序盤戦のゴールラッシュは鳴りを潜めたものの、他選手にはないセンスと技術を持つ本田の存在感は相変わらず大きいものがある。ピッチ上での充実は、ピッチ外でのさらなるクラブへの貢献にもつながる。 (C) SOCCER DIGEST

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 ミランは経済的な利益を得るために本田圭佑を獲得した――。
 
 昨シーズンのある時期まで、誰もがそう信じて疑わなかった。なかなかピッチで結果を出せない本田を見て、サポーターもイタリア・メディアの多くも、彼が広告塔としてミラノにやってきたと思ったのだ。
 
 確かに本田は、大きな金を確実に生み出し、厳しい財政状況にあるミランを助ける金の卵である。それは移籍前から分かっていたことで、チームがそのために選手を獲ったとしても決して非常識なことではない。
 
 ただ、ミラニスタたちは不服だった。なぜなら、ミランは何か月も前から本田を熱望しており、その理由は決して経済的なものではなくテクニカル的なものだと、何度もサポーターたちに繰り返し言ってきたからだ。本田の入団記者会見の場でも、ガッリアーニははっきりと名言している。
 
「本田がピッチの外でも大きな存在感を持っている選手であることは否定しない。しかし我々が彼を獲ったのは、純粋に選手としての才能を買ってのことだ」
 
 ところが、周知の通り本田は最初の数か月、イタリア・サッカーに慣れるのに非常に苦労をしてしまった。このため多くの者は、本田の獲得は、主にアジアに向けたマーケティングのためだったと信じ込んでしまったのである。購買意欲の高い消費者と金持ち企業のいる、アジアのマーケットに参入するための糸口に過ぎなかったのだと……。
 
 しかし、本田がイタリアに来てちょうど1年が経つ今、我々はこの日本人がそれだけの存在ではないことを知っている。開幕当初のミランを牽引していたのは、他ならぬ本田だった。
 
 そこで疑問が生じてくる。本田の価値がより高いのは、経済面とテクニカル面、一体どちらなのだろうか?
 
 最初に答えを言ってしまえば、“両方”というのが正しいだろう。「なんだ」と思われるかもしれないが、事実そうなのだから仕方がない。
 
 ピッチでの本田の価値は、これまで毎週語ってきたから改めて説明するまでもないだろう。今シーズンは最初からまるで別人のように活躍しており、チームへの貢献度は非常に高い。一方、経済面においても、ミランのマーケティングを担うバルバラ・ベルルスコーニを大満足させる結果を出している。
 
 ここで少し話は脱線するが、日本の皆さんもよく耳にしているであろうバルバラ女史について触れておこう。
 
 バルバラはシルビオ・ベルルスコーニ・オーナーの次女(上に腹違いの姉と兄、下に妹と弟がいる)。大学で哲学を専攻した後、2011年にミランの組織に入り、13年12月には役員会で代表取締役と副会長に就任している。
 
 彼女の主な役割は、ミランのマーケティングを推進することで、新オフィスビル「カーサ・ミラン」落成という功績を立てた後、現在はミランだけの新スタジアム建設を計画中である(このプロジェクトが成功すると、サン・シーロはインテルだけが使うことになる)。
 
 まだ30歳と若いものの、カーサ・ミランを形にしたことからも、自分の考えをどのように実現化したらいいかを心得ているように思える。
 さて、この「レディB」ことバルバラが、もうひとりの副会長アドリアーノ・ガッリアーニと犬猿の中にあることもすっかり有名である。テクニカル部門の責任者であるガッリアーニに対抗して、あえて「本田はスポンサーをチームに呼び寄せる、磁石のような存在だ」と公言しているのだ。
 
 バルバラは、世界のどこでもミランのマークが見られるようになることを目標にしている。これまで勝ち取ってきた18のインターナショナルなタイトルのおかげもあって、ミランはマーケティングで、年間約8000万ユーロの利益を上げている。これほどのチームは、イタリアには存在しない。