今年秋に日本で発売を予定しているレクサス「ES」(写真:筆者撮影)

レクサス「ES」を試乗

トヨタ自動車が今年秋に日本で発売を予定しているレクサス「ES」。これまで北米や中国市場がメインだった上級セダンだ。7代目に切り替わる新型ESを米国テネシー州ナッシュビルでいち早く試乗したので、そのリポートをお届けしたい。


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1980年代、トヨタは北米の高級車市場で戦うには、ブランドを含めて新規開発を行う必要があると考えた。そこで誕生したのが高級車ブランド「レクサス」であった。1989年ブランド立ち上げに合わせて2台のモデルが世界初公開された。それが「LS」と「ES」である。

日本で「セルシオ」の名前で売られた初代LSは、すべてが新規設計で開発されたのに対し、ESは「新ブランドがLSのみでは厳しい」という営業サイドのリクエストから生まれた。2代目「カムリ」の上級モデル「カムリ・プロミネント」をベースに内外装をレクサス車と呼べるレベルに仕立て直したクルマだった。そのため、初代ESは販売的に大成功を収めた初代LSに対して苦戦を強いられた。


中国でのESの販売台数はレクサス全体の45%を占めている(筆者撮影)

しかし、2代目以降のESは基本コンポーネントを北米カムリ(日本名:セプター)と共通にしながらも、独自のスタイリッシュな内外装、専用のサスペンション設定、LS譲りの静粛性/快適性など独自性を高めたことで人気は急上昇、レクサスブランドの販売台数をけん引するエースへと生まれ変わった。

2/3/4代目のESは日本でもトヨタ「ウインダム」として販売された。TV-CMでは「レクサスES300、日本名ウインダム」と間接的にレクサスをアピールすることで、当時の“ヤングエグゼクティブ”と呼ばれる層を中心に人気を博した。

その後、日本のセダン需要がシュリンクしたことから5代目ESは日本には導入されず海外専用モデルとなった。メインマーケットの北米だけでなく韓国などアジア圏にも進出。6代目ESは基本コンポーネントをカムリから一クラス上の「アバロン」に変更。北米ではセダン→SUVシフトにより販売台数は伸び悩む一方で、新たに展開をスタートさせた中国で高い人気となり、今や中国でのESの販売台数はレクサス全体の45%を占めるそうだ。

そんなESが7代目にフルモデルチェンジされた。最大のポイントはメインマーケットこそ北米/中国と変わらないが、日本/欧州への展開も行う世界戦略モデルに生まれ変わったことだろう。ウインダムとして考えれば日本へは12年ぶりの復活となるが、「ES」というブランドを冠するモデルとしては初導入となる。

日本導入の経緯

日本導入の経緯は、自動車メディアを中心に「GSは次期モデルが存在せず、その穴埋めを行うため」という噂話も聞くが、チーフエンジニアの榊原康裕氏は「実は開発当初は日本導入予定がなかったのですが、いいクルマに仕上がったので『日本で勝負したい!!』という想いから導入を決断しました。つまり、レクサスのチャレンジでもあります」と語る。

歴代モデルのESを振り返ると、エクステリアはどこか「高級なカムリ」という印象が拭えなかったのだが、7代目の新型ESはカムリの面影がないだけでなく、FF(前輪駆動)横置きレイアウトながらも「小さなLS」を思わせる、低重心かつワイド&ローで、刺激的だけどエレガントさが備わるスタイリッシュなプロポーションである。

ボディサイズは全長4975×全幅1865×全高1445mm、ホイールベース2870mmと先代LS(標準ボディ)に迫る。


レクサス「ES」メーター周り(筆者撮影)

インテリアはGS以降のレクサスを特徴づける水平基調のインパネを採用。運転席周辺のコンパクトなメーター周りやメーターフード左右のダイヤルなどは、「LS」や最高級クーペの「LC」と共通イメージでタイトなスポーティな印象に対し、助手席はES独自のインパネセンターのデザインを含めて視覚的な開放感を演出した空間に仕上げられている。

FFレイアウトのメリットを生かし、エクステリアデザインから想像できない広々とした室内空間も特徴で、特にリアシートはLSよりも上下方向に余裕があるため開放感も非常に高い。そういう意味ではLSよりもフォーマルセダンとしての素性は高いかもしれない。

パワートレーンは北米向けにはマルチシリンダー需要からV6-3.5Lガソリンエンジン、中国向けは税制の問題から直4-2.0Lガソリンエンジンを設定するが、メインは直4-2.5Lガソリンエンジンにモーターを組み合わせるハイブリッド。日本向けはハイブリッドのみの設定となる。

その印象は先行して搭載されているカムリと大きく変わらないが、力強いモーターと低中速トルク&レスポンスがアップしたエンジンとの相性もよく、エンジン回転だけが高まって加速感がついてこないラバー・バンド・フィールもかなり抑えられているので、日常走行の多くの領域でハイブリッドを意識することはほとんどない。燃費を意識することなく走らせても省燃費なのは嬉しいポイントだろう。

ただ、標準車との組み合わせはまったく問題ないが、スポーティグレードである「Fスポーツ」との組み合わせだと官能的に訴えるモノが足りない。たとえば、LS/LCのようなトランスミッションのステップ制御やエンジンサウンドなどが付加できると印象は変わると思う。今後の課題だろう。

プラットフォームは

プラットフォームはカムリから採用がスタートしたTNGA「GA-K」を採用するが、ホイールベースはカムリ+45mm、専用のボディ構造やレーザースクリューウェルディング、構造用接着剤、軽量化素材の積極的な採用などES専用設計だ。


新型ESの素性の良さは誰でも乗った瞬間にわかるくらいのレベルだ(筆者撮影)

サスペンションはES初となるリア・ダブルウィッシュボーンサスの採用やジオメトリーの最適化、新開発のスイングバルブショックアブソーバー、ラック平行式電動パワーステアリングなどが奢られる。そういう意味では、“飛び道具”に頼ることなく基本に忠実かつ本質を重要視した設計だ。

標準車に対してFスポーツはパフォーマンスダンパーやリニアソレノイド式AVS+19インチタイヤ&ホイールを用いた専用セットのサスペンションがプラスされている。

先代の6代目ESは快適性こそよかったが、肝心な走りは良くも悪くも大味だった。対して、7代目に切り替わった新型ESの素性の良さは誰でも乗った瞬間にわかるくらいのレベルである。

心地よいダルさを持ちながらも正確性の高いステアリング、操作に対して忠実な応答性、直進性の高さと安心感ある素直なハンドリングのバランス、LS/LCのように運動性能の良さを声高らかにアピールをしていない。そう、あくまでも「内に秘めた」という乗り味なのだ。レクサス共通の走りの考え方「すっきりと奥深く」を最も実現できているモデルだと感じた。

快適性は足の動きのスムーズさや段差を乗り越える際の衝撃吸収のいなし方、そしてストローク感を生かした乗り味は、語弊を恐れずに言えばLSよりも優れていると感じる部分もあるが、荒れた路面でのザラザラと感じる振動はちょっと気になった。コンベンショナルなダンパーとしてはかなりのレベルにきていると思うが、より高みを目指すのであればAVSだろう。


ステアリング(筆者撮影)

Fスポーツは標準車よりもステアリングはダイレクト感が引き上げられ、サスペンションはストロークを抑え引き締められたセットアップとなり、走りの良さを明確にアピールした乗り味だ。GS/ISのFスポーツがダルく感じてしまうくらい精緻なハンドリングと硬めだがカドがないすっきりした乗り心地のバランスだ。ただ、スポーティと言っても突出した物ではなく標準車の45度線上にシッカリと位置しており、ESの世界観から外れてはいないのはマルだ。

ちなみにドライブモードでエンジン制御やEPS制御、サスペンションの味付けなどが変化するが、これはレクサス全般に言えることだが、モードが多すぎなのとモード毎の変化が少ないのが残念な部分だ。

歴代ESのDNAの一つである静粛性は風洞実験による車体形状の検証や吸音材、遮音材の最適配置はもちろん、ノイズリダクションホイール(標準車)や遮音性の高いアコースティックガラスの採用など、LS開発で培った技術をフィードバックするなど、今まで以上に徹底してこだわっているが、その効果は会話明瞭度を含めて非常に高いレベルだ。シンプルなシステムながらもLS並みの音場を実現する「マークレビンソン・ピュアプレイ」も心地よい音を聞かせてくれた。

しかし、その一方でアクセルペダルの戻し音やバッテリー冷却ファンの音など、今まで気にならなかった音が気になってしまった。また、逆にドアの開閉音のように音が発生する部分はもっと音質にもこだわってほしい。確かに機能的には問題ないかもしれないが、そんな細かい部分まで注力するとクルマの印象はもっとよくなる。これらは年次改良でもいいので何とか改善を期待したいところである。

乗れば乗るほど良さがにじみ出てくる1台

今回、新型ESに乗って思ったのは、“インパクト”という意味ではLS/LCにはかなわないが、LS/LCにはない“やさしさ”が備わっているのと、乗れば乗るほどにジワっと良さがにじみ出てくる1台であることだ。ただ、全体的にちょっといい人過ぎるかな……と思う部分もある。

プレミアムブランドはクルマの良し悪しに加えて個性やメッセージ性も重要だ。これは筆者のアイデアにすぎないが、たとえばファーストエディションとして「Fスポーツ+V6-3.5L」の仕様を限定で出すなど、「新型ESは高級カムリではない」ということを、日本のユーザーにアピールするようなプラスαも必要だと思う。