庶民的な笑いの下ネタもアリ!?平安時代の物語はロマンチックな恋模様だけじゃない

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ロマンチックな恋模様だけじゃない

平安時代の物語といえば、「源氏物語」に代表されるようなロマンチックな恋愛ですよね。歌を交わし、まだ顔も見ぬ相手に想いを馳せる……などなど。

たしかに平安時代の物語のテーマは恋愛がほとんど。しかし、その物語の中には意外と笑えるネタもちらほらと。では紹介していきましょう。

「落窪物語」に描かれる老いぼれの求婚シーン

七十一番職人歌合34番「医師」より

平安中期に成立したとされる「落窪物語」から紹介しましょう。「落窪物語」は、宮家出身の母を亡くした美しい姫が継母に「落窪の君(落ち窪んだぼろい部屋に住まわされているのでこう呼ぶ)」といじめられるという、まさに平安朝のシンデレラストーリー。いじめられる姫は貴公子に見初められて幸せになるのですが、今回紹介するのは継母の策略のひとつ。

落窪の君のもとに誰か男君が通ってきていることを知った継母は、落窪の君が結婚して幸せになることが許せません。そこで考えたのが、自身の伯父・典薬助を落窪の君と結婚させようというもの。典薬助は老いぼれでありながら好色で、若い女好き。この話を持ち掛けられた典薬助は大喜びで受けます。

継母はあらかじめ落窪の君を物置に閉じ込め、そこに典薬助を向かわせました。今まで継母のいじめに黙って耐えてきた姫ですが、しかしこんな老いぼれとの結婚なんてもってのほか。典薬助とは、薬を扱う部署の者です。典薬助は「診察だから」とかこつけ、姫の体をさわります。しかし姫は出来得る限りの手段で抵抗し姫は一晩何とかやり過ごします。

姫の抵抗にあい、寒空の下で……

平安時代の結婚の形式は、三日女性のもとに通うというもの。三日連続で通い、三日目に「三日夜の餅」を食べ、翌日露顕(ところあらわし)をしてめでたく周囲にも結婚をお披露目、という形が正式なしきたりです。そのため、すけべ爺の典薬助も一応結婚の形式に則って行動し、一日目は何もなかったものの、後朝の文(女性のもとで一夜を過ごした翌朝贈る文)を贈っています。

もちろん二日目は「今度こそ姫をものに」という気持ちがあるので、典薬助も気合十分。しかし、落窪の君は女房のあこぎと力を合わせ、典薬助を物置に入れない方法を考えていました。戸の前に物を置き、開かないようにしたのです。

夜中、人々が寝静まったころにやってきた典薬助。いそいそと戸を開けようとしますがびくともしません。「おかしい」とあれこれやってみるものの戸は開かず、中の姫に向かって開けるよう頼んでも返事はありません。

夜は冷えます。吹きさらしの場所で戸が開くのを一晩中待っていた典薬助は体が冷え、とうとう腹をこわしてしまいました。気付いたときにはビチャビチャと音がし、下着どころか袴までも糞で汚してしまったのです。

その様子をかたわらで見ていたあこぎは笑いをこらえつつ、典薬助が去って姫を守ることができたことに安堵するのでした。

「落窪物語」は女房のための物語?

このように、ちょっとロマンティックとはかけ離れたクスッと笑えるエピソードもある「落窪物語」。こういう描写があるから、というわけではありませんが、この物語は上流階級のいわゆる深層の姫君よりも、中下級の女房のために作られた物語、という説もあります。主人公とされる「落窪の君」に加え、その女房である「あこぎ」の活躍も目立つ物語です。女房の視点から描かれている、とも言われています。

こういうちょっと庶民的なエピソードが組み込まれているのも、そういった側面を意識してのことかもしれませんね。