逮捕後、「いたずら動画の撮影と聞いていた」と語ったアイシャ容疑者(フェイスブックより)

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北朝鮮のミサイル関連のニュースは途切れることがないが、一方であの事件はすっかり忘れ去られてしまったようだ。今年2月13日にマレーシア・クアラルンプール国際空港のロビーで白昼堂々、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏が猛毒のVXガスで暗殺されてから、はや半年が過ぎた。

実行犯がふたりの若い女性という意外性もあり、当時は連日、事件の話題がメディアをにぎわせた。ベトナム人のドアン・ティ・フォン被告(28歳)とインドネシア人のシティ・アイシャ被告(25歳)は現在、クアラルンプールの警察施設に収監されている。

逮捕後の報道などによれば、ドアン被告はフェイスブックに動画や写真を投稿し、「あなたの隣で寝たい」などと書き込むネットアイドルだった。18歳から首都ハノイのナイトクラブやバー、風俗系の店でも働いていたという。

一方のアイシャ被告も、フェイスブックに派手な化粧で媚(こ)びたようなポーズや表情の写真を掲載。今年1月9日には、クアラルンプールで事件関係者と思われる北朝鮮系男性と一緒にいる動画がアップされていた。

両被告が最後に公の場に姿を現したのは、7月28日の裁判手続き。ここで、初公判が10月2日に開かれることがようやく決まったが、ふたりに発言の機会はなかった。

ふたりのうちアイシャ被告には弁護人や領事館員が頻繁に面会しており、収監中の様子が伝えられている。彼女はインドネシア・バンテン州に住む両親に手紙をよく出しているといい、そこには、

「私は元気。私のことを心配しないで体を大切にして。そして私のために祈って」「(傍聴のため)こちらに来る必要はないです。裁判は早く終わり帰宅できると信じている。愛を込めて」

と、無罪を信じる心境がつづられている。

犯行の首謀者らが逮捕されず北朝鮮に戻ったことから、この裁判は国際社会の指弾を浴び、インドネシアでも当初は「アイシャは国際的陰謀事件に巻き込まれた被害者だ」という同情論が先行した。だが、最近ではそうした報道もなくなり、人々の記憶から消えようとしている。彼女は公判で何を語るのだろうか。

(取材・文/PanAsiaNews 大塚智彦)