広島の森保監督が辞任。選手・クラブスタッフに大きな衝撃を与えた。(C) SOCCER DIGEST

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 17節の浦和戦に敗れ、今季二度目の4連敗を喫して17位で前半戦を折り返した。このタイミングで指揮官が申し出た辞意をクラブは慰留したものの受け入れ、4日に森保一監督の退任が発表された。
 
 この発表には違和感が残る。成績不振に陥った今季もずっと森保監督は「自分から辞めることはない」と断言していた。ただ「クラブの成長、発展の妨げになるなら辞める」という考え方は監督就任当初から根っこの部分にあった。『森保監督が辞意を申し出た』よりも、『クラブ側から契約解除を告げられて森保監督が受け入れた』の方が余程しっくりとくるが、いずれにしても「森保も無念だろうし、私たちも悔しい」と話した織田秀和社長にとっても苦渋の決断だったことは間違いない。
 
「非常に残念。5年で三回優勝させてくれ、クラブの栄光の歴史を作ってくれた。しかもクラブのレジェンド。そういう監督と契約を全うするのではなく契約の途中で別れなければいけない。森保には感謝しかない」と語った織田社長の言葉に偽りはないだろう。J創設期のチームを選手として支えたクラブ初めての生え抜き監督であり、クラブに初タイトルをもたらし、なおかつ5年間で三度もリーグ制覇を成し遂げた監督である。
 
 しかし、「お互いにプロとして危機感は常に持っていた」(織田社長)。どんなに栄光に彩られた過去があっても、常に結果に対する責任を負わなければいけないのが監督である。森保監督も「プロは結果がすべての世界」とコメントを発表している。2勝4分11敗で17位の降格圏に沈む現在、広島と森保監督に別れが訪れたことは「致し方ない」としか言いようがない。
 
 7月8日の横浜戦に向けたトレーニングを開始した同4日、織田社長は練習前にミーティングを行なって選手たちに監督退任を伝えた。
「ビックリしている選手もいたし、少し涙ぐむ選手もいた」
 
 チームに走った動揺は当然、大きい。そんななかで織田社長は選手たちに語り掛けた。
 
「責任は森保だけじゃなくてわれわれフロントにもあるし選手にもあるが、時計の針をもう戻すわけにはいかない。これからどうしないといけないかと言ったら、本当に死に物狂いで勝点を稼いで森保に恩返しをするしかない」
 
 時計の針はもう戻せないのだ。そして同時に、止めることもできない。7月8日の横浜戦は横内昭展ヘッドコーチが監督として暫定的に指揮を執って臨むことが決まり、クラブはサマーブレイク明けの同26日のルヴァンカップ・FC東京戦から指揮を執れるよう新監督の人選、交渉を開始した。
 
 昨年まで選手として、森保監督とともに戦ってきた森粼浩司アンバサダーは「非常に残念」と表情を歪め、後半戦に挑むクラブ、選手、自分自身に向けて語った。
 
「監督だけの責任ではない。クラブとして森保監督が退任されることになった意味を考えていくべきだし、選手にはもう一度奮い立ってやってほしい。それが森保監督の望むことだとも思う。まずJ1残留できるようにクラブのスタッフもサポーターの方々も含めて、ひとつになってやっていかないといけない。僕も経験しましたけどシーズン中の監督交代は難しい。ただ変れるチャンスだと思うし、一人ひとりが“クラブのために”っていう想いを強く持ってやっていければ。僕自身もそういう想いをしっかりと持って、できる限りのサポートをしていきたい」
 
 誰よりもクラブへの想いを強く持って指揮を執ってきた森保監督が成績不振の責任をとってクラブを去った。その意味をクラブに関わる一人ひとりが受け止め、なにができるのかを考えなければいけない。
 
取材・文:寺田弘幸(フリーライター)