コンビニ業界の知られざる裏側を、内情に詳しいライターの日比谷新太さんがレポートする当シリーズ。前回の「コンビニ業界の売上不振」に続いて、今回取り上げるのは「ローソンの新型コーヒー抽出マシン」について。抽出時間の大幅な短縮に成功したという今回の新型マシンですが、このことが各チェーン間で展開されているシェア争いにどう影響してくるのかを、日比谷さんが詳しく解説しています。

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「抽出時間約20秒」への違和感

直近の年間出杯数は21億杯と5年間で10倍に伸びるなど、今やコンビニを代表するサービスの一つとなったカウンターコーヒー。価格やコーヒー自体の美味しさはもちろんのこと、提供できる商品のバリエーションの豊富さなどでもしのぎを削る各社ですが、なかでも「より早く提供できるか」という争いにおいて大いに注目を集めているのが、現在ローソンが展開している「マチカフェ」が順次導入しているという新型抽出マシンです。

今年2月20日にローソンが発表したリリースによると、

新型マシン「メリタ カフィーナXT6」は現在のマシンと同様のエスプレッソ方式で、現在約40秒で抽出しているホットコーヒー(S)を約25秒で抽出し、約15秒短縮することが可能です。また、現在約29秒で抽出しているカフェラテ(M)を約20秒で抽出し、約9秒短縮します。これにより、お客様に商品を手渡しする時間を大幅に短縮することが可能になります。

と、提供時間の大幅短縮に成功したことが書かれています。

ただ、このリリースを読んだ際に、あるひとつの違和感を感じました。それは以前の当連載でも話題に挙げたことがある「コーヒー・カフェ業界に根強く伝わっている“45秒の壁”がついに崩壊したのか?」ということです。

一般論として、コーヒーは豆の蒸らし時間を短縮すると味が悪くなると言われています。ただコンビニのお客さんは、急いで必要な商品を購入したい欲求が総じて強く、抽出にじっくりと時間を掛けるわけにはいきません。そこで「美味しさ」と「提供時間のスピード」とが両立すべく生まれたのが“45秒の壁”と呼ばれるものなのです。

今回発表されたローソンの新型マシンは、ホットコーヒーを約25秒で抽出するとありますから、今までの常識で考えれば相当味が薄っぺらくなると懸念されます。そこで最初に疑ったのは、「容量を減らして時間を短縮したのでは?」ということでした。

しかし、各チェーンの容量を調べてみたところ、セブンイレブン(Rサイズ)の150ml、ファミリーマート(Sサイズ)の155mlに対し、ローソンのマチカフェ(Sサイズ)は160mlと、むしろ最も容量が多いのです。そうなると、ローソンの新型マシンはエスプレッソ方式ということで、豆への圧力のかけ方や豆の容量を調整することで、短時間での抽出が実現したと考えられます。マシン自体の性能もかなり向上しているのでしょう。

巻き返しを狙う「エスプレッソ式」陣営

コーヒーマシンには「エスプレッソ式」と「ドリップ式」という2つのタイプがあります。前者を採用しているのはファミリーマートとローソン、後者がセブンイレブンになります。

コーヒー業界の定説では、「コーヒーが美味しく味わえるのはドリップ式」ということになっています。コンビニカウンターコーヒーにおいて後発組だったセブンイレブンは、コーヒー本来の美味しさを提供したくドリップ式を採用したのでしょう。

ただドリップ式のコーヒーマシンは、提供できるメニューが少ないという弱点があります。逆にエスプレッソ式のコーヒーマシンは多様なメニュー提案が可能で、ファミリーマートが提供しているフラッペシリーズ等はその典型的な成功事例です。

コンビニのカウンターコーヒーは、当初エスプレッソ式が主流となっていました。しかしセブンイレブンがドリップ式で提供するカフェラテを発売した後は、一気に形成が逆転。昨年度では、ドリップ式のシェアが52%となっています。エスプレッソ式を採用する陣営としては、セブンカフェにどんどん押しまくられて、かなりの危機感を抱いていたのでしょう。

そういう点でも、今回のマシン変更に伴う抽出時間の短縮化は、窮地に立たされているシェア争いで盛り返すきっかけとなるかもしれません。なによりも、朝のお客さん需要を考えると、提供時間の短縮というのは非常に面白い取組みですし、駅前・駅ナカの店舗では大いに受け入れられるでしょう。ローソンのマチカフェは他のチェーンとは異なり、店員がコーヒーを淹れて提供する方法を採用していますが、これを機に全店舗でセルフ式の提供方法に変更するかもしれません。

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