか。
もちろん、ほかにもさまざまなファクターがありますが、やはりいちばん大きいのは人材です。GAFAには、今より少し前の世代で成果をあげた人々が結集しています。ITで成功してストックオプションを手に入れた元マイクロソフト社員だとか、Skypeを成功に導いた人だとか、要するに新しいビジネスをわかっているGAFA以前の人たちが、GAFAに入っていくことによって、前世代で蓄積されたノウハウや知見が現代に向けて再編成されているといったイメージでしょうか。
GAFAは何もないところから新しいものを生み出したのではなく、すでに確立されている知見を発揮できる多種多様な人材が活躍するフィールドとして、たくさんの新しい発想を世の中に問いかけてきました。最先端の人材を貪欲に取り入れ、その人材が活躍できる舞台を提供し、それにより成長してきたのです。
またGAFAすべてに共通しているのは、わかりやすいプロフェッショナル、投資銀行やコンサルティング会社出身の人材だけでなく、社会科学の専門家、たとえば行動経済学やゲーム理論、マーケットデザインといった経済学などの博士課程出身者や、工学系でも一流の研究者としても活躍できる高度なノウハウを持っている人材を積極的に好待遇で採用しています。
彼らは超一線級の研究者であり、圧倒的な量のデータを活用できる魅力や、世界最高水準の知性に囲まれて戦うことに魅力を感じてアカデミアを去ったプロフェッショナルたちです。こうした方々が、最先端の研究を経営の現場に応用し、GAFAの成長を加速させています。
このように、人材に日本企業にはなかなか見受けられない多面的な多様性があり、そのように多様な人々が同じ文化の中で新しいものを作ろうという空気ができている。これは非常に大きいのではないかと思います。
人材はケイパビリティのビークル(容れ物)です。多種多様な経験や知見を自社に取り込むことは、マネジメントの困難につながります。もちろん、大卒の新人を一括採用して、画一的なトレーニングを一方向から教育するほうが簡単でしょう。
しかし、相容れない価値観の並存を許容するステークホルダーマネジメント、タレントマネジメント、組織管理、カルチャーづくり、ブランドづくり、プロダクトの多様化、さらに新しいチャレンジのための仕組みづくりなどの多々の取り組みの成果として、GAFAのように世界で成長する企業は、成果を残してきました。
こうした経営の重要性は、じつはずっと昔から指摘されてきました。歴史をひもとけば、壁画の時代からリーダーシップは存在していたし、組織のカルチャーもあったわけです。決して目新しいものではありません。ただ、世界が1つの世界的価値連鎖で接続される時代は、変化が大きく、絶えず新しい発想を活かしていかなければならなくなった。その結果、こうした組織のあり方の魅力が一段と高まっていると感じています。
いわば、彼らは、多種多様な人材の活躍のフィールドとして存在しており、そこにジョインしたさまざまな人材が世界各地分野別の組織で培ってきたスタンダードな打ち手を、これ以上なく洗練された方法で愚直に実践しているともいえるかもしれません。
GAFAが起こすかもしれない、合成の誤謬
――GAFAに対する利便性への期待と、人間の本能に忍び寄る不安が、今の時代は交錯しているように感じます。その点はどう感じますか。
じつは最近、私もさすがにグーグルが怖くなってきました(笑)。仕事で海外に行ったら、到着した途端にマップには今日の夜に宿泊するホテルが表示され、ウーバーで車を手配しますかと聞いてくるのです。Gメールや予定表からの情報が統合されて、パーソナルアシスタントのように私のアンドロイドが機能し始めています。
携帯電話の位置情報の共有をオンにしておくと、毎日自分がどこに行き、そこにどのくらい滞在したかの情報は筒抜けになります。それにメールや予定表を組み合わせると、私の日々の行動や交友関係は完全に把握できることになります。あるオフィスに3時間ほど滞在して、その後タクシーに乗ったけれど渋滞に巻き込まれた、とか、とても具体的な行動履歴を知らず知らずの間に共有しているのです。とりあえずいったんは機能はオフにしましたが、本当に消されているかどうかはわかりません。
フェイスブックも、私の行動履歴をトラッキングしていますので、私の興味関心のキーワードのデータベースをいつの間にか構成しています。これがすべてではないような気もしますが、実際に、自分を彩る広告向けのキーワードは自分のページから確認することができます(編集部注:「設定→あなたのFacebookデータ→個人データ管理ツール→広告→広告設定→趣味・関心」にて確認ができる)。私の場合は車の話が非常に多い。これも一度消したのですが、1カ月後に見たらまた増えていました。
経済・社会のパワーバランスを変える可能性
こうしたことは、99%の人は意識しないまま、ただ便益を享受しています。私たちが「楽しいな」「便利だな」と思って、だんだんとGAFAに情報や権利を与えています。これは独裁者が社会において権限を獲得していくプロセスにも似ています。誰しも最初から独裁者に独裁の権限を与えるのではないのです。多くの場合、こうした社会を破壊する個人や組織は、既存の社会や人々の合意のうえで次第に権力を掌握していきます。多少強引であることはあっても。もちろん、GAFAは極めて慎重に物事を進めています。幾多の失敗もありましたが、謙虚な姿勢は崩していません。しかし、彼らが暴走したときにどうなるのか。わからないからこそ不安を抱くわけです。
また、シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉があります。今は技術的なブレイクスルーのタイミングに差し掛かっていると多くの人が指摘しています。おそらく、そうした技術的なブレイクスルーの転換点では、経済や社会のパワーバランスも大きく変わります。
わかりやすい例で言えば、核技術は間違いなく戦後世界経済と社会のあり方に大きな影響力を与えました。大国同士が戦争をすること、というのが人類が一瞬で消滅する危険性と同義となったのは、その後の世界の枠組み形成に大きな影響を与えています。
GAFAは、次の時代に1つのカギとなるオンライン空間上の支配権を握る可能性があり、データの所有権を持とうとしている強力なプレイヤーです。彼らがどう動くかによって、特異的に変化するであろう未来、その構造が大きく変わっていきます。そこに対する期待と不安も、一方ではあるのではないかと思います。
どうなるかというのは、誰にもわかりません。もしかしたら、パワーを持っているGAFA自身もわかっていないかもしれない。もちろん、栄枯盛衰が繰り返され、GAFAも力を失う事態が一瞬で到来するかもしれない。
私にもGAFAに勤める友人が何人もいます。皆、とても優秀です。パッションを持っていて、社会を良くしようと信じており、使命感を持って日々の仕事に取り組んでいます。しかし合成の誤謬が起きる可能性も捨てきれません。世界最高水準のタレントたちの意思決定が合成される結果として、世界が誤った方向に行く、ということはありえます。数千年の歴史を振り返れば、良心の集合体としての組織であっても、いつの間にかその方向性がゆがみ、振り返れば凄惨な悲劇を主導することとなった悲劇が多数発生してきました。
これは何もGAFAがそうなると言っているわけではありません。ダイナマイトの開発も、核兵器の開発も、人類は悲劇を生み出そうとして作り上げたわけではないのです。少なくとも私はそう信じています。直接かかわった研究者がやっていたことは人間社会に大きな可能性を与えましたし、彼らは人類のために開発に取り組んでいたはずです。しかし、それがもたらしたものは、いずれも大きな表裏一体の功罪がありました。
GAFAの経営者たちが世界の方向性を決めている!?
――GAFAの存在は、いわば国家やその国の行政を代替しえるほどの力を持っていると?
そうかもしれません。GAFAという存在は、私たちが気づかない間にある意味では国家を超えてしまった側面もあるでしょう。全世界的な市場をコントロールしつつあるのはアマゾン、私たちの考え方をコントロールしようとしているのはグーグル、そして人々のつながりをコントロールしようとしているのがフェイスブックです。アップルはほかの3社に比較すると限られた影響力のようにも思えますが、圧倒的な力を保持している企業であることは間違いありません。
スコット・ギャロウェイ氏も『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』で触れていますが、GAFAの成功の要因の1つは、最初の時点で国際化を果たしたことがかなり大きいと思います。アメリカのドメスティックなサービスで留まろうとしなかった。短期的な利益を多少犠牲にしてでも、新しく、需要のあるはずのところに投資をし続けたことが4社には共通しています。グーグルは全世界の主要なマーケットに支社を置いて営業して、データを収集し、あるべき方向へと最適化していきました。フェイスブックも、だんだん日本人にとって使いやすいように変わってきています。こうした取り組みの結果、この4社は世界各地の多くの市場で一定のプレゼンスを発揮しており、単一の国家の枠組みに支配されえない可能性のある経済圏の構築に成功しています。
これはGAFAに限った話ではないのですが、グローバルに展開したことで自社に有利な事業環境を創出できているのも注目すべき点です。たとえばGAFAにとって個人情報の取り締まりが問題になるなら、別の国に行くという選択肢がある。税金もしかりです。単一国家の枠組みに支配されないほどの世界的なプレゼンスを持ちながら、そのプレゼンスを背景として生み出されるキャッシュを有効に活用し、世界各地の利害関係者との間に有利な関係性を構築しようとしています。
かつて、アマゾンが適切な金額の法人税を払っていないのではないかとして、日本の国税庁が追徴課税を請求しようとしたことがありました。しかしアマゾンは納税はアメリカで行っていると回答し、アメリカと日本の2カ国協議の結果、追徴課税の議論は立ち消えになりました。同じようなことが、アイルランドやスイスなど、世界中で起きています。国家間のパワーバランスも彼らは利用することができているともいえるかもしれません。これも世界最高峰の超一流のアドバイザーがついているからできることなのでしょう。
彼らはグローバルに席巻する勢いがあります。とはいえ、私たちは過去ずっとそうした恐れを抱き続けてきました。しかし、多くの企業は一定の期間の後に、その力を失っています。IBMも、マイクロソフトも、ヤフーのときも同じことを言っていたわけです。一定の期間が経つと、これまでとまた違ったプレイヤーが成長し、そしてまた、われわれはその新しいプレイヤーに恐れを抱いてきました。かつての日本もそうでした。欧米各国は日本の急成長と市場支配力に恐れを抱いていたのです。今では信じられないですが。
したがって、GAFAの影響力の可能性も、多少は割り引いて考えたほうがいいように思います。今後、これが繰り返されるかもしれないし、そうではないかもしれません。残念ながら、それがどうなるかは私にはわかりません。
「経営という行為」が世界の方向性を決める
いずれにせよ、経営という行為、つまり経営を行う組織と個人を理解することの重要性が、かつてないほど高まっています。経営が社会を変えつつあるのです。また、その経営を支配する特定の利権が社会と経済に対して強烈な力を握っています。
アマゾンの方向性はジェフ・ベゾス氏が決めます。フェイスブックはマーク・ザッカーバーグ氏です。あらゆる産業領域で特定の企業がわれわれの世界の方向性に強い影響力をもたらす時代になりました。多くても数百人、恐らく数十人の個人が、世界全体の方向性に極めて大きな影響力をもたらす時代が訪れています。私たちは長い歴史を経て民主主義に行き着いたわけですが、その統治機構とはまったく違うところで、階層的な社会構造が、じつは人間の社会を方向付けていると言えるのかもしれません。この傾向は、強まるばかりです。
拙著『経営戦略原論』では、体系だった知識が得られると自負していますが、一方で事例をあまり入れていません。人類の共有知識、すなわち、これまで脈々と培われてきた知見や、先人たちの叡智をまとめています。『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、著者自身の知見であり、それに基づいて書かれている「ケーススタディ」と言えるでしょう。
『経営戦略原論』で、目先の事例や事象にとらわれない根源的な知識を得ながら、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』で時代を変えつつある最先端の事例をキャッチアップする。そんな具合に読んでいただけたら嬉しいですね。